日々の恐怖 7月6日 お守り(10)
諸事情があり、母が単身こちらへ半分遊び半分仕事でやってきました。
今回は言われずとも公共交通機関を使って来たので、私はからかい混じりに、
「 この前ので、車こりたでしょ?」
と言いました。
すると母は、急に神妙な顔になったのです。
「 M(私)さん、あのね。
あの日、車で帰った日ね。
お母さん達、2回死にかけたの。」
意を決すると言った顔をする母に対し、私はたぶんポカンとした顔をしていたと思います。
母は飲みかけのお茶で口を湿らしてから、あの日の帰り道であったことを話してくれました。
帰り道の寄り道は最早恒例行事だとばかりに、母は高速には乗らず途中までは下の道を行くことにしたそうです。
季節は紅葉真っ盛りの秋でしたから、良さそうな山があれば少し入って紅葉狩りと洒落込む算段でした。
カーナビと景色を見ながら、時々カーナビを裏切りつつ、広くて良さげな車のまま進める山道入口を見つけたので、一路素敵な景色を求め入山したそうです。
私は思わず、
「 それ山道メッチャ細くなるヤツでしょ。」
と口走りました。
「 なんでわかったの?」
「 ネットで見たし、よくあるヤツでしょ。」
「 まあ、そうなの?
じゃあ、お母さんが体験したのは良くあることなのね!」
「 いや、良くはないでしょ。
そもそも仕方なく知らない山道を行くならともかく、嬉々として行くのはオカシイ。」
これだから無駄に活力の溢れる人はイヤなんだと思いつつ、私は先を促しました。
最初は、綺麗な紅葉に3人ともワクワク顔で、知ってる山野草を見つけてはキャイキャイし、上を見上げては秋空と黄葉のコントラストに目を奪われていたそうです。
そして、いつの間にか道はコンクリートではなくなり、石がゴロゴロと転がる悪路となっていました。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ