カタルーニャ地方最大の都市、そしてアントニ・ガウディ、ピカソ、ミロと建築美術の世界にスーパースターを輩出した都市・バルセロナ。この都市を見下ろすモンジュイックの丘に、カタルーニャ美術館はある。
街の中心部カタルーニャ広場から西に進み、スペイン広場に至ると、南に幅広のマリア・クリスティーナ通りがモンジュイックの丘に向かって伸びている。
通りの左右両脇には高さ30mの2本の尖塔が立ち、奥に「国民の宮殿」と称される、堂々たる建築物がそびえている。そこが美術館だ。
1929年のスペイン万博パビリオンを改装して1934年にオープンした。
長い上り坂階段を上り後を振り返ると、バルセロナの街が一望のもとに見下ろせる。その中にはあのサグラダファミリアも見つけることが出来る。
まずは、この美術館の目玉であるロマネスク美術を見てみよう。何といってもカタルーニャのロマネスク美術最高傑作と称される「全能のキリスト」から入らなければならないだろう。それは部屋の壁一面を使って展示されている。
この巨大壁画は全長8m。聖母マリアや弟子たちの上に、キリストが描かれる。
カッと目を見開いたキリストは、ゆるぎない自信と威厳を漂わせて正面をみつめる。
周りは虹が取り囲み、右手は天を指さし、左手に持った聖書には「我が世の光なり」と記されている。そして周囲には4人の福音書記者。
制作年は1123年。その力強さ、、躍動感は抜群のレベルに達している。
また、こちらは「荘厳のマリア」。タウの教会にあったものだ。保存状態が良く、聖母と幼いキリストの姿がはっきりと捉えられる。
一方、かなり劣化が進んでしまった者も多い。エル・ブルガルの壁画は上部に描かれたキリストの姿が失われてしまって、下部の人物像だけが残った。
この絵もマグダラのマリアと聖ペテロだけが残った。
このように見てきて気付くのは、壁画がそれぞれ美術館の壁にそっくり描かれているように見えることだ。元々はこれらの絵はすべて、ピレネー山脈の山あいであるポイ谷にある18の教会の壁に描かれていたものだ。例えば「荘厳のキリスト」はタウル村にあるサンクリメン教会にあったものだ。
多くは12世紀ころに、それぞれの教会に描かれたのだが、数世紀を経て作品は老朽化していた。また、村々は過疎化の波に襲われていて、保存修復どころかそのままでは貴重な作品群がすべて失われてしまうという危機に瀕していた。
教会の壁に直接描かれたものだけに、作品は自由に移動が出来ない。そこで、20世紀に入って行われた大規模調査を踏まえて、それらをそっくり万博パビリオンの建物の壁に貼り付けて再現するという画期的な試みが実践された。
これによって現在、元々の教会空間の姿をそのままこの美術館で一挙に体験できることになったわけだ。それはある意味消え失せる寸前だった貴重な作品群の、奇蹟的な復活劇でもあった。(なお、元々の教会にはレプリカが設置されている)
ロマネスクの作品は、キリスト教の信仰世界表現が主体なので、理念や象徴は優先される。従って写実性は前面に出てこないが、それだけに心に訴える力強さを感じさせるものだった。