日々の恐怖 1月4日 ガキの頃の話 (3)
そんな俺らを気にも止めずSは、
「 あのおっさんが賽銭置きに来よったん辞めたんやろ。
あいつ、俺が盗みよるの見たから置きにくるん辞めたんやわ。」
Sによると最後の賽銭に有り付いた日、その日は五百円玉と十円玉が数枚。
「 まぁ、こんなもんか・・・・。」
と賽銭をくすねて駄菓子屋に向かうために山を下りようとした時、山の反対から男が登ってく
るのが見えた。
賽銭泥棒がバレたと思ったけど一向に男は神社に入ってくる気配もなく、ただじっとそこに
立ち止まっていただけだった。
何故、俺達に今まで黙ってたかと言うと、
” 誰もおっさんの気配に気付いてないことが怖かった。
みんなに確かめて、おっさんが自分にしか見えない存在だとしたら、それを認めるのは怖い。”
というようなことを言った。
Sの話を聞いて薄ら寒いものを感じ、皆がしばらく無口になった。
そんな空気を変えたのはまたしても、言い出しっぺのSだ。
「 でも、それからや。
賽銭なくなったの。
やっぱりあいつが賽銭置きに来よったけど、俺が盗みよるの見て置くのやめたんやろ?
だから、あいつは普通のおっさんや。
幽霊でもなんでもない。
あいつ近くに住んでるんちゃうか?
明日探しに行こうや!」
怖いもの知らずな俺たちの次なる遊びはおっさん探しに決まったとこで、その日は解散した。
ところが、その次の日から、
” いざおっさん探し!”
となるはずが、しばらく梅雨独特のシトシトした雨が続き、外出ができないまま数日が過ぎた
頃、言い出しっぺのSが急に熱を出して学校を休んだ。
弟Mによると、夏風邪だろうとの事で特に気にも止めなかったが、今思えばこの辺りからSの
奇行が始まったように思う。
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