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万年橋は、支流の小名木川が隅田川に注ぎ込む河口に架けられている。緑色の鉄骨製、短い橋だが歴史的意味も含めて存在感は格別だ。
小名木川は、江戸に拠点を置いた徳川家康が江戸城建設に先立って真っ先に掘割を実施したところだ。行徳の塩を始めとして各地からの物資を江戸城下に輸送するための大動脈としての役割を担っていた。
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交通の要所だっただけに江戸っ子たちの知名度も高く、また、江戸期の万年橋は見事な太鼓橋で、その橋から名峰富士が眺められた。
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そんな風景を葛飾北斎は見事に描き切っている(「深川万年橋下」)。北斎はあえて富士山を強調せず、橋の芸術的なアーチを中央に据え、その下にさりげなく富士を配するという風景の妙を、洒脱に描いている。
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また、歌川広重は「名所江戸百景」の「深川万年橋」で、亀のぶら下がった絵を描いた。「亀は万年、鶴は千年」ということわざをもじった、しゃれっ気満点の絵だ。
この橋を舞台とした藤沢周平の小説を読んだことがあった。「橋ものがたり」の中に収められた「約束」。
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幼馴染の幸助とお蝶。幸助は浅草に修行に出て、二人は離れ離れに。その時二人は「五年後に万年橋のたもとで会おう」と約束していた。
しかしその間、お蝶は貧しさゆえに酌婦となり、客に体を売ってしまう。また幸助も別の女性に心ひかれた。
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五年後、「幸助は橋の欄干にほおずえをついて、川の水を眺めていた。水は絶え間なく音を立て、光を弾いている。日が沈むとあたりは一度とっぷりと闇に包まれたが、まもなく気味が悪いほど赤く大きな月が空に上っ
た」
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お互い五年前の純粋で一途な心と体ではなくなってしまった。
堂々と胸を張って愛を叫ぶほどの勇気はない。
だが、心の奥にちらちらと燃える炎のくすぶりを、ずっと感じ続けている。
そんな二人の切ない思いが、暮れて行く川面の風景と共に、切々と描き出されていた。
この付近は隅田川沿いに広い遊歩道が上流の新大橋まで続いている。その道に松尾芭蕉がこの地に住んでいた当時に創った句の碑が立てられている。
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名月や 池を巡りて 夜もすがら
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花の雲 鐘は上野か 浅草か
川端を歩いていると、ちょうど絶妙のタイミングでどこからか寺の鐘の音が聞こえてきた。
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芭蕉は今の三重県伊賀市出身。1657年に江戸に出て、1682年八百屋お七火事と呼ばれる大火で最初の家を失った後、新たに庵を建ててこの地に移り住んだ。
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万年橋のすぐ近くに芭蕉稲荷という神社がある。1917年、この地から芭蕉遺愛の石のカエルが出土したため
「古池や かわず飛び込む 水の音」の句ゆかりの地として、東京都はここを」芭蕉翁古池の跡」に指定した。
そこから土手を上がったところが、芭蕉展望庭園になっている。
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入口には北斎の浮世絵「深川万年橋下」が、何本にも分かれた柵に描かれており
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その奥に芭蕉像が鎮座している。
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ちょうど夕日が沈む直前だったので、夕べの光が芭蕉を黒く浮かび上がらせた。その横顔は、移り行く隅田川の暮色をじっと見つめているかのようだった。