日々の恐怖 1月3日 鏡(3)
そのうちにジイちゃんの容態が悪くなって、市内の大学病院に入院した。
死ぬ前はかなり意識が朦朧としてたんだが、いよいよ臨終というときに、酸素マスクを自分で外して、
「 あの鏡、俺の四十九日が終わるまで片づけるなよ。」
みたいなことを言った。
それでジイちゃんの葬式が終わって四十九日も過ぎて、さて鏡を片づけようかとしたときに、嫁が変なことを言い出した。
「 あの鏡、ほんとうに片づけても大丈夫かしら・・・?」
って。
「 えー、何で?」
「 私、こないだ10時ころに外に出たときに見ちゃったのよ。」
「 何を?」
「 うずくまったままの状態で、あの鏡の前まで歩いてきた女がいたのよ。」
「 どんな女?」
「 それが全体的に薄汚れてボロボロの服を着た若い女で、頭にはスカーフをかぶってた。
その女が鏡を覗き込むと、
『 ヒッ!』
という声を出してパッと消えたの。」
「 どういうこと?」
「 あの鏡がその女を追い返したんじゃないかと思う。
おじいちゃんは、何か知ってたんじゃないかしら。」
不審に思って、その女の正体を調べようと古いアルバムとか引っ張り出しても、ジイちゃんの若い頃の写真なんて1枚もない。
そして、当然その女も誰だか分からず。
親戚も知らないって言うし、ジイちゃんは男だけの3人兄弟で、その人たちもみんな死んでいる。
嫁が言うには、庭に来た女は笠置シヅ子みたいな終戦直後の服装だったらしい。
まあ、こんなことがあって、鏡はしばらくそのままにしておいて、こないだやっと撤去した。
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