農業における化学肥料と化学農薬の活用による栽培体系の革新は飛躍的な食糧の増産をもたらし、全世界75億人の生命を支えてきた。しかし、現時点においても10億人が深刻な栄養不足に苦しんでおり、国連が発表した「世界人口予測2017年改定版」では、世界人口は2050年には98億人、2100年には112億人を越すと予測されている。人類活動による温暖化や土壌汚染、河川湖沼汚染などの地球レベルの環境問題に対処しつつ、人類への食糧供給を維持するためには環境負荷の低い次世代の栽培体系の構築が喫緊の課題である。その解決の一つとして有用土壌微生物の活用が世界的に活発化している。
アーバスキュラー菌根菌 (AM菌) は約4億年の太古から植物の根に共生して生きてきた土壌に生息する菌類(いわゆるカビの仲間)で、有用土壌微生物として研究が進められている。AM菌は必須栄養素であるリンや窒素を土壌から吸収して共生相手である宿主植物に与えることで農地や自然生態系での植物の生育を助けている。特にAM菌はイネ科やマメ科、ナス科などの重要作物を含むほとんどの陸上植物と共生関係を結ぶことができるため、微生物肥料として大きな期待が寄せられている。しかし、AM菌は共生したときに宿主植物から供給される炭素源に依存して生育する性質を持つため、単独ではほとんど生育できず、次世代の胞子を形成することもできない(このような性質を絶対共生性という)。このため、AM菌を増殖させるためには、植物と共存培養する必要があり、手間とコストがかかるという問題がある。これまでにAM菌を純粋培養により増殖しようとする試みが世界中で行われてきたが、成功した例はなかった。
本研究で、脂肪酸を添加した培地でAM菌を単独で培養したところ、生育が促されて共生能を持つ次世代胞子が形成されることを発見した。これによりAM菌の純粋培養が可能となり、本菌を大量生産できる可能性が開けた。
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の秋山 康紀 教授、筒井 一歩 大学院生(当時)、林 英雄 教授(当時)と、自然科学研究機構 基礎生物学研究所の川口 正代司 教授、亀岡 啓 博士研究員、信州大学農学部の齋藤 勝晴 准教授、北海道大学大学院農学研究院の江澤 辰広 准教授らは、微生物肥料として農業への利用が期待されているアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の単独での培養に世界で初めて成功した。
内容・成果
ドイツの研究グループがAM菌Rhizophagus irregularisをバクテリアPaenibacillus validusと一緒に培養すると、AM菌が菌糸を分岐させつつ旺盛に生育し、ついには次世代の胞子を形成する現象を発見していた。このことからバクテリアに由来する何らかの物質がAM菌の生育と胞子形成を誘導すると考えられていたが、その物質は不明のままであった。
研究チームは、そのバクテリア由来の物質の単離に成功し、それが枝分かれした炭素鎖をもつ脂肪酸であることを解明した。 その枝分かれ脂肪酸を含んだ培地でAM菌Rhizophagus irregularisを単独で培養したところ、旺盛な菌糸分岐形成と共に、わずかに次世代の胞子が形成された。
そこで、他の様々な脂肪酸について調べたところ、炭素数16の不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸がバクテリア脂肪酸よりも強くAM菌の生育を促進し、より多くの次世代胞子を誘導することを発見した。パルミトレイン酸を含む培地で形成されるAM菌の胞子は、植物との共生培養で形成される胞子と比べると小型で、細胞壁の厚さも薄いものであったが、植物根に正常に感染共生して次世代の娘胞子を形成できることが分かった。すなわち、AM菌の単独での純粋培養に世界で初めて成功することができた。
今後の展開
リンは有限の資源である。先進国ではリンは過剰に施肥される傾向にあり、土壌環境に対する過負荷が懸念され、水系汚染の原因ともなっている。そこでAM菌の微生物肥料としての活用が期待されている。実際にいくつかのメーカーが農業資材化に成功し、市販されている。しかし、AM菌の増殖には宿主植物との共生が必要で手間とコストがかかるため、結果として資材が高価となり、なかなか一般には普及していないのが現状である。
今回の研究成果により、AM菌の純粋培養への道が開かれた。今後、脂肪酸による胞子形成の機構を詳細に解析し、明らかにしていくことで、さらなる培養効率の改善が期待できる。加えて、近年のAM菌のゲノム解読により、AM菌の絶対共生性の原因となる可能性のある欠損代謝系が次々に明らかにされている。これらの知見をもとに培養技術の改良を加速化すれば、大規模な培養タンクを用いたAM菌の大量生産も可能となると思われる。すでに私たちは今回の研究成果をもとに技術改良を進めており、大幅な培養効率の改善を達成している。得られる胞子の数や共生能の点で植物を用いた共存培養にまだ及ばないが、継続的に改良を重ねていけば、将来的には低コストでかつ安定的にAM菌を供給することが可能になると期待される。
今日の天気は晴れ。雲が少し多い。湿度が低いのか、風に爽やかさを感じる。
空き地を囲む有刺鉄線を覆う様に”クズ”が繁殖し、花が咲いている。莢(さや)もできている。名(クズ)の由来は大和国(現在の奈良県)の国栖(くず)が葛粉の産地だったからで、”葛”は漢字から。
クズの根から澱粉(でんぷん)が取れ、これが葛粉(くずこ)となる。漢方薬の”葛根湯”は葛根(かっこん)が主薬で、風邪の初期症状や頭痛・肩こりなどの症状に使う。葛根湯にまつわる落語に”葛根湯医者”があり、万能薬的な使い方をする”ヤブ医者”の話がある。
クズは秋の七草の一つである。でも増殖力がとても強い葛は世界の侵略的外来種ワースト100(IUCN、2000) 選定種となっている。
クズ(葛)
別名:裏見草(うらみぐさ)
葉が風で裏返ると白さが目立つ
別名:庭見草(にわみぐさ)、野守草(のもりぐさ)、初見草(はつみぐさ)
マメ科クズ属
開花時期は8月~9月
花色は赤紫色、上り藤の様に下から上へと小さな花が咲いていく
花後は剛毛に被われた枝豆に似た扁平な莢(さや)ができる
秋の七草の一つである
アーバスキュラー菌根菌 (AM菌) は約4億年の太古から植物の根に共生して生きてきた土壌に生息する菌類(いわゆるカビの仲間)で、有用土壌微生物として研究が進められている。AM菌は必須栄養素であるリンや窒素を土壌から吸収して共生相手である宿主植物に与えることで農地や自然生態系での植物の生育を助けている。特にAM菌はイネ科やマメ科、ナス科などの重要作物を含むほとんどの陸上植物と共生関係を結ぶことができるため、微生物肥料として大きな期待が寄せられている。しかし、AM菌は共生したときに宿主植物から供給される炭素源に依存して生育する性質を持つため、単独ではほとんど生育できず、次世代の胞子を形成することもできない(このような性質を絶対共生性という)。このため、AM菌を増殖させるためには、植物と共存培養する必要があり、手間とコストがかかるという問題がある。これまでにAM菌を純粋培養により増殖しようとする試みが世界中で行われてきたが、成功した例はなかった。
本研究で、脂肪酸を添加した培地でAM菌を単独で培養したところ、生育が促されて共生能を持つ次世代胞子が形成されることを発見した。これによりAM菌の純粋培養が可能となり、本菌を大量生産できる可能性が開けた。
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の秋山 康紀 教授、筒井 一歩 大学院生(当時)、林 英雄 教授(当時)と、自然科学研究機構 基礎生物学研究所の川口 正代司 教授、亀岡 啓 博士研究員、信州大学農学部の齋藤 勝晴 准教授、北海道大学大学院農学研究院の江澤 辰広 准教授らは、微生物肥料として農業への利用が期待されているアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の単独での培養に世界で初めて成功した。
内容・成果
ドイツの研究グループがAM菌Rhizophagus irregularisをバクテリアPaenibacillus validusと一緒に培養すると、AM菌が菌糸を分岐させつつ旺盛に生育し、ついには次世代の胞子を形成する現象を発見していた。このことからバクテリアに由来する何らかの物質がAM菌の生育と胞子形成を誘導すると考えられていたが、その物質は不明のままであった。
研究チームは、そのバクテリア由来の物質の単離に成功し、それが枝分かれした炭素鎖をもつ脂肪酸であることを解明した。 その枝分かれ脂肪酸を含んだ培地でAM菌Rhizophagus irregularisを単独で培養したところ、旺盛な菌糸分岐形成と共に、わずかに次世代の胞子が形成された。
そこで、他の様々な脂肪酸について調べたところ、炭素数16の不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸がバクテリア脂肪酸よりも強くAM菌の生育を促進し、より多くの次世代胞子を誘導することを発見した。パルミトレイン酸を含む培地で形成されるAM菌の胞子は、植物との共生培養で形成される胞子と比べると小型で、細胞壁の厚さも薄いものであったが、植物根に正常に感染共生して次世代の娘胞子を形成できることが分かった。すなわち、AM菌の単独での純粋培養に世界で初めて成功することができた。
今後の展開
リンは有限の資源である。先進国ではリンは過剰に施肥される傾向にあり、土壌環境に対する過負荷が懸念され、水系汚染の原因ともなっている。そこでAM菌の微生物肥料としての活用が期待されている。実際にいくつかのメーカーが農業資材化に成功し、市販されている。しかし、AM菌の増殖には宿主植物との共生が必要で手間とコストがかかるため、結果として資材が高価となり、なかなか一般には普及していないのが現状である。
今回の研究成果により、AM菌の純粋培養への道が開かれた。今後、脂肪酸による胞子形成の機構を詳細に解析し、明らかにしていくことで、さらなる培養効率の改善が期待できる。加えて、近年のAM菌のゲノム解読により、AM菌の絶対共生性の原因となる可能性のある欠損代謝系が次々に明らかにされている。これらの知見をもとに培養技術の改良を加速化すれば、大規模な培養タンクを用いたAM菌の大量生産も可能となると思われる。すでに私たちは今回の研究成果をもとに技術改良を進めており、大幅な培養効率の改善を達成している。得られる胞子の数や共生能の点で植物を用いた共存培養にまだ及ばないが、継続的に改良を重ねていけば、将来的には低コストでかつ安定的にAM菌を供給することが可能になると期待される。
今日の天気は晴れ。雲が少し多い。湿度が低いのか、風に爽やかさを感じる。
空き地を囲む有刺鉄線を覆う様に”クズ”が繁殖し、花が咲いている。莢(さや)もできている。名(クズ)の由来は大和国(現在の奈良県)の国栖(くず)が葛粉の産地だったからで、”葛”は漢字から。
クズの根から澱粉(でんぷん)が取れ、これが葛粉(くずこ)となる。漢方薬の”葛根湯”は葛根(かっこん)が主薬で、風邪の初期症状や頭痛・肩こりなどの症状に使う。葛根湯にまつわる落語に”葛根湯医者”があり、万能薬的な使い方をする”ヤブ医者”の話がある。
クズは秋の七草の一つである。でも増殖力がとても強い葛は世界の侵略的外来種ワースト100(IUCN、2000) 選定種となっている。
クズ(葛)
別名:裏見草(うらみぐさ)
葉が風で裏返ると白さが目立つ
別名:庭見草(にわみぐさ)、野守草(のもりぐさ)、初見草(はつみぐさ)
マメ科クズ属
開花時期は8月~9月
花色は赤紫色、上り藤の様に下から上へと小さな花が咲いていく
花後は剛毛に被われた枝豆に似た扁平な莢(さや)ができる
秋の七草の一つである