あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

ブロークンリバー最終日

2009-10-28 | 最新雪情報
10月最後の週末、巷はレイバーウィークエンドで3連休だ。
南島で最後まで開いていたブロークンリバーも今週末でクローズ。
僕は深雪と友人の山小屋さんの3人で山に向かった。
山小屋さんは北海道でパウダーガイドをしている人で数年前からのつきあいだ。
2ヶ月かけて南島を自転車で一周する。
数日前にNZに到着、そのまま北村家の客人となった。
スキーガイドならばクラブフィールド訪問は絶対外せないでしょう。
ということで一緒にブロークンリバーへ向かうことになった。
カンタベリー平野を走っていると、正面に雪の載った山が見えてくる。
山小屋さんが言った。
「なーんか、十勝みたいだなあ。この雰囲気とか、山のある景色とか、農家の点在する感じもそっくりだよ」
「へえ、そうなんだ」
そのうちに雪山が近くになると彼のボルテージが高まる。
「おおお!あの斜面良さそうじゃん。これは雪が降ったらどこでも滑れるねえ」
「まだまだ、お楽しみはこれからだよ」





ブロークンリバーの駐車場に着くと、レネ一家が居た。
どうやらグッズリフトの調子が悪いのでしばらく動かないらしい。
それなら車で上がっちゃおう。クラブのメンバーはこういう事になれている。
レネ達を乗せ、細く狭く急な山道を登る。雪が道に残っていたら絶対に運転したくない道だが、春には通行可能となる。ただし自己責任だ。
レネ一家、深雪、山小屋さんを下ろし、僕は車を一段低いウィンディーコーナーへ持っていく。
そこへ停めれば帰りは車まで滑って降りられる。
山小屋さんはここは初めてだけど、深雪とレネがいれば大丈夫だろう。
ロープトーの乗り場で深雪達に追いつく。
山小屋さんは数回の練習の後、ロープトーに載り上へ。
僕も深雪を牽引しながら登っていった。
「ホラ、足元が細いから気を付けろよ。それからプーリーにぶつからないようにな。ぶつかったら痛いのは、オレじゃなくてオマエだからな」
深雪に声をかけながらロープトーに乗る。
こうやって牽引するのもあと1年ぐらいか。
来年はともかく再来年には深雪も1人でロープトーに乗ることだろう。
子供はどんどん自立して親からの距離が遠くなっていく。



昨日雪が降り、新雪15cmほど。
ただし春先特有の重い新雪、スキーで滑っているとぐぐっとブレーキがかかりおじぎをしてしまう、そんな雪である。
こんな時はテレマークは大変だろうな。
パーマーロッジで一休み。
レネの娘達、リアとナミが深雪と遊ぶ。
ここは子供が育つのに最高の環境だ。
滑らなくても、居るだけで幸せになれる場所。
パーマーロッジはそんな場所だ。
お昼はバーベキューである。
近所の肉屋の特製ソーセージを焼き、パンに挟んで食う。スパイツを飲みながら。嗚呼、人生とは至福なり。



午後山小屋さんと深雪と山頂へ。
天気予報は快晴だったが、雲が多少あり風も出てきた。
アーサーズパス方面も雲は厚く、マウントロールストンは雲の中だ。
クライストチャーチの方も雲が出ていて、ポートヒルがうっすら見える程度。
それでも山というのは気持ちが良く、人を元気にしてくれる場所だ。
山頂から裏のアランズベイスンへ山小屋さんをさそったがブーツの調子が悪いというので、深雪と2人でアランズベイスンへ。
尾根伝いに時には板を外し、時にはスキーを履いたまま岩をかわしながら移動。
親バカだが深雪のスキー操作は抜群だ。
狭いトラバースや石をまたいで踏み換えなどを小さいころからやっているので自然とスキーも上手くなる。
日本のスキー場で滑ったらビックリするだろうな。
重いパウダーを深雪が喜んで滑る。
今までは僕の後ろをついて滑るだけだったが、最近では僕よりも先に滑るようになった。
こうやって子供は親から離れていく。
嬉しいのが半分、寂しいのが半分。
そんな気持ちで僕は娘の滑りを眺めていた。



帰りは車までアランズベイスンを滑る。
雰囲気はちょっとしたバックカントリーだ。
山小屋さんはグッズリフトに乗りたいというので、深雪と2人で滑る。
重い雪を滑りながら深雪が言った。
「あ~あ、今日でスキーも終わりか。ずーっと冬だったらいいのに」
「まあ、そう言うな。夏があるから冬が来るんだよ。また来年滑りに来ればいいじゃんか」
今日で滑り納めということで子供なりに感傷的になっているようだ。
車にたどり着く時に、深雪が後ろの山を振り返って言った。
「サンキュー、ブロークンリバー。又来るからね」
僕はその言葉を心に刻みこんだ。



帰り道の途中でキャッスルヒルに寄る。
僕と深雪は何度も来ているが、山小屋さんは初めてだ。
来る途中にこの岩場の話をしたら、是非歩きたいということでスキーを早めに切り上げてきたのだ。
大きな岩の上に立ち大地を眺める。
土地の持つエネルギーが沸々と涌き上がる。
ここは何度来てもいい所だ。
「山小屋さん、このあたりはさあ、マオリの聖地でパワースポットなんだよね」
「オーストラリアにもそういう所があった。アボリジニの聖地があったよ」
こういう場所では人間が生き生きする。知らず知らずのうちに自然のパワーをもらっているのだ。
大人よりも子供の方がそういう物を感じ取るのだと思う。家族連れのピクニックには最高だ。



帰り際、ダーフィールドにあるレネの家に立ち寄る。
レネの奥さんのナオちゃんの作るゴマドレッシングを貰うためだ。
ボトルを持っていくとそれにドレッシングを詰めてくれる。
このドレッシングが絶品なのだ。この味を出すのに2年かかったという。作り方は企業秘密。
僕はドレッシングがなくなるとこうやって貰いに来る。
うちからはお返しに僕が作った納豆や味噌などを持っていき、物々交換のシステムができつつある。
深雪はすぐに子供部屋へ行き、リアとナミと一緒に遊び始める。
僕らは庭を見せて貰い、その間にナオちゃんがドレッシングを詰め替えてくれる。
レネがビールを出してきて言った。
「ヘッジも一杯やるか?」
「う~ん、今日は真っ直ぐ帰るよ」
ヤツの家はあまりに居心地がいいので、ちょっと寄っていくつもりが1時間位すぐに過ぎてしまう。
アブナイ家なのだ。

家に戻って晩飯だ。
今日は女房が腕をふるって餃子を作ってくれた。
「山小屋さん、うちのギョーザはニュージーランドで一番ウマイからね。それからギョーザと言えばビール。ビールと言えばギョーザ。これでしょう」
僕はそう言いつつスタインラガーのピュアを開けた。
混ぜ物を入れてないというのが売りの、このビールが最近のお気に入りだ。
ギョーザにはシャキっとしたラガーの方がエール系のスパイツよりも合う。
「まあまあ、お疲れさん、カンパイ。さあさあ、熱いうちに食べよう」
餃子を一つ食べた山小屋さんがうなる。
「ウマイ!なんまらウマイわ、こりゃ。」
「だから言ったでしょ。うちのギョーザはニュージーランドで一番ウマイって」
「本当だわ。いやあ、これはウマイなあ」
「オレも自分で料理をいろいろ作るけど、餃子は女房に一任だね」
「そりゃ、これだけウマイ餃子ならねえ」
深雪は無言で黙々と食べる。本当に美味い物を食べるときのこいつの癖だ。とても分かりやすい。
行きつけの肉屋の豚挽肉、庭の野菜、調味料だって厳選している。皮は市販だが、ちょっと厚いのでちょうどいい大きさまで伸ばす。
いろいろな手間を惜しまず、素材を厳選すれば餃子というのはここまで美味くなる。又、焼き具合も文句のつけようがないぐらいに完璧。
金はそんなにかからないが、作り手の愛が餃子一つ一つに込められている。ご馳走というのはこういう物をいうのだ。
庭で採れたレタスのサラダに、さっき貰ってきたゴマドレッシングが又合う。
この晩、僕らは何回『ウマイ』を連発したのだろう。
幸せというのは瞬間だ。その瞬間のつながりが人生となる。
僕はビールを飲みながら、ギョーザに包まれた幸せを噛みしめた。
コメント (2)
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ジャパントリップ 25

2009-10-28 | 
 再び野郎3人、むさ苦しい顔をつき合わせて成田へ向かう。
 成田からブラウニーがカナダへ、僕とヘイリーはニュージーランドへ。ターミナルも別々だ。
 先にチェックインを済ませ、第二ターミナルのインフォメーション前で落ち合い、最後にビールを飲むという予定だったが、この3人で予定を立てても上手く事が運んだ試しがない。それは昨日始まった事ではない。
 僕等のチェックインで時間を取ってしまい第二ターミナルのインフォメーションに着いた時にはブラウニーの搭乗時刻になっていた。
 あちこち探したがブラウニーは見つからない。
 最後に友達に会えなかったことや、都会での疲れが重なってヘイリーは明らかに不機嫌になっていた。僕も全く同じ心境で不機嫌に黙って第一ターミナルに戻った。
「なあ、喉が渇いたな。どこかでビールでも飲もうぜ」
「賛成」
 というわけでレストラン街をウロウロしたのだがちょっとしたバーみたいなのが見つからない。
 後から冷静に考えれば、どのレストランでもビールはあるだろうし、ビールだけ注文してもイヤな顔をされる事はないだろう。しかしその時は僕もヘイリーも、レストランなんて洒落た所でウェイトレスにお席はこちらですなんて案内されるより、ブラッと店に入ってビールをキュッと飲みたい、そんな心境だったのだ。
 ところがそんな店がなかなか見つからない。同じ場所をウロウロしたりして、さきほどの不機嫌にビールが飲めない不機嫌が加わりますますむっつりするのであった。
 2人ともむっつりと出国審査を抜け、むっつりと免税店でお土産の酒を買った。
 その直後にバーのサインを見つけ、そそくさと店に入りビールを注文する。
「オイ、ここではエビスの黒があるぞ。来て直ぐの時ハヤピの家で飲んだ黒ビール覚えているか?」
「オオ、覚えてる。それでいこう」
 ビールが来て、カンパイ。現金なもので、ビールを飲んだ途端にさきほどまでの不機嫌さは消える。
「クーッ、ウメエなあ。なんか今回の旅は飲んでばかりだったなあ。オレ達何回カンパイをした?」
「数えきれないくらい。グフフフ」
「色々あったな」
「ああ、色々あった。グフフフ」
「西海岸からのバスがクライストチャーチに着いて飲み始めてからだぞ。最初から最後までオマエと一緒だとはなあ」
「ホントだな。オイ、ヘッジ、今回はオレを連れてきてくれて本当にありがとう。心からオマエに感謝している」
「よせやい、照れるだろ。オレは自分がやりたかったからやっただけだよ。オマエ達を日本へ連れて行ったらどんなに面白いだろう。ただそれだけさ。実際オレの予想以上に面白かったけどな」
「そう言ってもらうと嬉しいぜ。グフフフ」
「それより、オレは今回のジャパントリップをネタに使うぞ。オマエの事を書くぞ」
「オウ、何でも書いてくれ。グフフフ。オイもう一杯いこうぜ」
「いこういこう」
 さっきまでのむっつりがウソのように僕等は饒舌に話した。知らない人が見たら二重人格者だ。山のこと、雪のこと、人のこと、話す事は尽きない。そして再びカンパイ、再び話す。いつのまにか搭乗時刻になっていた。
「この先、搭乗口までの間に確かトレインみたいなバスみたいな乗り物に乗るはずだぞ」
「そうか、じゃあ早く次のカンパイをしよう」
「しょうがないなあ」
 再びカンパイ、再び話す。
 そのままカンパイをしつづけて僕等は飛行機を乗り過ごしてしまった、などという展開になったら、それはそれでバカバカしく面白そうだが、さすがに僕等もそこまでバカでは無く、無事機上の人となった。

 ニュージーランド北島付近は厚い雲に覆われていた。雲が切れている所からは深い青のタスマン海が広がる。
 ヘイリーが窓の外を覗きながら言った。
「見ろ、タラナキが見えるぜ」
 タラナキは富士山そっくりの山で高さは2300mほどだ。雲の海にピョコンと円錐形の島が浮かぶ。
「それならファカパパも見えるかな。あったあった。あそこだ」
 ヘイリーの指差すはるか彼方に、上部がギザギザの白い塊が浮かぶ。
「あれがファカパパかあ。初めて見た」
「オンタケそっくりだな」
「そっくりだ」
「楽しかったな」
「楽しかった」
 一つの旅が終わろうとしている。僕もヘイリーも、ガラにもなく感傷的になっていた。
『旅の終りはいつも虚しくて誰かと一緒に、気の会う仲間と OH Yeah』
 JCの唄が心の中でこだました。

 飛行機は除徐に高度を下げながら南島にさしかかった。カイコウラ山脈がうっすらと雪を載せている。
 窓の外を熱心に眺めている女の子と話し始めた。
「ニュージーランドは初めて?」
「ハイ。ワーキングホリデーで1年いるつもりです」
「そう、それは良いねえ。山が好きなの?」
「ハイ、大好きです。山歩きをしたくて、ニュージーランドに来たのです」
「そう、それはますます良いねえ」
「こちらにお住まいなんですか?」
「うん。冬はスキーガイド、夏はトレッキングのガイドなんかをしている」
 彼女の僕を見る目が変わった。ただの髭面のオジサンから頼れる山男へ格上げといったところだろう。
「あのう、何かアドバイスありますか?こうしたらいいとか?」
「そうだねえ、それならば、出来るだけたくさん歩きなさい。メジャーなトラック、ミルフォードやルートバーンだけじゃなく、国立公園のちょっとしたショートウォークや街の中の散歩道。30分や1時間のコースでも楽しい所は山ほどある。そんな事をやっていると1年間なんてあっという間に過ぎてしまうから時間の許す限り歩いてみな。この国は歩けば歩くほど奥深さが見えてくる国だよ」
「そんな話を聞いてワクワクしてきました」
 彼女のひとみは生き生きと輝いていた。良い顔をしている。きっと素晴らしいニュージーランドライフが待っていることだろう。

 クライストチャーチの空港では妻と娘が僕の帰りを待っていた。ヘイリーの女房ジューと娘達ハナとトメカも一緒だ。娘達は僕の娘を見つけ、深雪も気が付いたらしいが、やはり恥ずかしくて話ができなかったようだ。
 ヘイリーの家庭とも、今までより新しく深いつきあいが始まりそうだ。
 いつの日か彼女達が一緒にブロークンリバーのピークで夕陽を見ることが来るだろう。ヘイリーが娘達を連れて、夕陽を見ながら最終パトロールをした時のように。
『夢は実現するのよ』ヘザーの言葉が浮かんで消えた。
コメント (4)
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