新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

パルマ④ コレッジョの優雅で甘美な世界。市民に慕われたマリア・ルイーザの統治がパルマに残したもの

2018-07-24 | イタリア・パルマ
 コレッジョの名作はまだまだあった。

 「聖母子と聖ヒエロニムス、マグダラのマリア」。

 コレッジョの絵に登場する人物はどれも優美で優しい。

 近寄ると、なおさら柔和な表情がクローズアップされる。

 中でもこの天使の横顔。まるで‟絵にかいたような”という表現そのもののような美少年!
 
 一瞬、映画「ヴェニスに死す」に登場したタジオ役の美少年ビヨルン・アンドレセンを連想してしまった。

 スタンダールは「イタリア紀行」の中で、コレッジョの絵についてこう記した。

「イエスに祝福される聖母は涙がこぼれるほどに私を感動させる」。

 描かれた群像の一人一人をアップしてみても・・・

 なんと甘美さに溢れていることか!

 コレッジョ以外でも、この美術館の目玉であるパルミジャーノの「トルコの女奴隷」も秀でた華やかさを放っていた。

 大きな展示空間にはマリア・ルイーザの肖像画もあった。

 マリア・ルイーザ。神聖ローマ帝国最後の皇帝フランツ2世の長女でナポレオンの2番目の妻。実はパルマとは奇妙な縁で結ばれていた。

 ナポレオン失脚後、ヨーロッパの支配関係を定めようとするウイーン会議が開かれ、そこである1つの決定がなされた。「パルマ公国はマリア・ルイーザが統治する」。
 複雑な力関係の中で出された1つの妥協案だったが、マリアはその後約30年にわたってパルマの寛容な統治を行い、市民たちからは「われらがマリア」と愛着を込めて呼ばれた。

 彼女は文化面にも力を入れた。マリアが建設を命じたテアトロ・レージョ(レージョ劇場)は今も現役の劇場として上質のオペラが上演される舞台となっている。

 駆け足でパルマを回った。次はモデナに向かう。




 
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パルマ③ はかなくも美しいコレッジョの「階段の聖母」。そして欧州最古のファルネーゼ劇場

2018-07-21 | イタリア・パルマ

 大聖堂の後ピロッタ宮殿に向かった。宮殿前は広場になっており、涼し気に水をたたえた空間もある。

 入口は一般通路と兼用になっている。

 従って自転車も含めた通行人が頻繁に行きかう、アーケード付きの道路のような感じ。

 宮殿内で最初に入ったのが、ファルネーゼ劇場。ヴィチェンツァにあるオリンピック劇場をモデルにしたヨーロッパ最古の劇場の1つとされ、とても美しい円形の建物になっている。

 アーチが連なる観客席のリズミックな面白さが印象的だ。

 ちょうど演奏会のリハーサルを垣間見ることが出来た。

 改めて全体を俯瞰してから、同じ敷地に中にある国立絵画館に移動。

 パルマ公ファルネーゼ家のコレクションを中心とした美術館だ。ここは、午後には入場料が安くなっており、ちょっと得した気分。一部見学ができないエリアも設置されていたが、私の目的はコレッジョなので問題なし。

 「スカラ座の聖母」など珠玉の作品はじっくり眺めることが出来た。

 中でも「階段の聖母」の美しさにはしばし息を止めて見入ってしまった。

 フレスコ画で聖母の頭の一部分が欠けてしまっているが、そんなことも気にならない。何と優雅な聖母像なのだろうか。

 同じタイトルの全く欠けていない絵もあったが,なぜか欠けた絵の方が美しさに加えてはかなさの要素が濃くなっているようで、心に深く染み入ってしまった。



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パルマ② 12世紀、初めて自らの名前を作品に刻み付けた記念碑的彫刻があった

2018-07-17 | イタリア・パルマ

 南翼楼に行くと、大理石の大きな彫刻作品がある。ベネッディット・アンテラーミによる「十字架降下」。
 磔刑となったキリストが十字架から降ろされる場面だ。

 中央にキリストがおり、アリマタヤのヨセフがキリストを抱きかかえている。向かって左側、キリストの右手にほほをよせる聖母マリア。 右側のニコデモはキリストの左手を十字架から降ろそうとしている。

 右端にはうつむくシナゴーグ(ユダヤ教の象徴)がいる。そして、上に文字が書いてある。

 「1178年2月 彫刻家が現れた。

         この彫刻家はアンテラーミと呼ばれるベネディットである」

 作品は1178年の制作だ。12世紀といえばルネサンスから2世紀以上も前の時代。彫刻をする人もこのころは「単なる職人」でしかなく、まだまだ芸術家として広く作品が認められる時代までには幾多の年月を待たねばならない中世。
 
 そんな時代に彼は堂々と自らの名前を作品に刻み付けた極めて珍しい作品だ。「無名の職人たち」から「美の担い手」としての芸術家へ。アンテラーミの自信と誇りが感じられる。

また、別のクーポラにも躍動する絵が描かれていた。

 こちらは黄金の祭壇と天井画。

 キリストの勝利を示す絵かも。

 また、天井画にはきめ細かな女性像が至る所で踊っていた。

 大聖堂を出て、次は奥にあるエバンジェリスタ教会へ。

 その前に、ピンクの大理石が美しい洗礼堂を1枚。

 入口の幾重にも折り重なるアーチや装飾も見飽きない。ただ、前回の訪問時に見ているので、今回は中へ入らなかった。

 大聖堂のすぐ後方に位置するエバンジェリスタ教会。

 ここにもコレッジョの作品が天井に描かれている。こちらは聖母ではなく「キリスト昇天」。またのタイトルが「福音書記者ヨハネの幻視」。ヨハネが円蓋のふちに腰掛けて、天空に展開する幻視を見ているという光景だ。

 この教会では、他にも各所に像が効果的に配置されている。これは聖母子像。

 これも聖母子像かな?

 ヒゲの聖人も。

 時間があまりないのでかなり駆け足になってしまって名残惜しいけど、先を急ごう。


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パルマ① たくましく劇的に立ち上がる聖母。コレッジョの傑作「聖母被昇天」

2018-07-14 | イタリア・パルマ
 マントヴァからは電車でボローニャに移動した。ボローニャに4日間滞在したが、その間日帰りで訪れたパルマとモデナを先に紹介しよう。


 晴れた朝、パルマに出かけた。パルマは紀元前187年、ローマ時代に完成した歴史的街道であるエミリア街道の中にある主要都市の1つ。
 同街道はアドリア海のリミニからボローニャ、モデナ、パルマを経由してミラノに繋がるイタリアの大動脈だ。

 この街の主目的はコレッジョの作品に会うこと。パルマには大聖堂、エバンジェリスタ教会、国立絵画館など、訪れようとしている場所のどこにでもコレッジョの作品が残されている。

 まずは大聖堂へ。駅から南に向かう大通りを歩いていくとピロッタ宮殿がある。

 広場の群像レリーフを横目に見ながら歩く。

 迫力たっぷりの群像だ。

 旧市街へ。

 ドゥオモ広場が見えてきた。

 広場に足を踏み入れると、大聖堂と洗礼堂が並び立つ格好で広場を囲んでいる。早速中に入ろう。

 堂内の壁面はびっしりとフレスコ画で埋め尽くされている。ジローラモ・マッツォーラ・ベドーリの作品だ。

 それだけでも十分華やかな香りを放っている。

 奥の祭壇に向かって歩みを進める。

 と、中央のクーポラが頭上に迫る。

 見上げると、そこには目くるめく情景が展開されていた。「聖母被昇天」。コレッジョ晩年の作品だ。

 中央の空にキリストが浮いている。

 その主を見上げる女性は聖母マリア。短縮法によって極端にデフォルメされて直立しているように見えるマリアは、天使たちに囲まれている。
 ただ、この聖母マリアは、コレッジョが何枚も作品に描いた優しさあふれる姿ではなく、たくましく堂々と立ち上がる聖母だ。

 天井の空間から降り注ぐ光の渦を受け止めて、

 母を迎えに来たキリストに向かって、まさに決然と天に昇ろうとする姿がそこにあった。

 らせん状に渦巻く天使たちの中心に浮かび上がる姿態。これほどまでに上昇度を感じさせる作品はなかなかお目にかかれない。というより、一緒に上空に吸い込まれそうになる感覚さえ味わえる稀有な瞬間が、そこにあった。

 ここを訪れたスタンダールも感動のあまり涙したと伝えられる。そして、後年ローマを中心として隆盛を誇ったバロック絵画の先駆けともなる記念碑的な作品だ。

 実は10年前にも1度ここを訪れたが、その時は内部の修復中でこの作品に出会えなかった。やっと出会えた感激も加わって、しばしとても幸せな気分に浸っていた。





 

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