神社の前にはこれまたヘイリーが喜びそうな古道具屋がある。ヤツなら2~3時間は簡単に過ごせるだろう。そう思った矢先にヤツが言った。
「ここなら1日ぐらい簡単に過ぎちまいそうだ」
スーが土産に下駄スケートを買いたいと言い出したので一つの店を覗いた。
文字通り下駄にスケートがついているのだ。スケートが盛んなカナダにはいい土産になるだろう。
商品はまだ外に出してあるのだが、店の主人は仕舞支度をしていた。
「あのーすいません。まだいいですか?」
「今日は用事があるので閉めようと思っているのだがね・・・」
「外の下駄スケートが欲しいんですが・・・」
冷やかしじゃない客だと分かって主人は急に愛想が良くなった。
「まあまあ、いらっしゃい。あなたが買うの?お国はどこ?カナダなの、そう。このスケートは40年位前の物だね。わたしもねえ何年も前にお城の堀で滑った事があるよ。松本城はもう行った?そうあのお堀ね。その時は氷が薄くて落ちちゃったのだよ」
オヤジが言った事を一々僕が訳してスーに伝える。スーはクスクスと笑う。若い娘に話がウケるものだからオヤジの話は止まらない。
「このスケートは鼻緒の所でつま先を固定するだけだから足首が浮くでしょう。だからこういう紐で足首を固定する」
オヤジは店の奥からゴソゴソとテープスリングのようなヒモを出してきた。
「これは真田紐って言うんだ。分かる?サナダヒモ」
スーが真似する。
「サナダヒモ」
「そうそうサナダヒモ。これもおまけにつけとくから家の人にも使い方を教えてあげて。ありがとうございました」
主人は実に愛想良く僕等を送り出した。
帰りにはブラウニーの為に薬屋へ寄る。薬屋といってもよく郊外にある大型のスーパーみたいな薬局である。
ヘイリーがバンドエイドを欲しいと言うので2人で探しに行く。
売り場に来て僕達は顔を見合わせた。あるわあるわ、大きいのから小さいのまで。色は透明な物、肌色、カラフルな物、娘が喜びそうなキャラクターの物。形だって細い物、四角い物、指先用に特殊な形をしている物、耐水性の物。バンドエイドだけで何十種類あるんだ。あまりの物の多さに圧倒されてしまうのは僕だけではなかった。
ここで僕は千振を買った。千度振り出してもなお苦いのでこの名前がついている薬草である。健胃材であり非常に苦いがこのにがみは飲みつけると病みつきになる。夏の暑いとき、この煎じ汁を冷やして何リットルも飲んだがお腹をこわしたことは無かった。
東洋医学をブラウニーの体で試したいのと、この恐ろしく苦い薬をヤツがどんな顔で飲むのか見たいのと半々の気持ちで薬を買った。
帰ってみるとブラウニーがテレビを見ていた。朝より調子は良さそうだ。
「どうだブラウニー調子は?」
「だいぶマシになったがまだ本調子じゃないよ」
「よし、オレが東洋医学を見せてやる。郷に入れば郷に従えだ。オレに従え」
「分かった。オマエに従う」
いつもなら一言多いこの男も今日は素直だ。
「じゃあこれを飲め。恐ろしく苦いぞ。日本の諺でこんなのがある、良薬口に苦し」
僕は湯呑に並々と煎じ薬を入れヤツに渡した。ヤツは恐る恐る舐めてみて期待通り苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「ウワッ、スゴイ味だな。これを全部飲むのか?」
「そうだ、全部飲め。ここではオレに従え」
僕はエラソーに言った。
「分かった。ここではオマエに従う」
ヤツはヨワソーに言った。そして本当にマズソーにシブシブ薬を飲み干した。横で見ていたヘイリーが言う。
「そんなにマズイのか?どれ、オレにも味見させろ。うーん、確かに苦いな。だけどオレは飲めそうだぞ」
ヤツはその後コップ一杯飲んでしまった。
続
「ここなら1日ぐらい簡単に過ぎちまいそうだ」
スーが土産に下駄スケートを買いたいと言い出したので一つの店を覗いた。
文字通り下駄にスケートがついているのだ。スケートが盛んなカナダにはいい土産になるだろう。
商品はまだ外に出してあるのだが、店の主人は仕舞支度をしていた。
「あのーすいません。まだいいですか?」
「今日は用事があるので閉めようと思っているのだがね・・・」
「外の下駄スケートが欲しいんですが・・・」
冷やかしじゃない客だと分かって主人は急に愛想が良くなった。
「まあまあ、いらっしゃい。あなたが買うの?お国はどこ?カナダなの、そう。このスケートは40年位前の物だね。わたしもねえ何年も前にお城の堀で滑った事があるよ。松本城はもう行った?そうあのお堀ね。その時は氷が薄くて落ちちゃったのだよ」
オヤジが言った事を一々僕が訳してスーに伝える。スーはクスクスと笑う。若い娘に話がウケるものだからオヤジの話は止まらない。
「このスケートは鼻緒の所でつま先を固定するだけだから足首が浮くでしょう。だからこういう紐で足首を固定する」
オヤジは店の奥からゴソゴソとテープスリングのようなヒモを出してきた。
「これは真田紐って言うんだ。分かる?サナダヒモ」
スーが真似する。
「サナダヒモ」
「そうそうサナダヒモ。これもおまけにつけとくから家の人にも使い方を教えてあげて。ありがとうございました」
主人は実に愛想良く僕等を送り出した。
帰りにはブラウニーの為に薬屋へ寄る。薬屋といってもよく郊外にある大型のスーパーみたいな薬局である。
ヘイリーがバンドエイドを欲しいと言うので2人で探しに行く。
売り場に来て僕達は顔を見合わせた。あるわあるわ、大きいのから小さいのまで。色は透明な物、肌色、カラフルな物、娘が喜びそうなキャラクターの物。形だって細い物、四角い物、指先用に特殊な形をしている物、耐水性の物。バンドエイドだけで何十種類あるんだ。あまりの物の多さに圧倒されてしまうのは僕だけではなかった。
ここで僕は千振を買った。千度振り出してもなお苦いのでこの名前がついている薬草である。健胃材であり非常に苦いがこのにがみは飲みつけると病みつきになる。夏の暑いとき、この煎じ汁を冷やして何リットルも飲んだがお腹をこわしたことは無かった。
東洋医学をブラウニーの体で試したいのと、この恐ろしく苦い薬をヤツがどんな顔で飲むのか見たいのと半々の気持ちで薬を買った。
帰ってみるとブラウニーがテレビを見ていた。朝より調子は良さそうだ。
「どうだブラウニー調子は?」
「だいぶマシになったがまだ本調子じゃないよ」
「よし、オレが東洋医学を見せてやる。郷に入れば郷に従えだ。オレに従え」
「分かった。オマエに従う」
いつもなら一言多いこの男も今日は素直だ。
「じゃあこれを飲め。恐ろしく苦いぞ。日本の諺でこんなのがある、良薬口に苦し」
僕は湯呑に並々と煎じ薬を入れヤツに渡した。ヤツは恐る恐る舐めてみて期待通り苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「ウワッ、スゴイ味だな。これを全部飲むのか?」
「そうだ、全部飲め。ここではオレに従え」
僕はエラソーに言った。
「分かった。ここではオマエに従う」
ヤツはヨワソーに言った。そして本当にマズソーにシブシブ薬を飲み干した。横で見ていたヘイリーが言う。
「そんなにマズイのか?どれ、オレにも味見させろ。うーん、確かに苦いな。だけどオレは飲めそうだぞ」
ヤツはその後コップ一杯飲んでしまった。
続