日々の恐怖 2月23日 子供
俺のうちは親父が地元企業に勤めていたから、生まれてから一度も引っ越しをしたことがなく、生まれた時から高校を卒業するまで18年間、同じ所に住んでいた。
家と同じ並びで4軒ほど離れた家に、爺さんが一人暮らしをしていた。
俺が大学進学で地元を離れる時もぴんぴんしてたから、実際はそれほど年じゃない初老の人で、子ども目線だから年寄りに見えたのかも知れない。
近所づきあいはあまりしない人だけど、偏屈ということもなくて普通だった。
爺さんの家は敷地の奥まった所に建ってて、前は小さな空き地みたいになっていた。
駐車スペースみたいな感じだが、車はなかった。
あとコンクリートやアスファルトで固めてもないから、夏は雑草が伸びて、たまに爺さんが草刈りをしていた。
親からは、
「 ご近所の人には挨拶しろ。」
と言われてて、爺さんも挨拶すれば返してくれた。
しかし、一つだけ普通じゃないことがあった。
1ヶ月に数回の割合で、家の窓や、あるいは家の前に立って、誰もいないその空き地に向かって、
「 出て行け!」
とか
「 出て行きなさい!」
と怒鳴っていることがあった。
しかもその時は一回じゃなく何度も怒鳴るし、普段はマトモで、たまに変になる人かと思っていた。
小学校の高学年のある日、学校帰りに角を曲がって、あとは家まで一直線という時、その出て行けと怒鳴っているのに出くわした。
出くわしたことは前にもあったし、
「 またか、やだな・・・・。」
と思いつつ通り過ぎようとした。
そうしたら何故かその時だけ、奥まった敷地の空きスペースに多くの子ども達がいるのがチラッと見えた。
俺は、
「 えっ?」
と思った。
見えたのは、その一瞬だったと思う。
そのとき、俺は怒鳴っている爺さんと眼が合った。
その眼を逸らした一瞬で子ども達は消えてしまった。
俺は訳も分からず、茫然と突っ立っていた。
覚えているのは、爺さんが突っ立っている俺に、
「 すまんな・・・。」
と言ったこと。
そう言ったときには、もう子どもたちは、既にどこへ行ったのか分からなく、いなくなっていた。
残念なことに、俺はその場を離れず見ていたらしいのに、子ども達がどんなだったのか、何故か記憶がない。
ただ、大勢の子ども達が爺さんの方を向いていたのが見えたことを覚えている。
その時の会話はこんな感じだった。
「 あの子らは、なに?」
「 わからない。
俺も見えるだけでどうにも出来ない。
ただ、ああやって強気で怒鳴りつけないと、家の中にも入ってくる。」
そう言われた時、ちょっとぞわっとした。
家に帰って話したら、お袋も知ってたし、仕事から帰ってきた親父も至って普通に、
「 見ちゃったか~、気にすんな~。
この辺に住んでる人は、みんな見てるから。
なんかの加減で見えたり、見えなかったりするんだけどな~。」
と言ったんでびっくりした。
だから、近所の人は、爺さんの奇行にも見える怒鳴り声を、誰もおかしいと言わず普通に接していたんだと思う。
でもうちの近所も、もっと広い範囲の地域でも、いっぱい子どもが死んだ事件とかはまったく聞いたことはないし、誰もそんなことがあったと知ってる人もいない。
その後、親父の退職を機に一家で引っ越ししたから、もうそこに戻ることは無いし、真相は今も分からないままの状態です。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ