大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の出来事 6月15日 佐川君からの手紙

2018-06-15 09:33:33 | A,日々の出来事_








  日々の出来事 6月15日 佐川君からの手紙







 今日は、パリ人肉事件の佐川一政が逮捕された日です。(1981年6月15日)
フランス、ソルボンヌ大学大学院の博士課程を終了するため留学していた佐川一政は、同じ大学に留学していたオランダ人女性(当時25歳)をライフル銃で射殺し、フライパンなどで調理して食べました。
 佐川一政は、残りの遺体をブローニュの森にある湖に遺棄したところを通行人が目撃、警察に連絡し、1981年6月15日逮捕に至りました。
裁判では犯行を認めましたが、心身喪失であったとして不起訴処分で無罪となり、フランスのアンリ・コラン精神病院に無期入院の判定が下りました。




「 パク、パク、パク、うまい。」
『 ピンポ~ン。』
「 !」
『 ピンポ~ン。』
「 もう、食事中なのに・・。」
『 ピンポ~ン。』
「 パク、パク、パク。」
『 ピンポ~ン。』
「 もう、うるさいなァ~。」
『 ピンポ~ン。』
「 ちょっと、これを片付けて・・。」
『 ピンポ~ン。』
「 はい、ちょっと待って下さい。
 いま、ドアを開けます。」

“ ガチャ。”

『 速達です。』
「 えっと、ハンコ、ここ押しますね。」
『 ありがとうございました。』
「 はい、ご苦労さんです。」

“ ガチャ。”

「 それじゃ、続きを食べよう。
 パク、パク、パク、うまいなァ~。
 えっと、速達は・・・。
 あ、佐川君からの手紙か。」

唐十郎は、昼食にチャーハンを食べていたのです。
( 唐十郎は、「佐川君からの手紙」(昭和57年11月)で第88回芥川賞を受賞しました。)




 その後、佐川一政は1984年に日本へ帰国し、精神病院である東京都立松沢病院に入院した。
同病院での診察では、佐川は人肉食の性癖は持っておらず、フランス警察に対する欺瞞であったという結論であった。
 副院長の金子嗣郎は、“佐川は精神病ではなく人格障害であり、刑事責任を問われるべきであり、フランスの病院は佐川が1歳の時に患った腸炎を脳炎と取り違えて、それで誤った判断を下したのではないか”としている。
警察も全く同様の考えであり、佐川を逮捕して再び裁判にかける方針であったが、フランス警察が不起訴処分になった者の捜査資料を引き渡す事はできないとして拒否した。
 同院を15ヶ月で退院した佐川は、マスコミに有名人として扱われ、小説家になったが、日本の病院と警察がそろって刑事責任を追及すべきという方針であったのに、フランス警察の方針によりそれが不可能になったことから、社会的制裁を受けるべきだという世論が起きた。
両親もこの事件の結果、父親は会社を退職することになり、母親は神経症の病気を患ったという。
 社会復帰後、1989年の宮崎勤逮捕では猟奇犯罪の理解者としてマスコミの寵児となり、忙しい時は月刊誌や夕刊紙など4紙誌に連載を持っていた。
印税収入だけで100万円に達した月があった他、講演やトークショーにも出演して稼いでいた。
また、1本30万円のギャラでアダルトビデオに出演していたこともある。
 しかし2001年頃までにはほとんどの仕事が途絶え、生活に困って闇金に手を出すようになる。
 「全然ぼくは反省しなくて、相変わらず白人女性と付き合う、それにはお金が要るというんで、初めのうちは親父の財布から万札を一度抜いたぐらいですけど、だんだんデッドヒートして、弟のチェロを売り飛ばしたり、絵を売り飛ばしたり、最後にはクレジットカードまで使って」と自ら語っている。
1993年に知り合ったドイツ人男性から白人女性2名を紹介され、肉体関係を持たぬまま金蔓として利用され、共に海外旅行を楽しんだが、やがて佐川の過去が露見したために絶交された。
 2005年1月4日に父が、次いで翌日に母が死去。
当時、佐川は闇金の取立てに追われて千葉県に逃げていたため両親の死に目に会えず、社葬という理由で葬儀への出席も断られた。
 その後、親の遺産で借金などを返し、2005年4月に公団住宅に転居。
千葉県に住んでいた頃は持病の糖尿病が悪化し、生活保護を受けていたが、2006年のインタビューでは「現在は受けていません」と語っている。
 過去には500通ほどの履歴書を書き、会社回りをしたものの、ことごとく採用を拒否されているという。
一度だけ「本名で応募してくる根性が気に入った」と採用決定された語学学校もあったが、職員たちの反対を受けて不採用となる。
小説を執筆しているが、どこの出版社からも取り上げられないと語っている。
 2010年のインタビューでは「もう白人女性は卒業した。今は日本人女性、特に沖縄の女性、ちゅらさん。食欲を感じます」と発言し、好きな女優に矢田亜希子、上戸彩たちを挙げている。











     佐川一政と鉄拳






















☆今日の壺々話













川柳川柳







 佐川一政が、松沢病院退院後、ある落語会にゲストとして出席した。
大喜利に出演するためである。
楽屋は佐川が一歩足を踏み入れてから、重苦しい雰囲気に包まれた。
あたかも楽屋全員が声を潜めて佐川の行動を監視するようである。
 テーブルに置かれた差し入れのお菓子を前にして、佐川が「これ、私も食べてもいいですか?」と言葉を発すれば、全員がビクリと反応した。
佐川が「この肉、固すぎてあまりうまくないですねえ」と感想を述べたら、またビクリと反応した。
異常にピリピリした空気となっていた。
 この会の出演者の一人で、奇行で知られる落語家の川柳川柳(六代目圓生の二番弟子)が楽屋に到着した。
そのようないやな雰囲気を知らない川柳は、初対面の佐川を見るなり、肩を叩いて明るく声をかけた。

「 よぉ! 食道楽(くいどうらく)!!」



















    ヘンゼルとグレーテル





 ご存知、グリム童話のヘンゼルとグレーテルは、お子様向けに書き直してあります。
それじゃ、本来はどう言うお話でしょうか?
ここで、一発、元祖のお話を・・・。



   グリム童話の“ヘンゼルとグレーテル”


 ドイツでのある時代のお話です。
まったくもってサエない男(きこり)と、自分のことしか考えていない女がいます。
女は男と結婚し、子ども二人に恵まれました。(兄妹)
 しかし生活は裕福ではありませんでした。
そもそもこの母親は自分が一番可愛いタイプなのでね、子どもなんて労働力とか商品とかにしか見えてないみたいですよ。
 そしてある年、物凄い飢饉にみまわれます。
もとから貧乏なこの家族、さらに切羽詰まった状態。
ある夜、子どもが寝た後に母親は父親に切り出します。

「 このままじゃ私ら全員飢え死にだよ。
こんど森に出掛けたときに、こいつら口減らしに捨ててこようよ。.」

( いや、主に私がハラ減ってる。)

 駄目夫は逆らえません。
なにが良くてこんな女と結婚したのか知りませんが、ほんとに駄目なやつです。(でもなんて怖ろしいんだ外国!とか考えてはいけません。日本も昔は同じようなことがありましたからね)

「 そそそ、そうだね。」

(きっと僕のことも考えてくれているんだ、僕もここ数日物食べてないから働いてててもフラフラなのを見て切り出してくれたんだ。)←とんだお目出度いヤツです。

実は、この話をお腹が減ってて眠れなかった兄ヘンゼルが聞いてしまっていたのです。

「 うわ、サイテーの親だよまったく。こりゃ自分の身は自分で守れと言うやつかね。」

そう思ったヘンゼルはそっと布団を抜けだすと裏戸から外へ行き、ポケットに白い小石を沢山拾ってきました。

「 グレーテル(妹)は僕が守らなきゃ、僕はお兄ちゃんだからな。」

何も知らないグレーテルはすやすやと眠っていました。

 そして翌朝、両親は子どもをつれて森の深くへと、わざと細い道を通ってわけいっていきました。

「 森の中なら、まだキノコや木の実があるかもしれないからね、あたしらが探してくる間、ここの焚き火でまっていてちょうだい。」

両親は子どもをそのまま放置して家に帰りました。

(育児放棄は罪になります。)

日が落ち、夜になっても両親は焚き火の所に帰ってきません。
何も知らないグレーテルは不安そうにしています。
でも大丈夫。
ヘンゼルはグレーテルに言います。

「 きっと先に帰ったんだよ、僕が来るとき白い石を落としてきたから道はわかる。
そろそろ僕らも帰ろう。」

道がわかったって暗い森のなかは危険なですがね。
まあそこでじっとしているわけにもいかず、月明かりでピカピカひかる石を頼りに二人は無事に家に帰り着きました。
家に着いた二人をいまいましそうに見ながらも、しかたなく家に入れる母親。

「 ちっ、明日からはこいつらのぶんの食事も食べられると思ってたのに・・。」

みたいな、ね。
 あからさまに手を下すのは嫌だけど、

「 森に行ったらはぐれちまって、うううっ・・・。」

みたいに言ってまわりに可哀想がられて善人ぶりたいという嫌な性格が滲みだしていますねえ。
 父親は罪悪感を感じていたので気まずそうな顔をしています、が、罪悪感感じようが何だろうが同罪だという話しだが、馬鹿者。

 数日後の深夜、懲りない両親はまた同じように「森で捨てて来ちゃおう計画」を無防備に話しています。
それを聞いたヘンゼルはまた白い小石を集めてこようと思うのですが、なんと!裏戸には外からかんぬきが下ろされていて扉が開きません。
表から出ては両親にばれてしまう。
なすすべもなく、ヘンゼルはまんじりともできぬまま夜をあかします。
 実は前回子ども達が帰ってきた後、母親はどうして帰って来れたのかと疑問に思いちょっと調べた結果、白い小石がてんてんと落ちているのを見て「ハハーン」と気が付いたワケなんですね。
だから今回はヘンゼルが外に出られないように先手を打って置いたわけです。
 そんな知恵を廻らせたり小細工するくらいなら、その悪知恵パワーをもちょっと建設的な方面に使えよと思うところですが、まあ悪役というのはこんなもんです。
なんにせよ、ヘンゼルが裏戸から出られないでいる物音を聞いて、ニヤニヤニヤニヤしていたんでしょうね。
おそらく母親はちょっと精神的に病んでると思います。

 翌朝、また森の奥深くに連れて行かれた子ども達。
今度は小癪なことをしないようにと用心して、子ども達を監視しながら奥へ進みます。
ホント病気です。
 また森の奧に置いていかれて、今度は道標もありません。
不安になってしくしくと泣きだすグレーテルの手をにぎり、ヘンゼルはしかたなくやみくもに森のなかを彷徨いあるきました。
 狼の遠吠えが聞こえるたびに二人でじっと縮こまってビクビクと様子を見ます。
途中食べられそうな木の実があれば食べてみましたが、どれもすっぱかったり渋かったりで食べられませんでした。っていうか、毒あったらどうするのとか思うんですが、そこは子どもだからいたしかたない。
 二人とも足が棒のようになって、もう一歩も歩けない、と思ったときでした。
どこからか良い香がするではないですか。甘い、甘~い香り。
匂いをたどりながらフラフラと歩いていくと、目の前にちいさな綺麗な色のものが落ちているのが目に入りました。
手に取ってみると、甘い香りがします。
勇気を出して食べてみると、それはジェリービーンズではないですか!

(よい子は真似しては行けません。
不審な物が落ちていた場合はすみやかに警察に届け出てください。)

「 グレーテル、ジェリービーンズだ!」

そもそも貧しかったあの家庭で二人がジェリービーンズを「知っていたか」さだかではありませんが、ともあれそれはとても美味しかったのです。
 二人はひとつ、またひとつとたどって食べながら夢中で前に進みました。
気が付くと二人は森のなかぽっかりとあいた空き地にでていました。
そしてそのまん中に「それ」を発見したのです。

「 お兄ちゃん、あれ、なあに?」
「 お菓子の家だ!!」

ヘンゼルはかけよると壁に手を伸ばしました。
 壁はふわふわのスポンジケーキで出来ており、クリームが層状になっています。
あまりの美味しさとそれまでの飢えに我をも忘れて貪り食うヘンゼル。
ちょっと上記小石のくだりの知的さとはかけはなれている気もしますがキニシナイ。
 最初はそんな兄の様子を心配そうに見ていたグレーテルですが、おずおずと自分も近付くと扉のはじっこをちょっと割り取ると口に運んでみました。
初めて食べる味でした。甘く口の中でとろっと溶けるチョコレートにだんだんとまわりのことも目に入らなくなってしまいました。
そうして何者かが背後に回ったのにも気が付かずに貪り続けた二人は、頭にガツンと一発くらって気絶してしまいました。
 夢中になりすぎです。
うかつでした。
よい子の皆さんは他人様の物を無断で拝借してはいけません。
またそもそも殴るという行為がいけないことは当たり前ですが、ことさら頭は危険です。たいして強く撲たなくても死亡することがあります。
まただれかが撲たれたり転ぶなりして頭を打ったようなことがある場合には、頭を動かさないように安全を確保し、すぐに救急車を呼んでください。内出血などしていた場合大変なことになります。

 さて、なにかが煮える音と、シャコシャコという妙な音でグレーテルは目を覚ましました。
目が覚めると板張りの床に転がされています。

「 目が覚めたのかい・・?」

しわがれた声にビクッと身を起こすグレーテル。
声の方を見ると枯木のような老婆が包丁のような物を研いでいるところでした。

「 お前達、まんまとひっかかったのさ。
あの家は、お前達のようなものを誘き寄せるために、あたしが作ったエサなのさ。」

くっくっ、と笑う老婆は包丁をギラリとグレーテルにかざして見せました。

(だったら最初からお前が自分で食べる物つくっとけよとかそういうツッコミはナシです。老婆は「子どもを食べる」のが好きなカニバリストなんですから。)

グレーテルは怯えた目で老婆を見つめます。
老婆の目は白くにごり、見えないようでした。

(白内障ですかね?)

「 お前はまだちっこいから、あんまり食べるところが無さそうだねえ。
まずはあの坊主からいただくとするよ。
でもまだまだ痩せててまずそうだ。
豚のようにまるまると太らせてから食べるのさ、ヒッヒッヒッ。
あんたはあたしの手伝いをするんだよ、お兄ちゃんを捨てて1人で逃げられるのかい、お前を守ってきてくれたたった1人の兄を。」

 そう言われるとそれは物凄く悪いことのような気がしてグレーテルは老婆の言いなりになるしかありませんでした。
もとより、右も左もわからないような森のなか、狼もいるのに自分一人では何も出来ないことは幼いグレーテルにもよくわかっていたのです。
 グレーテルは老婆の言い付けを守りながら、牢屋にとじ込められたヘンゼルの元へ食事を運びました。
毎日あれこれと仕事をさせられ、機嫌を損ねると容赦なく木の杖で叩かれます。
グレーテルはだんだん深く物事を考えられなくなっていました。
鬱ですね。

(児童虐待はいけません!)

老婆は毎日一度、ヘンゼルの所に来ては「指をお出し」と言います。

「この指がまるまると太ったら、いいあんばいさね、ヒエッヒエッヒエッ。」

そう老婆が言うのを聞き、ヘンゼルは

“ 太ったらテラヤバス!”

とか思いました。
 しかしおなかは減る、食事は運ばれてくる。
逃げるにも体力が必要です。
ヘンゼルは日々、牢屋のなかで腹筋やスクワットをして鍛練しながらすごしました。
そして老婆が確認に来ると、食べた肉の骨を差しだしました。
 この頃はめっきり表情もなくなり言葉数も少なくなったグレーテルですが、早いうちに“老婆は目が見えないらしい”と聞いていたからです。
老婆はまんまと騙されていました。
ヘンゼルはグレーテルを、

「 絶対僕が助けるから、それまではおとなしく耐えていておくれ、必ず僕が守る。」

と日々元気づけていました。

(とっつかまってる身分で、助けるもくそもないんですがね。)

 グレーテルは最初のうちはメソメソと泣いていましたが、だんだんそれもなくなりしゃべることも少なくなりました。
ヘンゼルはそんなグレーテルが心配でしたがどうすることもできず、ただ、必ず連れだすからと繰りかえすだけでした。

 さてさて、ある日、老婆はしびれをきらして怒鳴りながら言いました。

「 まったく、いつまでたってもあのガキときたら太りゃしない!
もういいよ、さっさとくっちまおう。
お前はそっちのオーブンの火をつけな。
あたしゃスープの仕度をするよ。」

 老婆は暖炉の前でスープを煮込み始めました。
グレーテルは言われたようにオーブンに火を入れるために家の裏手へと回りました。
台所のオーブンの裏手、重い扉を開いてマキを入れます。
点火剤として藁も入れて火を付けようとしますが、湿っているのかうまくいきません。
そうこうしているうちに老婆が様子を見に来ました。

「 お前はなにをもたもたやってるんだい、ええ?」
「 火がつかなくて・・・。」
「 まったく使えないガキだよお前は。
これは、ちょっと湿っているのかね?」

そういうと老婆は一度表に戻っていくと、手に何かを持って戻ってきました。

「 これでつきが良くなる。」

そういうと油を藁にかけました。
そしてそのまま手に持っていた油の入った瓶をグレーテルに渡すと、

「 マッチを、およこし!」

といってオーブンの窯の前に屈みこむとマッチを擦り、奥の方に点火しました。
 ちらちらと燃え始める火を見ながら、グレーテルはなにか不思議な感覚にとらわれていました。
グレーテルの様子など気付かない老婆は、

「 もうちょっといるかね・・・?」

独り言を呟いて炎の様子を見ています。

「 その油を、ちょっとよこしな。」

そういってふり向こうとしたときでした。
グレーテルは瓶ごと老婆に油を叩き付けると、驚いた老婆がバランスを崩した瞬間、思いきり体当たりをしました。

「 ・・・・!!!」

声もなく老婆は窯の中に転がりこみます。
目が見えない老婆は何が起こったかわからずあわてて手を振りまわしますが、油をあびているのでみるみるうちに炎にまかれていきました。

「 ヒィィ!」

グレーテルは慌てふためく老婆を無表情な目でみやると、

「 ギィィィィ・・・。」

鈍い音をさせ重い扉を閉めてしまったのでした。

「 ギャァァァァァァァァァァ~~!」

その声にヘンゼルはハッとしました。

“ なんだ、この無気味なさけびは・・・?”

まもなく牢屋の前にグレーテルが現れました。

「 グレーテル!何があった?大丈夫かい?!」

あわてて声をかけるヘンゼルに、グレーテルは少し微笑んで答えました。

「 もう少しよ。」

そしてふいっとまた戻っていってしまいました。
何があったのかわからないヘンゼルは、ぼう然とグレーテルを見送るしかありませんでした。
 ヘンゼルの所から部屋にもどると、グレーテルはいつものように部屋の掃除をし台所をかたづけ、オーブンから煙が出なくなるまで待っていました。
やがてオーブンが冷めたのを確認すると、火かき棒を持って窯の扉を開きました。
火かき棒で炭のなかをさぐります。

“ カツン!”

なにか金属質の物が先に触れました。
それは老婆がいつも首から提げていたヘンゼルの牢屋のカギでした。
 グレーテルがカギで牢屋をあける間、ヘンゼルはその焼け爛れたようなカギの表面を見て心の中に嫌な物がひろがりましたが、それに触れてはいけないと思い気が付かなかったフリをしていました。
牢屋から出て部屋にたどりつき老婆がいないのを見て、さっきの嫌な考えが本当だったと確信しましたが、何も言わないことにしました。
 ヘンゼルは大きな袋に老婆の家の使えそうな物や宝石をつめこむと、グレーテルの手を取って笑顔でいいました。

「 さあ、帰ろう。」

グレーテルは心から嬉しそうな顔でにっこり微笑むと、深く頷きました。
途中何度か野宿をしながら森のはじを目差しました。
 正直あんな両親の元に返らなくとも良かったのですが他に知る場所もなく目標もなかったので、記憶のある方へと進みました。
両親がどんな反応を示すか不安もありましたが、なんならすぐそこを出て他の村に行けばいい。
 今はもう、ヘンゼルには怖い物などありませんでした。
食べる物も飲むものも十分持っている。
武器もある。
力も付いた。
 時々グレーテルのことが心配になって顔を覗き込むと、グレーテルはいつもにっこりと微笑み返すのでした。
そうして無事、家へとたどりつきました。
 しばらく見なかった間にずいぶんと寒々しい雰囲気になっていました。
ちょっと様子をうかがっていましたが、思いきって扉をノックしてみました。

“ キィィ・・・。”

すこしきしんだ音を立てて扉が開かれるとそこには、やつれた父親が立っていました。

「 お、おまえはヘンゼルかい?
グレーテルも一緒かッ。
よく、無事で・・・・。」

父親はぼろぼろと涙を流して二人をかきいだきました。

「 お母さんは・・?」

ヘンゼルは一番気になっていたことを訊ねました。

「 ああ、母さんは数日前、流行病で・・・・。」

グレーテルはクスッと笑うと言いました。

「 病気・・・、それじゃあ、食べられないわね。」


















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