日々の恐怖 6月8日 お守り(5)
実家に帰ってきて2日後、勤め先の病院で母が倒れました。
左足の膝から下が2倍以上に膨れ上がり、歩くことはおろか、立ち上がることすら出来なくなってしまったのです。
病名は蜂巣炎です。
それも早期発見したのにもかかわらずの劇症で、即日入院してしまいました。
入院して次の日、父と私は主治医に呼び出されました。
「 K(母)さんのことですが、あまり芳しくありません。
原因がわからないんです。」
「 え・・、あの、病原菌とか、検査結果は・・・・?」
「 出てきた膿をシャーレで培養してみましたけど、死滅したものばかりでした。
ちなみに、Kさんは最近転んだり傷をつくったりしませんでしたか?」
そう言われて、
” そういえば、引越しの手伝いに来たときに玄関でスッ転んでたっけ・・・。”
と思い至りました。
きっとそれだと思って主治医に言うと、
「 恐らくそのときできた傷口から病原体が入り込んだのでしょう。
病原体は不明ですが。」
とのことでした。
それから入院の日程が未定なことや、これからの治療法などを話し、最後に、先生は大変言いづらそうな顔で言いました。
「 このまま劇症が続くようなら、左足を切断します。」
めったに泣かない父が泣きました。
その横で私は、あの女性の神様が祭られているお社で母が引いた、あのお御籤を思い出していました。
”大病は治る”
そう書いてあるのを思い出したんです。
妙な確信の元に父を慰めた私は、主治医にその切断の話は母にするのかと聞きました。
すると主治医は苦笑いをしながら、
「 したんですけど・・・・。」
と、なにやら歯切れの悪い言い回しをしました。
「 現実味のない話ですからアレなんでしょうけど、Kさん、
『 あ、そうなんですか。
まあでも、たぶん大丈夫です。』
なんて言うんですよ。」
私は、
” あ・・、これは、母も治るという妙な確信をもってるな・・・。”
と思いました。
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