日々の恐怖 5月6日 お参り(1)
Sさんの村では重病人が出ると、村人が寄り合って、夜に神社にお参りし回復祈願をするという風習があった。
30年近くも前の真冬の出来事である。
村人の一人が手術を受けることとなり、その晩 村でお参りをすることとなった。
その日、仕事で遅くなったSさんが、最終バスで村に帰り着いた頃には、辺りはすでに真っ暗になっていた。
家に向かって歩き始めたSさんは、通りの向こうから20~30人位の集団がこちらに向かって近付いて来るのに気がついた。
朝、母親からお参りがあることを聞いていたSさんは、特に不審と思わず、自宅と社への道が途中まで一緒ということもあり、立ち止まって列の後ろについた。
ただこの時、何となくではあるが、列の先頭を歩きたくないと思ったそうだ。
途中から列に加わったSさんに、誰も注意を払おうとしない。
集団は2列となり、昼間に降り積もった雪の中をゆっくりと進んで行った。
いつもならば、世間話の一つでもしながらにぎやかく進んでいくのに、この日に限って皆うなだれ、小さな声でお経のようなもの呟いている。
あまりの静かさに、Sさんは足音を立てるのすら憚られ、妙に息苦しい雰囲気を感じた。
“ お参りには母も参加しているはずだ・・・。”
Sさんは、最後尾から母親の姿を探してみた。
しかし、先頭にでもいるのか見あたらない。
周りの人も見覚えはあるのだが、どこの誰なのか判らない、それに何か引っ掛かる。
そのうち、列は社と家との分かれ道にさしかかった。
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