行進は市内各所をゆっくりと進む。次第に日が沈みミステリ(群像神輿)には照明が当てられた。
キリストは、自らが吊るされることになる十字架を担がされ、その重みに耐えながらゴルゴダの丘に向かってゆく。
行列にはロウソクを持った市民たちが続く。中には愁いを帯びた少女の姿も。
トゲのあるいばらの冠をかぶせられたキリスト。行列は広い中央通りを進んでゆく。このころにはすっかり夜も更けてきた。
ミステリの前後には音楽を奏でる楽団が続く。奏でられる音楽は悲しみを湛えたものになっていった。
そしてついにキリストは十字架に吊るされた。
傷心の聖母マリアは、ロウソクに囲まれた中を進む。悲痛な表情がろうそくの炎の中で揺れる。
ミステリを担ぐ人たち。長時間の行進で相当に疲れただろうが、それでも誰も弱音を吐かない。
ブラスバンドの人たちも様々。楽曲が街に流れ、市民たちも総出でその行進を見守っている。
それを追いかけるだけの私でも、さすがに疲れた。途中で行列を離れ、近くのトラットリアで夕食。そのままヴィットリア広場のホテルに戻った。
すると、しばらくして通りから音楽が聞こえてきた。ホテルの窓から見下ろすと、あの行列が観客とともにこの広場に到着していた。こうしてキリストの行進は夜を徹して続けられ、翌朝の8時に終了した。
この行進はキリスト教信者にとっては最大限に重要な行事となっていて、特にイタリア南部の街では、言ってみれば京都の祇園祭のような欠かせないもののようだ。私にとってもトラーパニの熱狂の1日は後々まで心に残るものとなった。