新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

階段紀行・フランス パリ編⑥ カフェ・ロトンド。栄光を見ずに病に倒れた若き画家の、通い続けたカフェの螺旋階段

2021-08-07 | 階段紀行・フランス

 パリ、モンパルナスでモディリアニと恋人ジャンヌの生涯をたどるリサーチをしたことがあった。その期間、何度も通ったのがモンパルナスのカフェ「ラ・ロトンド」だった。

 まだ売れない駆け出しの画家、しかしはちきれんばかりの野望を胸に秘めた青年モディリアニは、なけなしの金でロトンドのコーヒーを頼み、何杯も水をお代わりして時間を稼ぎながら、店のナプキンに客の似顔絵を描いてはその日の夕食代を稼ぐという日々を過ごしていた。

 そんな若者のエネルギーが染みついたテーブルに座り、

 モディリアニのレプリカ作品が飾られた壁を眺めながら、時間を過ごした。

 彼は画学校に通う少女ジャンヌ・エピュテルヌを見初め、何枚もの彼女の肖像画を描いた。そしてパリ画壇のヒーローに躍り出る寸前に死を迎えた。その若者の死を追いかけるように、若き妻ジャンヌもまた自らの命を絶った。

 そんな無残な最期のストーリーから気持ちを転換しようと、ふと斜め前を見ると、店の奥にはカーブを描いて上昇する螺旋階段。モディリアニの死は、まさに彼の人生の上り階段が用意されようとした、その直前だった。

 病によって断ち切られたモディリアニとジャンヌの無念の思いが、先の見えないあの階段にこもっているかのように思えた瞬間があった。

このリサーチ時期に宿泊したホテルは「オテル・デュ・ケ・ヴォルテール」。ボードレールがこのホテルで「惡の華」を執筆した歴史的なホテルだった。

そこにも落ち着いた階段が設置されていた。

 

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階段紀行・フランス パリ編⑤ デュモン教会の内陣と身廊を分ける階段には天女が舞っていた。

2021-08-03 | 階段紀行・フランス

パリの守護聖人である聖ジュヌヴィエーヴを祀った教会サンテティエンヌ・デュモン教会はパンテオンのすぐ近くにある。

 ここには非常に珍しい建築様式が残っている。「ジュベ」と呼ばれるもので、内陣と身廊との間に大きな仕切りが設けられている。幅約9m、アーチ状の仕切りだ。

 両脇には趣向を凝らした螺旋階段が付いている。

 近づいてみると、植物、花弁などをモチーフとした透かし彫りによる細工が丁寧に施されている。

 さらに、天を舞う天女の存在も確認することが出来る。

 仕切りのさらに上を見上げると、雄大なアーチが天井に曲線を描いて広がり、無限の空間を思わせるようだ。

 また、説教壇の階段も見つけた。それを必死に支える人物も発見。何かユーモラス。

 最後に、守護聖人ジュヌヴィエーヴの姿を拝んで教会を後にした。

 

 

 

 

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階段紀行・フランス パリ編④ ロダン美術館の作品群に囲まれた鉄の階段

2021-07-31 | 階段紀行・フランス

 彫刻の巨匠ロダンが晩年住まいとしていた邸宅が、今は美術館となっている。彼自身がこの建物を美術館とするよう計画したもので、ロダンの初期からの主要作品が一堂に会している。

 そうした作品群をつなぐ階段が美しい。

 白壁を背景として、黒々とした手すりが浮かび上がる印象的な設定に配置されている。

 壁面にも彫刻作品が飾られており、自然な流れの中で、階段を歩きながらの作品鑑賞も出来てしまう。

 ここには一時愛人関係にあったカミーユ・クローデルの作品も展示されていて、かつてロダンとカミーユの物語を取材するために何回もこの階段を上り下りしたことがあった。

 ここでは広い庭園にも作品が展示されている。この「カレーの市民」も見逃せない傑作だ。(同じ作品は上野の国立西洋美術館にもあるので、ご存知の方も多いはず)

 そうした作品をスケッチする若い女性たちの姿もあった。美術学校の生徒たちだった。

ロダンとカミーユの作品の中で、個人的に好きなものを1点ずつ紹介しよう。

まずは、ロダンの「大聖堂」。2つの手が合わさろうとしている。よく見ると。これは両方とも右手であることがわかる。つまり、2人の人間の手が組み合わさろうとしている、祈りの形だ。

 カミーユの作品「ワルツ」。タイトル通りワルツを踊る2人だが、女性の体は今にも崩れ落ちそうに傾いている。不安定な心の状態が全身で表現された作品だ。

 カミーユは愛したロダンの曖昧な態度に心を病み、数十年もの精神病院生活の後一人寂しくこの世から去って行った。

 

 

 

 

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階段紀行・フランス パリ編③ 神秘主義の画家ギュスターヴ・モローの館に残された、神秘の螺旋階段

2021-07-27 | 階段紀行・フランス

 

 象徴主義の画家であるギュスターヴ・モロー美術館に出かけた。

 モローが生前住んでいた館が、現在は美術館になっている。美術の国フランスでも初めての国立個人美術館としてオープンしたものだ。

 従って、館内にはモローが生活した部屋も残されていて、作品の展示スペースは晩年アトリエとして使っていた2階部分が使われていた。

 その2階から3階に通じる階段は、まるでモザイクのように複雑。

 繊細な装飾が施されたモニュメントのような工作物だ。

美術館として造られたものではないため、室内は少し薄暗いイメージだ。

 が、それだけに差し込む外光によってシルエットに形を変えた階段の姿は、まさにモローの作品群を象徴するかのように神秘的な香りが漂う。

 3階から見下ろすと、らせん状の階段が渦を巻くのが見える。

 この美術館の目玉は「出現」。聖書に登場する、サロメと彼女のリクエストによって首をはねられた洗礼者ヨハネ(の首)が対面するシーンだ。これを始めとしておびただしい肉筆のデッサンも所蔵されているので、是非じっくりと鑑賞されることをお勧めする。

 

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階段紀行・フランス パリ編② パリ・オペラ座の大階段。恍惚の高みに臨むような高揚感とともに。

2021-07-23 | 階段紀行・フランス

 パリ・オペラ座(オペラ・ガルニエ)。19世紀後半、ナポレオン3世指揮下オスマン知事が実践したパリ大改造の際、ランドマーク的建築として建造されたのがこのオペラ座だ。シャルル・ガルニエの設計で1875年に完成した。

 正面入口を入ると、大理石の双子柱に囲まれた高さ30mの大ホールに広々と設けられた階段が姿を現す。

 踏板は白大理石、手すりには赤と緑の大理石が使われ、豊かな色彩と豪華な装飾で形成されている。

 正面階段は、格別の幅を取っており、照明を受けてまぶしいくらいに光を跳ね返す。

 上り階段も1つだけではなく何か所か分かれて存在し、それぞれに気品を漂わせる。

 2階踊り場にもたっぷりスペースが設けられる。

 オペラ座の舞台には、パリを描いたシャガールの天井画「夢の花束」が掲げられ、バレリーナならば誰もが憧れるハレの場が用意されている。

 その栄光の場に向かって精進を続けてきたバレリーナたちの夢のステージが、この大階段のすぐ先に待ち構えている。

 そう、その1段1段毎に、あたかも私たち自身も、恍惚の高みに臨むかのような高揚感に胸をときめかせている自らに、気付くのかもしれない。

 また、2階には全面に金箔を施した壁面を持つ大広間がある。天井から吊り下げられたシャンデリアに照らされて室内全体が神々しく輝く様は、あの大階段を昇りつめた後に初めて味わうことの出来る幸福だ。

 

 

 

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