新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

バルジェッロ博物館でルネサンス美術の幕開けともいえる世界初の美術コンペ優勝作品を見る

2018-11-17 | フィレンツェ・バルジェッロ国立博物館

次にバルジェッロ国立博物館のダビデ以外の作品を見て行こう。

 ミケランジェロの「バッカス」。杯を手にして少し酔ったように不安定に立つバッカス。背後ではサティロスがブドウの房を食っている。

 放心の表情だが、一方で熱を感じさせる肉体が異彩を放っている。ミケランジェロの若き頃の作品だ。

 そのミケランジェロの胸像があった。ダニエーレ・ダ・ヴォルテッラの作品。見事に気難しい大芸術家の性格までを像に込めているかのように見える。

 「イサクの犠牲」の競作が、ここに収められている。1401年、世界初の美術コンペが行われた。フィレンツェ・サンジョヴァンニ洗礼堂の門扉製作者を決めるコンペ。多数の応募者の中からブルネレスキとギベルティの2人が1位になった。

 テーマの「イサクの犠牲」とは、旧約聖書に登場するエピソードで、神がイサクに対して神の指示を忠実に実行できるかどうかを試す1つの試練を与えた。「我が子を殺せ」と。イサクはそれを実行しようとする。その直前、天使が現れ、「あなたの忠誠心は証明された」と、その行為をやめさせる話だ。


 ギベルティは均整のとれた構図でそのレリーフを完成させた。

 一方ブルネレスキは飛ぶ天使のダイナミックさを強調した。

 いずれも甲乙つけがたく同時優勝。だが、ブルネレスキは受注を辞退、彫刻の道を離れローマで建築の修行に入る。
 後にブルネレスキはフィレンツェに戻り、街の象徴ともいうべきドゥオモの巨大なクーポラを、卓越した技術で完成させて、その名を後世に残すことになる。

 ジャンボローニャ「メルクリウス」。飛び立とうとするメルクリウスの躍動感は見事。もともとはローマのヴィラ・メディチの噴水に設置されていた。波しぶきの中でのこの像はさらに魅力的に見えたことだろう。

 後方からのアングルはその飛躍の感触が一層鮮明になる。

 ジャンボローニャ「彫刻の寓意」。ねじれねじれの彫刻を得意とした作者にしては珍しく素直に腰を下ろす女性像を作り上げた。

 すらりと伸びた長い手足が心地よい。彼の理想の女性像を作り上げたのではないかと思えてしまう。

 もう1点のジャンボローニャ。「ピサに対するフィレンツェの勝利」。
 タイトルの通り女性がフィレンツェの象徴で、押さえつけられているのがピサの象徴。一見優雅な女性像に見えるが実は戦いの後の勝敗を表すもの。ここではジャンボローニャのマニエリスムが生かされている。

 ドナテッロとデジデリオ・ダ・サンガッロ「洗礼者ジョヴァンニ」。聖者の落ち着きが伝わってくる。

 ドナテッロ「アモーレ」。ドナテッロ作品の中でもこれは全く異なった雰囲気だ。無防備な幼子のあどけなさを感じさせる。

 本当に駆け足でフィレンツェの美術館を回ってきた。こんな方法は邪道なのだが、日程の関係で無理をしてしまった。いつか、今度はゆっくりと暮らすようにフィレンツェの街に滞在してみたいものだ。

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ミケランジェロ作品より70年前、ダビデ像にドナテッロの妖しい陶酔を見た。バルジェッロ博物館

2018-11-13 | フィレンツェ・バルジェッロ国立博物館
 ‟フィレンツェ美術巡礼”の最後はバルジェッロ国立博物館。元は司法長官邸宅だったり監獄だったりした堅牢な建物は今、彫刻を中心とした博物館になっている。

 何といってもここではドナテッロの「ダビデ」が圧倒的な存在感を放っている。個人的には一押しの像だ。
 ゴリアテのと戦いを終えて勝利の余韻に浸るダビデ。右手に剣、もう一方の手は腰に当ててリラックスした姿勢で軽くうつむいている。
 これが第一印象だが、近づいてよく見るといろいろなものが見えてくる。

 左足元に、倒したゴリアテの生々しい首がある。死人の髭がダビデの指に絡みつく。

 ゴリアテががぶっていた兜の羽飾りは、ダビデの足にしなやかに寄り添うかのように上方に伸び、足の付け根まで届いている。

 洒落た帽子をかぶった顔は耽美的で、陶酔に浸るかのように冷たい微笑みが微かにうかがえる。

 これほどの静寂に包まれていながら、これほどに劇的でなまめかしい像があるだろうか!
 古代以来最初の全裸の男性像といわれる、ドナテッロの最高傑作だ。

 この像はその約70年後に登場するミケランジェロの「ダビデ」の先駆けとなる記念碑的作品といえるだろう。
 なお、ミケランジェロのダビデは敵の巨人ゴリアテとの戦いに臨む直前の緊張感みなぎる若者の姿だが、ドナテッロは戦いを終えたダビデ像。その緊張と緩和のシーンの違いもまた、面白い比較材料になっていると思う。


 なお、この博物館にはもう1つのダビデもある。ヴェロッキオ作「ダビデ」。こちらは健全で気鋭の若き戦士を感じさせるすっきりとした姿だ。

 こちらも足元にはゴリアテの首が置かれているが、決して生々しくはない。

 ヴェロッキオ工房では若き頃のレオナルド・ダ・ヴィンチが修行を始めていたが、そのレオナルドがモデルになっているこの作品は、滴るような美少年に仕上がっている。

 同じダビデ像でもこれほどにも違う作品になる。そんな比較が出来るのもフィレンツェという街ならではの楽しさだろう。
 
 

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