10月最後の週末、巷はレイバーウィークエンドで3連休だ。
南島で最後まで開いていたブロークンリバーも今週末でクローズ。
僕は深雪と友人の山小屋さんの3人で山に向かった。
山小屋さんは北海道でパウダーガイドをしている人で数年前からのつきあいだ。
2ヶ月かけて南島を自転車で一周する。
数日前にNZに到着、そのまま北村家の客人となった。
スキーガイドならばクラブフィールド訪問は絶対外せないでしょう。
ということで一緒にブロークンリバーへ向かうことになった。
カンタベリー平野を走っていると、正面に雪の載った山が見えてくる。
山小屋さんが言った。
「なーんか、十勝みたいだなあ。この雰囲気とか、山のある景色とか、農家の点在する感じもそっくりだよ」
「へえ、そうなんだ」
そのうちに雪山が近くになると彼のボルテージが高まる。
「おおお!あの斜面良さそうじゃん。これは雪が降ったらどこでも滑れるねえ」
「まだまだ、お楽しみはこれからだよ」
ブロークンリバーの駐車場に着くと、レネ一家が居た。
どうやらグッズリフトの調子が悪いのでしばらく動かないらしい。
それなら車で上がっちゃおう。クラブのメンバーはこういう事になれている。
レネ達を乗せ、細く狭く急な山道を登る。雪が道に残っていたら絶対に運転したくない道だが、春には通行可能となる。ただし自己責任だ。
レネ一家、深雪、山小屋さんを下ろし、僕は車を一段低いウィンディーコーナーへ持っていく。
そこへ停めれば帰りは車まで滑って降りられる。
山小屋さんはここは初めてだけど、深雪とレネがいれば大丈夫だろう。
ロープトーの乗り場で深雪達に追いつく。
山小屋さんは数回の練習の後、ロープトーに載り上へ。
僕も深雪を牽引しながら登っていった。
「ホラ、足元が細いから気を付けろよ。それからプーリーにぶつからないようにな。ぶつかったら痛いのは、オレじゃなくてオマエだからな」
深雪に声をかけながらロープトーに乗る。
こうやって牽引するのもあと1年ぐらいか。
来年はともかく再来年には深雪も1人でロープトーに乗ることだろう。
子供はどんどん自立して親からの距離が遠くなっていく。
昨日雪が降り、新雪15cmほど。
ただし春先特有の重い新雪、スキーで滑っているとぐぐっとブレーキがかかりおじぎをしてしまう、そんな雪である。
こんな時はテレマークは大変だろうな。
パーマーロッジで一休み。
レネの娘達、リアとナミが深雪と遊ぶ。
ここは子供が育つのに最高の環境だ。
滑らなくても、居るだけで幸せになれる場所。
パーマーロッジはそんな場所だ。
お昼はバーベキューである。
近所の肉屋の特製ソーセージを焼き、パンに挟んで食う。スパイツを飲みながら。嗚呼、人生とは至福なり。
午後山小屋さんと深雪と山頂へ。
天気予報は快晴だったが、雲が多少あり風も出てきた。
アーサーズパス方面も雲は厚く、マウントロールストンは雲の中だ。
クライストチャーチの方も雲が出ていて、ポートヒルがうっすら見える程度。
それでも山というのは気持ちが良く、人を元気にしてくれる場所だ。
山頂から裏のアランズベイスンへ山小屋さんをさそったがブーツの調子が悪いというので、深雪と2人でアランズベイスンへ。
尾根伝いに時には板を外し、時にはスキーを履いたまま岩をかわしながら移動。
親バカだが深雪のスキー操作は抜群だ。
狭いトラバースや石をまたいで踏み換えなどを小さいころからやっているので自然とスキーも上手くなる。
日本のスキー場で滑ったらビックリするだろうな。
重いパウダーを深雪が喜んで滑る。
今までは僕の後ろをついて滑るだけだったが、最近では僕よりも先に滑るようになった。
こうやって子供は親から離れていく。
嬉しいのが半分、寂しいのが半分。
そんな気持ちで僕は娘の滑りを眺めていた。
帰りは車までアランズベイスンを滑る。
雰囲気はちょっとしたバックカントリーだ。
山小屋さんはグッズリフトに乗りたいというので、深雪と2人で滑る。
重い雪を滑りながら深雪が言った。
「あ~あ、今日でスキーも終わりか。ずーっと冬だったらいいのに」
「まあ、そう言うな。夏があるから冬が来るんだよ。また来年滑りに来ればいいじゃんか」
今日で滑り納めということで子供なりに感傷的になっているようだ。
車にたどり着く時に、深雪が後ろの山を振り返って言った。
「サンキュー、ブロークンリバー。又来るからね」
僕はその言葉を心に刻みこんだ。
帰り道の途中でキャッスルヒルに寄る。
僕と深雪は何度も来ているが、山小屋さんは初めてだ。
来る途中にこの岩場の話をしたら、是非歩きたいということでスキーを早めに切り上げてきたのだ。
大きな岩の上に立ち大地を眺める。
土地の持つエネルギーが沸々と涌き上がる。
ここは何度来てもいい所だ。
「山小屋さん、このあたりはさあ、マオリの聖地でパワースポットなんだよね」
「オーストラリアにもそういう所があった。アボリジニの聖地があったよ」
こういう場所では人間が生き生きする。知らず知らずのうちに自然のパワーをもらっているのだ。
大人よりも子供の方がそういう物を感じ取るのだと思う。家族連れのピクニックには最高だ。
帰り際、ダーフィールドにあるレネの家に立ち寄る。
レネの奥さんのナオちゃんの作るゴマドレッシングを貰うためだ。
ボトルを持っていくとそれにドレッシングを詰めてくれる。
このドレッシングが絶品なのだ。この味を出すのに2年かかったという。作り方は企業秘密。
僕はドレッシングがなくなるとこうやって貰いに来る。
うちからはお返しに僕が作った納豆や味噌などを持っていき、物々交換のシステムができつつある。
深雪はすぐに子供部屋へ行き、リアとナミと一緒に遊び始める。
僕らは庭を見せて貰い、その間にナオちゃんがドレッシングを詰め替えてくれる。
レネがビールを出してきて言った。
「ヘッジも一杯やるか?」
「う~ん、今日は真っ直ぐ帰るよ」
ヤツの家はあまりに居心地がいいので、ちょっと寄っていくつもりが1時間位すぐに過ぎてしまう。
アブナイ家なのだ。
家に戻って晩飯だ。
今日は女房が腕をふるって餃子を作ってくれた。
「山小屋さん、うちのギョーザはニュージーランドで一番ウマイからね。それからギョーザと言えばビール。ビールと言えばギョーザ。これでしょう」
僕はそう言いつつスタインラガーのピュアを開けた。
混ぜ物を入れてないというのが売りの、このビールが最近のお気に入りだ。
ギョーザにはシャキっとしたラガーの方がエール系のスパイツよりも合う。
「まあまあ、お疲れさん、カンパイ。さあさあ、熱いうちに食べよう」
餃子を一つ食べた山小屋さんがうなる。
「ウマイ!なんまらウマイわ、こりゃ。」
「だから言ったでしょ。うちのギョーザはニュージーランドで一番ウマイって」
「本当だわ。いやあ、これはウマイなあ」
「オレも自分で料理をいろいろ作るけど、餃子は女房に一任だね」
「そりゃ、これだけウマイ餃子ならねえ」
深雪は無言で黙々と食べる。本当に美味い物を食べるときのこいつの癖だ。とても分かりやすい。
行きつけの肉屋の豚挽肉、庭の野菜、調味料だって厳選している。皮は市販だが、ちょっと厚いのでちょうどいい大きさまで伸ばす。
いろいろな手間を惜しまず、素材を厳選すれば餃子というのはここまで美味くなる。又、焼き具合も文句のつけようがないぐらいに完璧。
金はそんなにかからないが、作り手の愛が餃子一つ一つに込められている。ご馳走というのはこういう物をいうのだ。
庭で採れたレタスのサラダに、さっき貰ってきたゴマドレッシングが又合う。
この晩、僕らは何回『ウマイ』を連発したのだろう。
幸せというのは瞬間だ。その瞬間のつながりが人生となる。
僕はビールを飲みながら、ギョーザに包まれた幸せを噛みしめた。
南島で最後まで開いていたブロークンリバーも今週末でクローズ。
僕は深雪と友人の山小屋さんの3人で山に向かった。
山小屋さんは北海道でパウダーガイドをしている人で数年前からのつきあいだ。
2ヶ月かけて南島を自転車で一周する。
数日前にNZに到着、そのまま北村家の客人となった。
スキーガイドならばクラブフィールド訪問は絶対外せないでしょう。
ということで一緒にブロークンリバーへ向かうことになった。
カンタベリー平野を走っていると、正面に雪の載った山が見えてくる。
山小屋さんが言った。
「なーんか、十勝みたいだなあ。この雰囲気とか、山のある景色とか、農家の点在する感じもそっくりだよ」
「へえ、そうなんだ」
そのうちに雪山が近くになると彼のボルテージが高まる。
「おおお!あの斜面良さそうじゃん。これは雪が降ったらどこでも滑れるねえ」
「まだまだ、お楽しみはこれからだよ」
ブロークンリバーの駐車場に着くと、レネ一家が居た。
どうやらグッズリフトの調子が悪いのでしばらく動かないらしい。
それなら車で上がっちゃおう。クラブのメンバーはこういう事になれている。
レネ達を乗せ、細く狭く急な山道を登る。雪が道に残っていたら絶対に運転したくない道だが、春には通行可能となる。ただし自己責任だ。
レネ一家、深雪、山小屋さんを下ろし、僕は車を一段低いウィンディーコーナーへ持っていく。
そこへ停めれば帰りは車まで滑って降りられる。
山小屋さんはここは初めてだけど、深雪とレネがいれば大丈夫だろう。
ロープトーの乗り場で深雪達に追いつく。
山小屋さんは数回の練習の後、ロープトーに載り上へ。
僕も深雪を牽引しながら登っていった。
「ホラ、足元が細いから気を付けろよ。それからプーリーにぶつからないようにな。ぶつかったら痛いのは、オレじゃなくてオマエだからな」
深雪に声をかけながらロープトーに乗る。
こうやって牽引するのもあと1年ぐらいか。
来年はともかく再来年には深雪も1人でロープトーに乗ることだろう。
子供はどんどん自立して親からの距離が遠くなっていく。
昨日雪が降り、新雪15cmほど。
ただし春先特有の重い新雪、スキーで滑っているとぐぐっとブレーキがかかりおじぎをしてしまう、そんな雪である。
こんな時はテレマークは大変だろうな。
パーマーロッジで一休み。
レネの娘達、リアとナミが深雪と遊ぶ。
ここは子供が育つのに最高の環境だ。
滑らなくても、居るだけで幸せになれる場所。
パーマーロッジはそんな場所だ。
お昼はバーベキューである。
近所の肉屋の特製ソーセージを焼き、パンに挟んで食う。スパイツを飲みながら。嗚呼、人生とは至福なり。
午後山小屋さんと深雪と山頂へ。
天気予報は快晴だったが、雲が多少あり風も出てきた。
アーサーズパス方面も雲は厚く、マウントロールストンは雲の中だ。
クライストチャーチの方も雲が出ていて、ポートヒルがうっすら見える程度。
それでも山というのは気持ちが良く、人を元気にしてくれる場所だ。
山頂から裏のアランズベイスンへ山小屋さんをさそったがブーツの調子が悪いというので、深雪と2人でアランズベイスンへ。
尾根伝いに時には板を外し、時にはスキーを履いたまま岩をかわしながら移動。
親バカだが深雪のスキー操作は抜群だ。
狭いトラバースや石をまたいで踏み換えなどを小さいころからやっているので自然とスキーも上手くなる。
日本のスキー場で滑ったらビックリするだろうな。
重いパウダーを深雪が喜んで滑る。
今までは僕の後ろをついて滑るだけだったが、最近では僕よりも先に滑るようになった。
こうやって子供は親から離れていく。
嬉しいのが半分、寂しいのが半分。
そんな気持ちで僕は娘の滑りを眺めていた。
帰りは車までアランズベイスンを滑る。
雰囲気はちょっとしたバックカントリーだ。
山小屋さんはグッズリフトに乗りたいというので、深雪と2人で滑る。
重い雪を滑りながら深雪が言った。
「あ~あ、今日でスキーも終わりか。ずーっと冬だったらいいのに」
「まあ、そう言うな。夏があるから冬が来るんだよ。また来年滑りに来ればいいじゃんか」
今日で滑り納めということで子供なりに感傷的になっているようだ。
車にたどり着く時に、深雪が後ろの山を振り返って言った。
「サンキュー、ブロークンリバー。又来るからね」
僕はその言葉を心に刻みこんだ。
帰り道の途中でキャッスルヒルに寄る。
僕と深雪は何度も来ているが、山小屋さんは初めてだ。
来る途中にこの岩場の話をしたら、是非歩きたいということでスキーを早めに切り上げてきたのだ。
大きな岩の上に立ち大地を眺める。
土地の持つエネルギーが沸々と涌き上がる。
ここは何度来てもいい所だ。
「山小屋さん、このあたりはさあ、マオリの聖地でパワースポットなんだよね」
「オーストラリアにもそういう所があった。アボリジニの聖地があったよ」
こういう場所では人間が生き生きする。知らず知らずのうちに自然のパワーをもらっているのだ。
大人よりも子供の方がそういう物を感じ取るのだと思う。家族連れのピクニックには最高だ。
帰り際、ダーフィールドにあるレネの家に立ち寄る。
レネの奥さんのナオちゃんの作るゴマドレッシングを貰うためだ。
ボトルを持っていくとそれにドレッシングを詰めてくれる。
このドレッシングが絶品なのだ。この味を出すのに2年かかったという。作り方は企業秘密。
僕はドレッシングがなくなるとこうやって貰いに来る。
うちからはお返しに僕が作った納豆や味噌などを持っていき、物々交換のシステムができつつある。
深雪はすぐに子供部屋へ行き、リアとナミと一緒に遊び始める。
僕らは庭を見せて貰い、その間にナオちゃんがドレッシングを詰め替えてくれる。
レネがビールを出してきて言った。
「ヘッジも一杯やるか?」
「う~ん、今日は真っ直ぐ帰るよ」
ヤツの家はあまりに居心地がいいので、ちょっと寄っていくつもりが1時間位すぐに過ぎてしまう。
アブナイ家なのだ。
家に戻って晩飯だ。
今日は女房が腕をふるって餃子を作ってくれた。
「山小屋さん、うちのギョーザはニュージーランドで一番ウマイからね。それからギョーザと言えばビール。ビールと言えばギョーザ。これでしょう」
僕はそう言いつつスタインラガーのピュアを開けた。
混ぜ物を入れてないというのが売りの、このビールが最近のお気に入りだ。
ギョーザにはシャキっとしたラガーの方がエール系のスパイツよりも合う。
「まあまあ、お疲れさん、カンパイ。さあさあ、熱いうちに食べよう」
餃子を一つ食べた山小屋さんがうなる。
「ウマイ!なんまらウマイわ、こりゃ。」
「だから言ったでしょ。うちのギョーザはニュージーランドで一番ウマイって」
「本当だわ。いやあ、これはウマイなあ」
「オレも自分で料理をいろいろ作るけど、餃子は女房に一任だね」
「そりゃ、これだけウマイ餃子ならねえ」
深雪は無言で黙々と食べる。本当に美味い物を食べるときのこいつの癖だ。とても分かりやすい。
行きつけの肉屋の豚挽肉、庭の野菜、調味料だって厳選している。皮は市販だが、ちょっと厚いのでちょうどいい大きさまで伸ばす。
いろいろな手間を惜しまず、素材を厳選すれば餃子というのはここまで美味くなる。又、焼き具合も文句のつけようがないぐらいに完璧。
金はそんなにかからないが、作り手の愛が餃子一つ一つに込められている。ご馳走というのはこういう物をいうのだ。
庭で採れたレタスのサラダに、さっき貰ってきたゴマドレッシングが又合う。
この晩、僕らは何回『ウマイ』を連発したのだろう。
幸せというのは瞬間だ。その瞬間のつながりが人生となる。
僕はビールを飲みながら、ギョーザに包まれた幸せを噛みしめた。