今回は古代ローマ時代の円形闘技場を使った階段観客席を紹介しよう。
北部イタリアの都市ヴェローナには、「ロミオとジュリエット」伝説と共にヨーロッパでも有数の巨大円形闘技場「アレーナ」がほぼ完全な形で残されていることで知られている。
その闘技場は、長径152m、幅128m、高さ30m。2万2千人の席が設置されており、毎年夏には野外オペラ祭が盛大に展開されている。
場内の観客席は見上げるような高さ。百段以上の階段席が絶壁のようにそびえていた。
多くの客席は階段状になっている。入退場の際にもこの階段を使うのだが、傾斜が結構きついので、上り下りは十分注意しないと大変だ。
少しアップしてみると、一番後方に大きなフェンスがあり、そこから階段が始まっている。
ここが造られたのは1世紀。外から見るとこの闘技場がそれほど高く見えないのに、中に入ると高低差の大きさに驚く。それは2000年もの歳月によって堆積した地層が周囲の土地を上昇させた結果だという。
ゼイゼイ言いながら最上段に上ると、遠く北の空にはアルプス山脈の白い峰々を望むことが出来た。
ある夏、ここで開かれた野外オペラを見に行った。開演は午後9時。その1時間くらい前から1番後方の、いわゆる天井桟敷に続々と観客が詰めかけてきた。
よく見ると、満員の天井桟敷席の下側はクラスが上がって、臨時の椅子席が設けられている。(私たちは奮発してアリーナ席を予約していた)
階段席の観客は、かなり狭いスペースに立ち見。しばしば歓声を上げながら開幕を待つ。
いよいよオペラが始まった。演目は「アイーダ」。大がかりな舞台セットが照明に照らされ、100人を超える出演者がずらりと登場して、絢爛豪華なドラマが始まった。
ドラマもクライマックスの達しようとした時、舞台後方の夜空に、満月の白い月が冴え冴えと上ってきた。野外劇ならではの効果満点の場面だった。
別の機会に訪れた時は、広場でクリスマスマーケットが開かれ、そこに流れ星が突き刺さるというスペクタクルな装置が造られていた。
また、同じヴェローナにあるカステルベッキオ美術館は、建築家カルロス・スカルパの改修によって古城に現代的な階段が設置された。