日々の恐怖 3月9日 眼球4
詳しく言うと、そのクラブは新宿にあるちょっと高級なクラブです。
わたしなどが、とても行けるところではありません。
たまにみんなで謳いにいく、パセラってカラオケ店の近くです。
下り坂を下っていった途中で曲がってってかんじの道順です。
住宅街だか歓楽街だか、よくわからないような変な町並みになっていき、やがて目当てのクラブがあります。
営業時間外だっただけでなく、突然名指しでの訪問です。
しかし、店のちょっと怖そうな人がでてきて、追い返されてしまいました。
先輩に繋いで欲しいと頼みましたが、あまりいい返事は返って来ませんでした。
それでも仕事の合間を縫って連日行く間に、救いはその人の向こうにあるのが、とても悔しかった。
最後にはそのこわもてにしつこいと殴られました。
その瞬間に、ありのままをぶちまけてしまいましたよ。
そうしたら、こわもての方がね。
「 あんた、ひょっとしてソッチに用事があったのか・・・。」
っていうんですよ。
そっちって、どっちってかんじですが。
とにかくまあ、引き起こしてもらいました。
「 悪いな、雰囲気がなんか異様でさあ・・・・。」
そう言われながら店の中へと案内されました。
テーブルの縁に椅子がかけられている、まだ開店してもいない店内でした。
こわもてさんが彼女を呼んでくれました。
それで聞きました。
「 つかれてるって、言ったよね。
その意味を教えてほしい。」
すると、彼女は、
「 後ろに、立ってる。」
そう言いました。
それを聞いて、こわもてが一番ビビってました。
わたしは、もう覚悟できてましたから驚きませんでした。
「 わたしは何も悪いことしてない!」
主張するところは主張しましたよ。
「 相手はそう思ってないの。
かなり恨んでるように見える。」
もう、なんでの連呼ですよ。
そのうち口に出てきました。
「 なんで、なんで、なんでっ、なんでだっ!」
叫んで後ろを振り返っても誰もいません。
わたしの職場は、すごく大変な職場なんです。
足を引っ張られていては、やってけないんですよ。
真面目にやってきたのに。
なんで逆恨みかなんかしらないもので、邪魔されなくちゃいけないんです?
そのとき、彼女は言いました。
「 人間、生きていれば人を蹴落とすのよ。
わたしも、ここでナンバースリーの子を蹴落としてる。」
壁の天井際に並んだ写真の中で、三人だけポスターサイズになってました。
そのうちの一つが彼女でした。
そのときふっと気付いたんです。
わたしが課に入ったあと、やめていった先輩のことを。
わたしは彼女に聞きました。
「 名前とか、聞きだせる?」
「 無理、口の利けるような状態じゃない。」
「 状態じゃないって、どういう意味?」
「 死ぬ直前に一番思っていたことが、死後の主な感情になるの。
発狂と憎悪、今もわめき散らしてる。」
わたしは膝が震えました。
「 どうすればいい?」
「 相手への未練が無くなったら、よくなるかもしれない。」
そのとき、もう限界だと思いました。
彼女のアドバイスにしたがって、会社を去りました。
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