日々の恐怖 3月25日 村岡君(1)
それは10月も終わりに近づいた放課後のことです。
私たちは文化祭の準備で、かなり遅くまで教室に残り展示物を作る作業をしていました。
朝からの雨はいつの間にか霧雨に変わり、夕方なのにまるで夜のような暗さでした。
時々遠くで雷鳴が轟き、当たり一面を一瞬明るく照らします。
私の故郷はかなりの田舎で、中学校も山を切り開いたその中にあり、校庭を挟んで小さな町が広がり、山手側は竹林になっています。
雷光のたびに竹林が照らし出され、うっそうとした奥のほうまでの広がりが見えます。
私は親友の村岡君と、紙を切ってセロファンに付ける作業をしていました。
すると、村岡君が竹林を見て手を止めました。
しばらくして、
「 何や?あの女・・・?」
と私に問いかけます。
視線を上げて竹林の方を見ますが、女性はおろか特に変わったものも見えません。
「 別になんもないで・・・?」
私の言葉に村岡君は、
「 いや、変な女がおる。
かがんで地面を見つめとる。」
と言いました。
村岡君の話では、古い服装の若い女性が竹林の中で何かを探しているように見える、と言うのです。
でも私には何も見えません。
見えるのは霧雨と、もやがかった一瞬明るくなる竹林だけです。
「 やっぱり見えへんで・・・。」
私たちの会話を聞いてクラスメートが何人か集まって来ました。
竹林の女性が見える人もいれば、見えない人もいます。
見えると言う人たちは皆ひどく怖がっていました。
体が透けている、と言うのです。
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