日々の恐怖 11月13日 黒っぽい
高校の頃電車通学で、当時同じ高校だった嫁と毎日一緒に通学してました。
ある日電車に乗り込んだら、すんごいイビキをかいてる薄汚いおじさんがいて、俺と嫁はそのおじさんの斜め向かいの席に座りました。
嫁がおじさんを目を皿のようにして見ていたので、
「 うるさいなら、車両を変わろうか?」
と提案しました。
すると、嫁は首をかしげながら、
「 あのおじさん、すこし黒くない?」
と言うのです。
確かに擦り切れた汚れた服は着ていましたが、別段黒いとは思わなかったので、そう伝えると、
「 そうではなくて、雰囲気というか、全体に黒っぽい。
目で見る見え方は普通なんだけど、何か黒っぽい。」
と言うのです。
私はちんぷんかんぷんでした。
電車はそのまま一時間ほど乗り続けて終点まで行くので、いつしか嫁は舟を漕いで眠っていました。
そして、終点についたので嫁を起こすと、目を覚ますなりおじさんの方を見て、
「 大変だ!この人死んじゃう!駅員さんを呼んで!」
と周りに叫んだのです。
「 いびきしてない!動かしちゃダメ!死んじゃう!」
と、そればかり言っていました。
終点の駅の側には大きな私立病院があったため、おじさんはそこに運ばれて行きました。
詳しいことは忘れましたが、脳内で出血が起きたりするとよくある症状で、眠っているように見えるので気付かれないことが多いと聞きました。
そのおじさんが助かったのかは解りません。
目の前で人が死にかけていること、それを嫁が良くわからない黒い雰囲気で見抜いたことが、不思議で仕方がありませんでした。
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