次にバルジェッロ国立博物館のダビデ以外の作品を見て行こう。
ミケランジェロの「バッカス」。杯を手にして少し酔ったように不安定に立つバッカス。背後ではサティロスがブドウの房を食っている。
放心の表情だが、一方で熱を感じさせる肉体が異彩を放っている。ミケランジェロの若き頃の作品だ。
そのミケランジェロの胸像があった。ダニエーレ・ダ・ヴォルテッラの作品。見事に気難しい大芸術家の性格までを像に込めているかのように見える。
「イサクの犠牲」の競作が、ここに収められている。1401年、世界初の美術コンペが行われた。フィレンツェ・サンジョヴァンニ洗礼堂の門扉製作者を決めるコンペ。多数の応募者の中からブルネレスキとギベルティの2人が1位になった。
テーマの「イサクの犠牲」とは、旧約聖書に登場するエピソードで、神がイサクに対して神の指示を忠実に実行できるかどうかを試す1つの試練を与えた。「我が子を殺せ」と。イサクはそれを実行しようとする。その直前、天使が現れ、「あなたの忠誠心は証明された」と、その行為をやめさせる話だ。
ギベルティは均整のとれた構図でそのレリーフを完成させた。
一方ブルネレスキは飛ぶ天使のダイナミックさを強調した。
いずれも甲乙つけがたく同時優勝。だが、ブルネレスキは受注を辞退、彫刻の道を離れローマで建築の修行に入る。
後にブルネレスキはフィレンツェに戻り、街の象徴ともいうべきドゥオモの巨大なクーポラを、卓越した技術で完成させて、その名を後世に残すことになる。
ジャンボローニャ「メルクリウス」。飛び立とうとするメルクリウスの躍動感は見事。もともとはローマのヴィラ・メディチの噴水に設置されていた。波しぶきの中でのこの像はさらに魅力的に見えたことだろう。
後方からのアングルはその飛躍の感触が一層鮮明になる。
ジャンボローニャ「彫刻の寓意」。ねじれねじれの彫刻を得意とした作者にしては珍しく素直に腰を下ろす女性像を作り上げた。
すらりと伸びた長い手足が心地よい。彼の理想の女性像を作り上げたのではないかと思えてしまう。
もう1点のジャンボローニャ。「ピサに対するフィレンツェの勝利」。
タイトルの通り女性がフィレンツェの象徴で、押さえつけられているのがピサの象徴。一見優雅な女性像に見えるが実は戦いの後の勝敗を表すもの。ここではジャンボローニャのマニエリスムが生かされている。
ドナテッロとデジデリオ・ダ・サンガッロ「洗礼者ジョヴァンニ」。聖者の落ち着きが伝わってくる。
ドナテッロ「アモーレ」。ドナテッロ作品の中でもこれは全く異なった雰囲気だ。無防備な幼子のあどけなさを感じさせる。
本当に駆け足でフィレンツェの美術館を回ってきた。こんな方法は邪道なのだが、日程の関係で無理をしてしまった。いつか、今度はゆっくりと暮らすようにフィレンツェの街に滞在してみたいものだ。