日々の恐怖 3月21日 心肺蘇生(2)
患者さんのご家族に事情を説明し、開放されたのは深夜の2時を回った頃だったといいます。
“ あと5分・・・、あと5分続けていれば、心拍が戻ったんじゃないか・・・・・。”
無駄だと頭では分かっていても、ご家族の嘆きを見たり、実際に命が掌から滑り落ちる感覚を味わうと、そう思わざるを得ません。
Aは疲れた身体を引き摺り、当直室へ戻りました。
疲れてはいるのですが、一向に眠気は訪れません。
しばらく、ぼうっとベッドに腰掛けていると、
” トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・。”
当直室のドアをノックする音が響きました。
「 そりゃあ、不思議に思ったよ、なんだ、こんな時間に、って・・・・。」
当直室にはナースセンターからの直通電話があり、普通はそこから連絡が来るものです。
こんな深夜に当直室を訪れる人間などいないはずです。
怪訝に思いながらもAは返事をしながらドアを開けたそうです。
消灯時間を過ぎた、薄暗い、病院の廊下・・・・。
そこには誰の姿も無く、どこかに隠れた様子もありませんでした。
「 おかしいなぁと思ったけど、どうしようもない。」
Aはドアを閉め、再びベッドに腰を降ろしました。
すると、
” トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・。”
と、またノックの音。
出ても、誰もいない。
さすがに気味が悪くなって、Aは三回目のノックは無視していたそうです。
そして、閉まったドアを見つめながら、
” トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・、トントン・・・。”
いつまでも続くのではないかと思うほど、ノックは続きました。
「 そのノックな、きっかり、5分続いた。」
患者さんが恨み言を言いに来たのか、お別れを言いに来たのか、それは分からないと言っていました。
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