こんなに楽しい事ばかりだと何をしに日本へ行ったのか分らないので仕事の話も書く。
前にも触れたが、今回はニュージーランドのスキー場と日本のスキー場との交流の為のイベントである。イベントのメインはフリースキーの大会であり、そのジャッジを僕達がするのだ。
大会と言っても堅苦しいものではなく、楽しんで滑るというのが第一の目的だ。なので必ずしも上手い人が勝つとは限らない。
採点は情熱、創造性、スピード、技術、楽しさ、総合、などで点を得る。1時間半のセッションを2回、グループをいれかえてするので色々な人と滑る事ができる。
全員が全てのジャッジと一緒に滑るわけではないので不公平とも言えるし、運で勝敗が左右されるが、楽しく滑るのが目的なのでこれでいいのだ。
日曜日の朝、イベント初日とあってたくさんの人が来てくれた。もちろんローカルの数も多い。昨日一緒に飲んだ顔もある。
その中の1人がメンバーにプレゼントを持ってきてくれた。日の丸の鉢巻で漢字が書いてある。皆は当然ながら読めないので、僕のところへ持って来て意味を聞く。
「どれどれ、ブラウニーは一番、ナンバーワンだ。オマエにぴったりだな。ヘイリーのは根性かあ、根性はなんて言うんだろう、スピリットとかガッツとかそんなのだ。ヘザーは闘魂、ファイティングスピリットだ。オレが配ったわけじゃないから文句を言うなよ」
ブラウニーは文句なしに大喜び。子供は1番が好きなのだ。
個人的にはヘイリーは根性などではなく、快楽、自由、天然、享楽、奔放、美酒、などがいいと思うのだが、そんな鉢巻はないだろうな。ヤツも嬉しそうにグフフフと笑った。
ヘザーは嬉しいながらも、ちょっと複雑そうな顔をしている。ここへ来る車の中でヘザーがこんな事を言っていたのだ。
「あたしの悩みはねえ、男達があたしを女扱いしないのよ。サーフィンをやっているでしょ、いい波が来ると他の女の子に男達は波を譲るのよ。あたしには絶対譲らないくせに。おかげであたしはいつも男達と波の奪い合いよ。スキーだってそうだわ。いいラインを滑る為には男達より早くそこに行かなきゃ。男達は絶対待ってくれないもの」
その辺の女の子とニュージーランドチャンピオンを比べる方が無理があると思うのだが、彼女の中ではそうではないらしい。僕だって目の前にパウダーがあったら、ヘザーにラインを譲るようなことはしないだろう。
実力のある女は男と闘う宿命にある。その為には闘魂が必要なのだ。『ヘザーよ、その鉢巻はオマエ用だ』と僕は心の中で呟いた。
組分けをしてグループごとに分かれる。メンバーは皆こころなしか緊張しているようだ。僕だってそうだ。人様の滑りを見て、それで点をつけるなんて恐れ多い事、性に合わないがやるしかない。
ジャッジによってやり方は自由というのがとても良い。僕は僕のやり方でやらせてもらう。
ぼくはスキーガイド、トレッキングガイドの目で見た日本の山を皆に伝えたかったのでガンガン滑るのではなく、止って景色を見ながら皆と話した。
「前に居た時にはこの山の裏に1人でツアーに行ったんだ。奥の笹倉温泉までの1日ツアーね。あの尾根を下っていくと川があってそこをどうしても越えなくちゃ先に行けない。水は少ないけど、川の両側が雪の壁になっていてねえ。なかなか登るのに苦労したよ。その辺りで獣の臭いがプンプンするわけだ。怖かったなあ、あの時は。あの谷ではたまに人が襲われるからね。心の中で『そっと出て行きますから、熊さんどうかこのまま眠っていて下さい』そう祈りながら渡ったよ。いやあ怖かった。ニュージーランドでは人を襲う動物がいないから、その点では安心して山に入れるんだ。ツアーを終えてその後は温泉にビール。これは日本の良い所だね。じゃあゆっくり滑るから付いて来て」
何処を滑るのも僕の自由なのでオフピステへ向かう。
オフピステとは圧雪車が入っていない場所のことである。
雪が降れば新雪、溶ければ湿雪、表面が凍ればクラスト、ガチガチに凍ればアイスバーン、春先の表面だけが柔らかくなったのはスプリングコーン。雪質は天候、気温、風などにより常に変る。より自然の状態に近い雪だ。その他、新雪の後スキーヤーやボーダーに踏まれてボコボコになった状態をクラッドと呼ぶ。
僕はオフピステスキーヤーなので整地など興味が無い。正直な話、圧雪バーンを綺麗に滑ることはヘタクソだ。若い時には少しは練習などもしたが、今では開き直って『オレはこのスタイルでいいのだ』などと言っている。
圧雪車が無い、もしくはあってもほとんど使わないスキー場で滑っているので、圧雪バーンなど年に数回滑るぐらいだ。圧雪の上を滑ると、なんて楽なんだろうと思ってしまう。
「ここのスキー場はローカル有利なんだ。あそこに木があるでしょう。そうそう固まって生えている木。その先がここからは見えないよね。だけどローカル達はあの先にどういう斜面があるのか知っているんだ。この差は大きいよ。じゃあ皆ついて来て」
同じ斜面でも微妙に凹凸があり、影になる場所がある。そのラインを目掛けて板を走らせる。まだまだ雪は良い。僕は畳4畳ぐらいのスペースに板を潜らせた。多少重くなりかけた雪にキングスウッドがしなる。柔らかい反動で体が押し上げられる。せっかくのパウダー、食い残しを作っちゃいかん。
そんな滑りをして止ると皆がヒャッホーだのワーだの言いながら下りて来た。みんな楽しそうでヨロシイ。スキーは楽しいものなのだ。しかめっ面をしてすべるなど言語道断。
1人が転倒。照れくさそうに下りて来た彼に僕は言った。
「ハイハイ、僕の採点基準ではコケルのも得点のうちです。カギはその後で笑っていられるかどうか。例えばねえ、リフトのすぐ横で大転倒などして、そのすぐ後にリフトに乗ってる人に向かってウォーなんて叫んでくれたら創造性は満点だね」
和やかな雰囲気で2回のセッションが終わり、休憩を挟み講演である。
スキー場の建物の2階に小さなカフェがある。このカフェも宿のシャチョーがやっており、今回のイベントの為に快くこの場所を提供してくれた。講演、表彰式などはここで行なう。
カフェの壁には地元の小学生が作った壁新聞、ニュージーランドのポスターなどが貼られている。一角には大会の景品がズラリと並び、その横で大きなジグザグマンが居座る。
クラブフィールドに行った事の無い人にどんな場所か伝える。どうやって伝えようか?その為に今回はポスター、多数の写真、DVDなどを用意した。しかし映像や音声ではどうやっても伝えきれない世界はある。それを知りたければそこに行く以外ない。
普段ニュージーランドの自然の中で遊んでいて感じることだが、常に自分の想像を越える世界がそこにある。百聞は一見にしかず、とはよく言ったもので、自分がその場に立たないと理解できない世界というものだ。人間の想像力の限界と自然の大きさの対比が楽しめる。
想像をはるかに越えた世界へ来ると人は言葉を失う。もしくはボキャブラリーが貧困になり、スゴイという言葉しか出てこない。
ましてやクラブフィールドなんて、そこの山、人、施設、歴史が混ざり合った良さがあるのだ。どこからどう喋ればよいのか途方にくれる。
途方にくれながらも何とか講演が終わると次は表彰式である。1等はスキー板、その他景品はかなり豪華だ。
今回来てびっくりしたのはスポンサーの数である。50以上もの会社、団体、個人が協力してくれた。地元の酒蔵、味噌蔵、旅館、お店などが自分のところの商品などを提供してくれた。
スポンサーは地元だけではない。北海道の農家はジャガイモを送ってくれた。四国のラフティング会社はガイドツアーを、長野のペンションは宿泊券を、もちろん金銭で協力してくれた人もたくさんいた。
いろいろな人が無理をせず、各自で出来ることで協力する。有り難いことである。
理想的な祭りの盛り上げ方だ。
続
前にも触れたが、今回はニュージーランドのスキー場と日本のスキー場との交流の為のイベントである。イベントのメインはフリースキーの大会であり、そのジャッジを僕達がするのだ。
大会と言っても堅苦しいものではなく、楽しんで滑るというのが第一の目的だ。なので必ずしも上手い人が勝つとは限らない。
採点は情熱、創造性、スピード、技術、楽しさ、総合、などで点を得る。1時間半のセッションを2回、グループをいれかえてするので色々な人と滑る事ができる。
全員が全てのジャッジと一緒に滑るわけではないので不公平とも言えるし、運で勝敗が左右されるが、楽しく滑るのが目的なのでこれでいいのだ。
日曜日の朝、イベント初日とあってたくさんの人が来てくれた。もちろんローカルの数も多い。昨日一緒に飲んだ顔もある。
その中の1人がメンバーにプレゼントを持ってきてくれた。日の丸の鉢巻で漢字が書いてある。皆は当然ながら読めないので、僕のところへ持って来て意味を聞く。
「どれどれ、ブラウニーは一番、ナンバーワンだ。オマエにぴったりだな。ヘイリーのは根性かあ、根性はなんて言うんだろう、スピリットとかガッツとかそんなのだ。ヘザーは闘魂、ファイティングスピリットだ。オレが配ったわけじゃないから文句を言うなよ」
ブラウニーは文句なしに大喜び。子供は1番が好きなのだ。
個人的にはヘイリーは根性などではなく、快楽、自由、天然、享楽、奔放、美酒、などがいいと思うのだが、そんな鉢巻はないだろうな。ヤツも嬉しそうにグフフフと笑った。
ヘザーは嬉しいながらも、ちょっと複雑そうな顔をしている。ここへ来る車の中でヘザーがこんな事を言っていたのだ。
「あたしの悩みはねえ、男達があたしを女扱いしないのよ。サーフィンをやっているでしょ、いい波が来ると他の女の子に男達は波を譲るのよ。あたしには絶対譲らないくせに。おかげであたしはいつも男達と波の奪い合いよ。スキーだってそうだわ。いいラインを滑る為には男達より早くそこに行かなきゃ。男達は絶対待ってくれないもの」
その辺の女の子とニュージーランドチャンピオンを比べる方が無理があると思うのだが、彼女の中ではそうではないらしい。僕だって目の前にパウダーがあったら、ヘザーにラインを譲るようなことはしないだろう。
実力のある女は男と闘う宿命にある。その為には闘魂が必要なのだ。『ヘザーよ、その鉢巻はオマエ用だ』と僕は心の中で呟いた。
組分けをしてグループごとに分かれる。メンバーは皆こころなしか緊張しているようだ。僕だってそうだ。人様の滑りを見て、それで点をつけるなんて恐れ多い事、性に合わないがやるしかない。
ジャッジによってやり方は自由というのがとても良い。僕は僕のやり方でやらせてもらう。
ぼくはスキーガイド、トレッキングガイドの目で見た日本の山を皆に伝えたかったのでガンガン滑るのではなく、止って景色を見ながら皆と話した。
「前に居た時にはこの山の裏に1人でツアーに行ったんだ。奥の笹倉温泉までの1日ツアーね。あの尾根を下っていくと川があってそこをどうしても越えなくちゃ先に行けない。水は少ないけど、川の両側が雪の壁になっていてねえ。なかなか登るのに苦労したよ。その辺りで獣の臭いがプンプンするわけだ。怖かったなあ、あの時は。あの谷ではたまに人が襲われるからね。心の中で『そっと出て行きますから、熊さんどうかこのまま眠っていて下さい』そう祈りながら渡ったよ。いやあ怖かった。ニュージーランドでは人を襲う動物がいないから、その点では安心して山に入れるんだ。ツアーを終えてその後は温泉にビール。これは日本の良い所だね。じゃあゆっくり滑るから付いて来て」
何処を滑るのも僕の自由なのでオフピステへ向かう。
オフピステとは圧雪車が入っていない場所のことである。
雪が降れば新雪、溶ければ湿雪、表面が凍ればクラスト、ガチガチに凍ればアイスバーン、春先の表面だけが柔らかくなったのはスプリングコーン。雪質は天候、気温、風などにより常に変る。より自然の状態に近い雪だ。その他、新雪の後スキーヤーやボーダーに踏まれてボコボコになった状態をクラッドと呼ぶ。
僕はオフピステスキーヤーなので整地など興味が無い。正直な話、圧雪バーンを綺麗に滑ることはヘタクソだ。若い時には少しは練習などもしたが、今では開き直って『オレはこのスタイルでいいのだ』などと言っている。
圧雪車が無い、もしくはあってもほとんど使わないスキー場で滑っているので、圧雪バーンなど年に数回滑るぐらいだ。圧雪の上を滑ると、なんて楽なんだろうと思ってしまう。
「ここのスキー場はローカル有利なんだ。あそこに木があるでしょう。そうそう固まって生えている木。その先がここからは見えないよね。だけどローカル達はあの先にどういう斜面があるのか知っているんだ。この差は大きいよ。じゃあ皆ついて来て」
同じ斜面でも微妙に凹凸があり、影になる場所がある。そのラインを目掛けて板を走らせる。まだまだ雪は良い。僕は畳4畳ぐらいのスペースに板を潜らせた。多少重くなりかけた雪にキングスウッドがしなる。柔らかい反動で体が押し上げられる。せっかくのパウダー、食い残しを作っちゃいかん。
そんな滑りをして止ると皆がヒャッホーだのワーだの言いながら下りて来た。みんな楽しそうでヨロシイ。スキーは楽しいものなのだ。しかめっ面をしてすべるなど言語道断。
1人が転倒。照れくさそうに下りて来た彼に僕は言った。
「ハイハイ、僕の採点基準ではコケルのも得点のうちです。カギはその後で笑っていられるかどうか。例えばねえ、リフトのすぐ横で大転倒などして、そのすぐ後にリフトに乗ってる人に向かってウォーなんて叫んでくれたら創造性は満点だね」
和やかな雰囲気で2回のセッションが終わり、休憩を挟み講演である。
スキー場の建物の2階に小さなカフェがある。このカフェも宿のシャチョーがやっており、今回のイベントの為に快くこの場所を提供してくれた。講演、表彰式などはここで行なう。
カフェの壁には地元の小学生が作った壁新聞、ニュージーランドのポスターなどが貼られている。一角には大会の景品がズラリと並び、その横で大きなジグザグマンが居座る。
クラブフィールドに行った事の無い人にどんな場所か伝える。どうやって伝えようか?その為に今回はポスター、多数の写真、DVDなどを用意した。しかし映像や音声ではどうやっても伝えきれない世界はある。それを知りたければそこに行く以外ない。
普段ニュージーランドの自然の中で遊んでいて感じることだが、常に自分の想像を越える世界がそこにある。百聞は一見にしかず、とはよく言ったもので、自分がその場に立たないと理解できない世界というものだ。人間の想像力の限界と自然の大きさの対比が楽しめる。
想像をはるかに越えた世界へ来ると人は言葉を失う。もしくはボキャブラリーが貧困になり、スゴイという言葉しか出てこない。
ましてやクラブフィールドなんて、そこの山、人、施設、歴史が混ざり合った良さがあるのだ。どこからどう喋ればよいのか途方にくれる。
途方にくれながらも何とか講演が終わると次は表彰式である。1等はスキー板、その他景品はかなり豪華だ。
今回来てびっくりしたのはスポンサーの数である。50以上もの会社、団体、個人が協力してくれた。地元の酒蔵、味噌蔵、旅館、お店などが自分のところの商品などを提供してくれた。
スポンサーは地元だけではない。北海道の農家はジャガイモを送ってくれた。四国のラフティング会社はガイドツアーを、長野のペンションは宿泊券を、もちろん金銭で協力してくれた人もたくさんいた。
いろいろな人が無理をせず、各自で出来ることで協力する。有り難いことである。
理想的な祭りの盛り上げ方だ。
続