ある日の夕刻 モンパルナスタワーに上った
1972年に完成したこの超高層ビルは 高さ210mとパリでは飛び抜けて高い
ここで大都会の夕陽を見てみたい と思いついたためだ
海に沈む夕陽は 旅先で何度も目にしてきた
しかし都市の建築群のかなたに 沈んでゆく夕陽の姿を
何の障害物もなしに 見続けることはなかなかない
それがこのタワーからは 可能だと思ったからだ
展望台に上ると パリの街が一望できる
モンパルナスの丘の上に立つ サクレクール聖堂も
普段は見上げてきたが ここだと見下ろす角度に眺められてしまう
そのうちすき間なく建て込んだビル群が 次第に夕闇の中に沈んでゆき
眩しく輝いていた太陽が 刻々と朱色の球となって地平線に近づく
さっきまであれほど強い光を発していた球体が
もうまるでとろけるかのように 暗色の色彩に変化し
周囲の空を焦がしながら 静寂の中に没して行く
高みから見る都会の日没 それがこんなにも荘厳なものだとは
思いもよらなかった
そして海の日没と違って この瞬間の時刻を過ぎると
都会には喧騒の夜が幕を開けることも 改めて思い起こす時でもある