新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

ベルニーニとローマ⑪ ベルニーニの開いたバロックの世界が、ローマを「バロックの街」に変えていった。

2021-03-13 | ベルニーニとローマ

 ベルニーニはまた熱心なキリスト教信者でもあった。成長してから40年間、イエズス会の総本山であるジェズ教会に毎週欠かさずに通い、ミサに参加していた。

 そのジェズ教会の天井には、バロック絵画の典型ともいわれるフレスコ画が描かれている。ジョヴァンニ・バッティスタ・ガウッリ作「イエスの御名の勝利」。カトリックの教えが全世界に広がって行くというテーマだ。

 与えられたスペースからあちこちはみ出して、人物が天井全体を埋め尽くしている。

 人々が絡み合い、錯綜し、極端な遠近法も多用される。バロックとは「ゆがんだ真珠」の意味だが、ここではゆがみを通り越して、まさにぶっ飛んだといってもいいほどの絵だ。

バロックの絵をもう1点。サンティニャツィオ教会はイエズス会の創始者イグナチウス・ロヨラに捧げられた教会だ。

 中央に上昇して行くのが聖イグナチウス。

 巨大な天井に何本もの柱が立ち、幻の楼閣が宙に浮いている。聖イグナチウスを中心に、四隅に人の固まったポイントが、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカの4大陸を表現している。

仰視遠近法と呼ばれる絵画技法は、すべてが上へ上へと上昇して行く錯覚の世界を実現している。アンドレア・ボッツォの作品だ。

 こうしてベルニーニが開いたバロックの世界は絵画、彫刻、建築など芸術の分野に広く浸透していき、ひいては「バロックのローマ」を形成して行った。

 

 

 

 

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ベルニーニとローマ⑩ ナヴォーナ広場の大噴水にはベルニーニの嫉妬の像が!!??

2021-03-09 | ベルニーニとローマ

 噴水が出たところで、ベルニーニの手掛けた最大の噴水のあるナヴォーナ広場へ移動しよう。

 古代ローマ時代、円形競技場だった形をそっくり残したナヴォーナ広場は、15世紀に市場がカピトリーノの丘から移転してきて、すっかりローマ市民の集まる賑わいの場になっていた。

 そこに設置する噴水の製作を受けたベルニーニは、世界の四大河川(ドナウ=ヨーロッパ、ナイル=アフリカ、ガンジス=アジア、ラプラタ=アメリカ)の寓意像による噴水を完成させた。

 出来上がった噴水を見ると、ラプラタ川の寓意像は目の前の教会建物が「今にも崩れそう…」と怖がっているかのように手を伸ばしている。

 また、ナイル川の寓意像は頭から布をかぶっている。まるで前の教会の貧弱さに、「見ていられない」と顔をそむけているようだ。

 目の前にあるサンタニェーゼ教会は建築家ボッローミニの設計したもの。このころ、ローマ教皇はライバルであったボッローミニを重用し、ベルニーニへの仕事が激減していた。そんなことから、ベルニーニはかなり大げさに相手の建築を軽視、揶揄した、とされている。

 だが、よく調べてみると噴水の着工は1651年。教会着工は1652年で、このエピソードは後年の作り話ということになる。だが、ベルニーニの性格からも、いかにもありそうな話として伝わっている。

 いずれにしても、それぞれの像はダイナミックでかつ神秘性をも備えた、雄大な噴水に仕上がっている。

 さらに、ベルニーニはこの広場に「ムーア人の噴水」の改造をも手掛けて、広場全体をワンダーランドに仕上げてしまった。

 また、日本人観光客にとって最もポピュラーな噴水であるトレヴィの泉も、ベルニーニの影響を受けている。トレヴィの泉は1732年、コンペで選ばれたニコラ・サルヴィの設計で完成されたもの。その100年前の人間であるベルニーニとどう関係しているのか?

 実はこの噴水は1640年、ウルバヌス八世がベルニーニに制作を発注した。しかし設計の途中でウルバヌス八世が死去、計画は中止されてしまっていた。

 だが、ニコラ・サルヴィもベルニーニの計画していた構想を基本として完成させたとの説が有力だ。このように、ローマの観光をすれば街中のあちこちでほぼ必ずといっていいほどベルニーニの遺産に出会うことになる。

 

 

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ベルニーニとローマ⑨ ローマの北の入口ポポロ教会にも、スペイン広場前にも、ベルニーニの作品が並ぶ

2021-03-06 | ベルニーニとローマ

 次に、かつてはローマの北の入口であったポポロ広場に移動しよう。双子の教会のロケーションが美しいこの広場の一角にポポロ教会がある。

 その教会には教皇アレクサンドル七世のキージ礼拝堂があり、教皇から2つの彫刻の製作を任された。

 1つは「ハバスクと天使」。この彫刻は旧約聖書の物語をテーマにしている。主の使い(天使)が預言者ハバスクに対して「あなたの持っている食物をダニエルに与えよ」と命ずる。その穴にはライオンもいる危険な場所。天使は、ハバスクの髪をつかんでダニエルのいる穴に運ぶ。そこでハバスクがダニエルに食物を投ずる、というエピソードだ。

 ベルニーニはまず右側に、天使がハバスクの髪をつかんで運ぶ様を製作。

 次に、ひざまずいて神に感謝の祈りをするダニエルの像を左に制作した。これによってベルニーニは、礼拝堂全体の空間を物語の舞台に変化させてしまった。先のヴィットリオ教会の礼拝堂での仕掛けを、ここでも援用したわけだ。

 正確に、きっちりと仕上げられた造形の美しさ。大理石とは思えない質感の豊かさをも、ここから感じられる。

 なお、この教会にはバロック絵画の巨匠カラヴァッジョの出世作ともいえる「聖ペテロの殉教」などの作品もあり、ぜひ足を延ばすことをお勧めしたい。

 ポポロ広場から少し歩くと、「ローマの休日」でヘップバーンがアイスクリームを食べた場面で日本人にもおなじみの、スペイン広場がある。

 この広場の前にもベルニーニの作品がデンと展示されている。「バルカッチャの泉」。これはベルニーニが最初に手掛けた本格的噴水だ。船には、当時彼を重用してくれたウルバヌス八世の紋章が掲げられており、この船そのものが教皇を表現するものとも言われている。

 

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ベルニーニとローマ⑧ ベルニーニの彫刻は、甘美で妖しい恍惚の世界まで劇場空間として創り上げた

2021-03-02 | ベルニーニとローマ

次にベルニーニの残した「恍惚の像」に移ろう。

 テルミニ駅から地下鉄A線のレプブリカ(共和国広場)駅で下車してすぐ北にあるS・M・ヴィットリア教会に入る。

 主祭壇の左側礼拝堂に「聖テレジアの法悦」がある。

 聖テレジアは何回も神秘的な恍惚状態を経験したとされる修道女。その1場面を像として完成させたものだ。

 天上から降り注ぐ神秘の光を金色の棒で表現し、テレジアの半ば意識を失ったような夢と現実との境界線に彷徨う状況を、真っ白な大理石を使って掘り出している。

 また、礼拝堂全体を見渡すと、この恍惚の場面を両側のテラスから見つめる人たちがいる。この彫刻を注文した貴族の家族たちだ。こうして礼拝堂全体を劇場空間のように造り上げてしまったベルニーニの仕掛けに、唸らざるを得ない。

 もう1点の作品はトラステヴェレ地区のサンフランシスコ・ア・リーパ教会にある。テルミニ駅からならバスHでテヴェレ川を渡ってすぐのソンニーノ広場で下車、トラステヴェレ大通りから左手に曲がれば教会が見えて来る。

これが「ルドヴィカ・アルベルトーニ像」。

死の淵で苦しみながらも、父なる神との神聖な融合に歓喜する姿が、生々しくも甘美な世界ともとれる形で表現されている。

 こちらも白大理石で美しく、しばし見入ってしまった。

こうしてベルニーニは、勇壮なダビデ像から甘美なルドヴィカ像まで、さまざまな彫刻を様々な表現でこの世に送り出した。さらに、彼の活躍は続いてゆく。

 

 

 

 

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ベルニーニとローマ⑦ 3人の芸術家は「ダビデ」をきわめて対照的な表現で完成させた

2021-02-27 | ベルニーニとローマ

ボルゲーゼ美術館にはさらにもう1作「ダビデ」(1623~1623)もある。

「アポロとダフネ」製作中にこちらの製作も開始して、結果こちらが先に完成した作品。彼が24歳時のものだ。

 敵である巨人ゴリアテを倒そうと、つかんだ石を今まさに投げようとしている、力感にあふれた姿が圧倒的な迫力を表出している。

「ダビデ」は、これまでに何人もの芸術家によって仕上げられてきた。その中でも対照的な2つの作品と比べてみよう。

まずはミケランジェロのあまりにも有名な作品。こちらのダビデは、ゴリアテとの戦いに挑む直前。

 満々たる闘志を内に秘め、輝く瞳をきらめかしながら緊張の中に佇んでいる。

 一方、ドナテッロの作品は全く違っている。このダビデはすでに戦いを終えてしまっている。

 倒したゴリアテの首を足元に置いて、その興奮を徐々に冷ましつつ激動の時間から解放されようとしている状態だ。

同じダビデという題材を描くにしても、これほど対照的に表現された3体の作品を見比べることで、三人三様、それぞれの時代の代表的芸術家の凄さが際立つような気がする。

 

 

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