夕方の空港は海外から戻って来た人の安堵の気持ちと、これから見知らぬ所に行く人の期待が程よく入り混じる。
ゲートを抜けるとそれに加え、人を待つ者の期待と、すでに会った人達の喜びとで雑多な雰囲気を作り上げていた。
そんな中でハヤピとテツが僕達を待っていた。この夫婦が今回のイベントの企画、運営をする。このイベントの鍵となる2人だ。僕らは再会を喜び合い、メンバーとの初顔合わせとなった。
ハヤピ達はシャルマン火打スキー場でスキースクールを運営管理する。3年前からの友達だ。彼らが2年前にニュージーランドに来た時も僕とJCがガイドになりブロークンリバーやオリンパスを案内した。その時の感動が忘れられなくて、今回日本初のクラブフィールドとの交流へと事が運んだのだ。
今回最初の仕事、全員をまとめて日本に連れて行くという役割を果たして僕の肩が一気に軽くなった。
「いやいやどうもどうも。久しぶり、元気だった?」
「ひっぢ、お疲れさん。なかなか出て来ないから、何かヤバイ物でも持っていて捕まったのかと心配になったよ」
「物騒な事を言うなあ。ちょうどブラウニー達と中で会ってさあ。それで遅くなっちゃった」
ハヤピ達は今回のイベントのために作った看板を持っていた。『アソボー シャルマン ブロークンリバーウィーク』という文字の横にはサングラスをした髭の男が並ぶ。
「ヘイリー!知ってるか?この絵のモデルはオマエだぞ」
ヤツは明らかに驚いていた。まさか自分がそんなデザインのモデルになっているなんて夢にも思わなかっただろう。何週間も前からホームページではヤツの写真やプロフィール、ヤツをデザインした絵などが載っていたが、僕はどうせこの男はインターネットなど見ないだろうと思い黙っていたのだ。
ヤツは気を取り直し、デザインをまじまじと見つめグフフと低く笑った。どうやら気に入ったようだ。
横にいたブラウニーが騒々しく言った。
「なあ!このヘイリー、ジグザグの男に似ていないか?」
ジグザグとはNZで売っているタバコの巻紙で、そこに印刷されている男の絵にそっくりなのだ。
「似てる!似てるわ」
へザーが同意してヘイリーがグフフと笑い、その瞬間キャラクターの名前はジグザグマンとなった。
そんな僕らの盛り上がりを見てテツが言った。
「そんなに喜んでるなら、スキー場に来たらもっとびっくりするわよ」
「なんで?」
「あっちこっちに大きいのから小さいのまでたくさんあるから」
面白そうなので皆には黙っていた。
駐車場へ行く途中に地図があったので皆に言った。
「この空港は出来たばかりで、人工の島の上に作ったんだって」
「知ってるわ。カナダのテレビでやっていたわ」スーが言った。
「へえ、そうか。ヘイリー知ってたか?」
「いいや」
どうせ僕はこの男と同じレベルだ。
近代的な空港ビルを出て、僕達を乗せた車は高速道路をひた走る。このメンバーで日本に居る事がまだ信じられず、夢見心地で窓からの景色をぼんやりと眺めていた。
名古屋市内へ入るとそこは光の渦である。色とりどりのネオンサインが瞬き、車のライトの波が動く。
夜は当たり前に暗いニュージーランドの田舎に住む彼らの目にはどのように映るのだろう。この光の量ならたとえ晴れていても星は見えないだろう。
僕は以前どこかの山小屋で一緒に星を見たイギリス人の言葉を思い出した。
「僕はイギリスで生まれ育ったけど、イギリスで天の川を見たことが無いよ」
「そういえば僕も日本で天の川を見た記憶が無いなあ」
「ここでは当たり前に見えるんだね・・・」
ある場所で当たり前のことでも、違う場所に来れば特別な事となる。文明の明かりは空を覆い、星からのメッセージをかき消す。
ひときわ派手なネオンを見てへイリーが尋ねる。
「パ・チ・ン・コ、パチンコってなんだ?」
日本は2回目のブラウニーが応える。
「パチンコかあ、パチンコはギャンブルの機械さ。1人ずつ機械の台に向き合って座り、レバーを動かしてベアリングの玉を花の中に入れる。玉が入ると元の所にジャラジャラ出てくる。そうだよなヘッジ」
「そうそう、そんなのだ。日本人はパチンコが好きだ。オレは大嫌いだけどな」
「あの100って書いてあるのは1ドルショップか」
100円ショップの看板を見てブラウニーが騒々しく聞いた。
「そうそう。なんで分かった?」
「なんとなくそう思った。オレ1ドルショップへ行きたい!」
「分かった、分かった。時間を見つけてな」
その晩はハヤピの友達と一緒に台湾料理の店に行った。日本に来て早々中華というのもなんだが、まあこれから和食はたっぷり食べられるだろう。
店の中で僕らのテーブルの横で中年の夫婦が煙草を吸い始めた。
ニュージーランドでは今や公共の室内でタバコを吸える場所は無い。ましてやレストランの中で人が食べている横でタバコなど吸ったらどんな扱いになるだろう。
堂々と煙草を吸うおじさん、そして当たり前の顔をしている他の客や店員を見て、やっと日本に来た実感が湧いた。
続
ゲートを抜けるとそれに加え、人を待つ者の期待と、すでに会った人達の喜びとで雑多な雰囲気を作り上げていた。
そんな中でハヤピとテツが僕達を待っていた。この夫婦が今回のイベントの企画、運営をする。このイベントの鍵となる2人だ。僕らは再会を喜び合い、メンバーとの初顔合わせとなった。
ハヤピ達はシャルマン火打スキー場でスキースクールを運営管理する。3年前からの友達だ。彼らが2年前にニュージーランドに来た時も僕とJCがガイドになりブロークンリバーやオリンパスを案内した。その時の感動が忘れられなくて、今回日本初のクラブフィールドとの交流へと事が運んだのだ。
今回最初の仕事、全員をまとめて日本に連れて行くという役割を果たして僕の肩が一気に軽くなった。
「いやいやどうもどうも。久しぶり、元気だった?」
「ひっぢ、お疲れさん。なかなか出て来ないから、何かヤバイ物でも持っていて捕まったのかと心配になったよ」
「物騒な事を言うなあ。ちょうどブラウニー達と中で会ってさあ。それで遅くなっちゃった」
ハヤピ達は今回のイベントのために作った看板を持っていた。『アソボー シャルマン ブロークンリバーウィーク』という文字の横にはサングラスをした髭の男が並ぶ。
「ヘイリー!知ってるか?この絵のモデルはオマエだぞ」
ヤツは明らかに驚いていた。まさか自分がそんなデザインのモデルになっているなんて夢にも思わなかっただろう。何週間も前からホームページではヤツの写真やプロフィール、ヤツをデザインした絵などが載っていたが、僕はどうせこの男はインターネットなど見ないだろうと思い黙っていたのだ。
ヤツは気を取り直し、デザインをまじまじと見つめグフフと低く笑った。どうやら気に入ったようだ。
横にいたブラウニーが騒々しく言った。
「なあ!このヘイリー、ジグザグの男に似ていないか?」
ジグザグとはNZで売っているタバコの巻紙で、そこに印刷されている男の絵にそっくりなのだ。
「似てる!似てるわ」
へザーが同意してヘイリーがグフフと笑い、その瞬間キャラクターの名前はジグザグマンとなった。
そんな僕らの盛り上がりを見てテツが言った。
「そんなに喜んでるなら、スキー場に来たらもっとびっくりするわよ」
「なんで?」
「あっちこっちに大きいのから小さいのまでたくさんあるから」
面白そうなので皆には黙っていた。
駐車場へ行く途中に地図があったので皆に言った。
「この空港は出来たばかりで、人工の島の上に作ったんだって」
「知ってるわ。カナダのテレビでやっていたわ」スーが言った。
「へえ、そうか。ヘイリー知ってたか?」
「いいや」
どうせ僕はこの男と同じレベルだ。
近代的な空港ビルを出て、僕達を乗せた車は高速道路をひた走る。このメンバーで日本に居る事がまだ信じられず、夢見心地で窓からの景色をぼんやりと眺めていた。
名古屋市内へ入るとそこは光の渦である。色とりどりのネオンサインが瞬き、車のライトの波が動く。
夜は当たり前に暗いニュージーランドの田舎に住む彼らの目にはどのように映るのだろう。この光の量ならたとえ晴れていても星は見えないだろう。
僕は以前どこかの山小屋で一緒に星を見たイギリス人の言葉を思い出した。
「僕はイギリスで生まれ育ったけど、イギリスで天の川を見たことが無いよ」
「そういえば僕も日本で天の川を見た記憶が無いなあ」
「ここでは当たり前に見えるんだね・・・」
ある場所で当たり前のことでも、違う場所に来れば特別な事となる。文明の明かりは空を覆い、星からのメッセージをかき消す。
ひときわ派手なネオンを見てへイリーが尋ねる。
「パ・チ・ン・コ、パチンコってなんだ?」
日本は2回目のブラウニーが応える。
「パチンコかあ、パチンコはギャンブルの機械さ。1人ずつ機械の台に向き合って座り、レバーを動かしてベアリングの玉を花の中に入れる。玉が入ると元の所にジャラジャラ出てくる。そうだよなヘッジ」
「そうそう、そんなのだ。日本人はパチンコが好きだ。オレは大嫌いだけどな」
「あの100って書いてあるのは1ドルショップか」
100円ショップの看板を見てブラウニーが騒々しく聞いた。
「そうそう。なんで分かった?」
「なんとなくそう思った。オレ1ドルショップへ行きたい!」
「分かった、分かった。時間を見つけてな」
その晩はハヤピの友達と一緒に台湾料理の店に行った。日本に来て早々中華というのもなんだが、まあこれから和食はたっぷり食べられるだろう。
店の中で僕らのテーブルの横で中年の夫婦が煙草を吸い始めた。
ニュージーランドでは今や公共の室内でタバコを吸える場所は無い。ましてやレストランの中で人が食べている横でタバコなど吸ったらどんな扱いになるだろう。
堂々と煙草を吸うおじさん、そして当たり前の顔をしている他の客や店員を見て、やっと日本に来た実感が湧いた。
続