翌朝、先輩ヅラをしたりないブラウニーがアレックスを起こす。
「アレックス、いつまで寝ているんだ。オンセンに行くぞ」
「朝からオンセンに入るのか?」
「当たり前だろ。オレ達は先に入っているから後で来いよ」
風呂に浸かり体を伸ばしながらアレックスが言った。
「1日の始まりでこうやって体を温めるのは良いなあ。僕は朝いつも体が硬くてストレッチをするのがしんどいけど、これは健康にもとても良いね」
皆、自分なりに日本の良い所を見て楽しんでいる。
悪い所も見えるだろうが僕には、あからさまに言わない。
この日は地元の小学生との交流である。朝1時間ほど子供達とそり遊びをする。ゲレンデの隅にはそりゲレンデがあり、チューブのレンタルもしている。子供なら3人ぐらい乗れる大きさだ。
「ヘッジ、あたしはフェイスペインティング(顔にいろいろ描くこと)ができるけど、そんなのはどう?」ヘザーが言った。
「良いじゃないか。さっそく用意しよう」
遊びとなるとブラウニーだって負けてはいない。
「ヘッジ、ただ滑るだけじゃ、つまらないだろ。小さなジャンプ台を作ろう」
「よしきた。スコップを用意しよう」
物事を楽しむという事に関しては、メンバーは天才的な力を持っている。
あっという間にヘザーの周りでは子供が輪になり、おとなしく顔に絵を描かれ、それが終わった子はチューブに乗りブラウニー作のジャンプ台で遊ぶ。
この時に子供より楽しんでいたのはアベ先生だった。アベ先生は若い女性の先生で、子供と一緒にチューブに乗り黄色い歓声をあげていた。子供達だって大人がムッツリと腕を組んで見張っているのより、自分達と一緒になってキャーキャー遊ぶ先生が好きに決まってる。
その子供達と精神年齢があまり変らないブラウニーが調子にのる。
「よーし、今度はオレを飛び越えていけ」
そう言うなり、ジャンプ台の向こうにゴロンと寝転んでしまった。子供達は大喜びである。
キウィ(ニュージーランド人)たちは遊ぶ時も全力で遊ぶ。自分達が面白そうと思った事はどんどんやる。そんな時でも子供達が調子にのって危ない方向に向かえば、柔らかく止め安全に遊ぶ方向へ持っていく。
いたずら好きそうな子が今度は自分でも人の顔に何か書きたいらしく、ペンを持ってきたのでおとなしく描かれてあげた。何を描いたのか聞いたが僕の知らないキャラクターのようなので会話があまり続かなかった。鏡が無いので自分がどんな顔をしているか分らないが、みんなが笑っているのでまあ良しとしよう。
そり遊びの後は生徒による発表会である。幾つかの班に分かれて秋に山に登った様子や山の自然のことなどを発表する。カフェの壁一面には子供達が作った壁新聞がイベント期間中貼られていた。なかなかよろしい。
発表のあとにチームニュージーランドを代表して僕がニュージーランドの事、スキー場の事、日本とニュージーランドの山の違いなどを話した。
その時僕は真面目な顔をして話をしたのだが、その場に居合わせた全員、僕の顔の落書きを見ながら話を聞いたわけである。ずいぶんマヌケなおじさんに見えた事だろう。
子供達はたぶんアベ先生に、顔を洗いなさいと言われたのだろう。しかし37歳のオジサンに、顔を洗いなさいなどと言う人は1人もいなくて『知らぬは自分ばかりなり』と後でトイレの鏡を見て深く反省したのだった。
ともあれ子供達との交流はメンバーにも大好評で、こういう企画をしたハヤピとテツの株がまた上がった。
午後は市内観光である。今回のスポンサーでもある地元の酒蔵、加賀の井を訪れる。
僕はクィーンズタウン近辺のワイナリーなどをガイドするが、日本の造り酒屋などは初めてだ。
まず建物の立派さに驚いた。長年の雪の重みに耐えてきた建物がある。
蔵の壁が欠けて壁の構造が見える場所で、ヘイリーが壁に触って自分なりに納得している。アレックスとクリスは門構えと日本庭園に見とれる。
杜氏の小林さんの言葉を皆に伝える。創業1650年、350年前に酒を造り始めた話をするとどよめきが起きた。350年前のニュージーランドは白人が訪れるはるか以前であり、マオリ族しかいなかった。歴史の重みというのを皆が感じていた。
殺菌、醗酵など普段使わない言葉に舌を噛みそうになりながら説明をする。アレックスが助けをだす。
「ヘッジ、そんな難しい言葉使わないでいいよ」
研磨された米のサンプルがあるので吟醸酒の値段が高いのも頷ける。これも又、日本の文化である。
説明が終わると利き酒の時間だ。
美味い酒を味わうというのは国や民族を超えて共通のものである。ヘイリーもアレックスも大喜びで何本も買い込んでいた。
糸魚川駅に隣接した建物にひすい王国館というものがある。地元で取れた翡翠の展示、販売をしている。
僕らはブラブラとその中を歩く。
下校途中の女子高生の集団が通り過ぎる。皆ミニスカートから健康そうな足をのぞかせている。
アレックスが喜んでビデオを撮る。まるで変質者だ。奥さんのクリスが、しょうがない人ね、といった感じで笑う。
メンバーの興味を引いたのは翡翠よりも、本州中央部の大きな模型だった。山、谷、平野、海岸線などの地形がとても分かり易い。
模型では手前が日本海側、奥が太平洋側と南が上になっている。
「ほらヘイリー、オレのホームタウンのシミズがあるぞ。フジサンのすぐ近くだ」
「こうやって見ると日本は山が多いな」
「ニュージーランドは南アルプスだけだろ。日本には北アルプス、中央アルプス、南アルプスがある。どれも3000メートル級の山塊だ」
「それはスゴイな」
「ニュージーランドと大きく違う点は、どの山でも山頂まで登山道がついている。夏なら頑張れば誰でも上れる。まあトランピングだな」
ニュージーランドで3000メートルというと岩と氷河の世界だ。登山道など作りようが無い。標高は高くないが山は厳しい。
基本的に用具を使う、いわゆる登攀をクライミング。それ以外の山歩きはトレッキングやトランピングと呼ばれる。トレッキングでもアイゼンやピッケルを持つ場合もあるが、あくまで一時的な補助用具としてだ。
両者の間には明確な区別がある。
「それだけ登る人も多いんだろ」
「ああ、オレは日本の夏山はほとんど知らないが、最初から最後まで人の背中を見ながら歩いた、なんて話も聞く。ピークシーズンには山小屋もキュウキュウで、俺たちが今使っている布団があるだろ、あれに3人寝る、なんて事もあるそうだ」
「ウーン、それじゃあ寝られないだろう」
「そうさ。それになあ、山道でゴミがひどいらしい。ルートバーンで一緒に歩く人が皆言うんだ。ここはゴミが無くていいですねえって」
「そうなのか。うーん」
「日本も良い所ばかりじゃないんだよ。それより次に行くぞ」
次は神社だ。雨の降る中、僕らは境内を歩いた。杉の大木がうっそうと茂り、別世界のようだ。
拝殿は見事な萱葺きで、ヘイリーはまたしても軒下などを覗き込む。アレックスは大喜びでビデオをまわす。
拝殿には賽銭箱があり、頭上の鈴から太いヒモがぶら下がっている。
「ブラウニー、お参りの仕方を教えてやる。まず、この箱に小銭をいれる」
「外国のコインでもいいのか?」
「うーん、まあ神様もたまには変ったお金を見たいだろうしな、まあいいか。次はこのヒモを引っぱって鈴をガランガランと鳴らす。2回手を打って拝む」
僕らがワイワイやっていると、一人の老婆が通り過ぎがてら、手を合わせ頭を下げ去っていった。
「見ろ、ここは今でも信仰の場所なんだぞ」
みんなは老婆の姿に多少ならず心をうたれたようだった。
次は街の大型電化製品店へ。
ニュージーランドは日本に比べ電器製品、特に電子機器が高く、数年遅れている。遅れている分に関しては全然不自由しないのだが、高いのはかなわない。
みんなはそれぞれに店を見ていたが、いつのまにかマッサージチェアーのコーナーに集まってしまった。
「ああ、気持ちいいわ。からだがとろけそうよ」ヘザーが言う。
「こんなのブロークンリバーのロッジにあったら良いなあ。グフフフ」
「こんなのがあったら順番待ちで収集がつかなくなるよ」
「ただいま予約でいっぱいです。次の空きは3ヶ月先です。なんてな、グフフフ」
市内観光は続く。次はブラウニーお待ちかね100円ショップだ。実は僕も楽しみにしていた。
店内にはありとあらゆる物が並ぶ。一通り見て回るのに時間がかかる。
男物のパンツだって100円で買える。ニュージーランドならどんなに安くても500円ぐらいはする。
欲しいものばかりで、自分を押さえるのが大変だ。
ただ、これだけのモノがこんなに安い値段で買えて、それが当たり前になれば、物のありがたみというのは薄れるだろう。その結果ゴミが増えるのではないだろうか。疑問は残る。
買い物を済ませたヘイリーが店の外に出てきた。ニュージーランドでは見た事がないような車が通る。ヤツが感嘆の声をあげた。
「ヒュー、すごい車だな。あんなのがニュージーランドに入ってくるのは何年後だろう」
僕は車を見ながら言った。
「ヘイリー、オレが日本でびっくりするのは、何百年も前から建っている神社を見ただろう。その僅か10分後には最新の機械や、これだけのモノに囲まれている事だよ。これってすごいギャップだよな」
「ああ。オレが思うにこの国の老人が成長しているんじゃないか。戦争が終わってそんなに経っていないだろう。この国の進化に老人がついていっているのが驚きだ」
老人が成長する。なるほど言われてみればそうかもしれない。
降りしきる雨の中にさきほどの神社での老婆の姿が浮かんだ。
続
「アレックス、いつまで寝ているんだ。オンセンに行くぞ」
「朝からオンセンに入るのか?」
「当たり前だろ。オレ達は先に入っているから後で来いよ」
風呂に浸かり体を伸ばしながらアレックスが言った。
「1日の始まりでこうやって体を温めるのは良いなあ。僕は朝いつも体が硬くてストレッチをするのがしんどいけど、これは健康にもとても良いね」
皆、自分なりに日本の良い所を見て楽しんでいる。
悪い所も見えるだろうが僕には、あからさまに言わない。
この日は地元の小学生との交流である。朝1時間ほど子供達とそり遊びをする。ゲレンデの隅にはそりゲレンデがあり、チューブのレンタルもしている。子供なら3人ぐらい乗れる大きさだ。
「ヘッジ、あたしはフェイスペインティング(顔にいろいろ描くこと)ができるけど、そんなのはどう?」ヘザーが言った。
「良いじゃないか。さっそく用意しよう」
遊びとなるとブラウニーだって負けてはいない。
「ヘッジ、ただ滑るだけじゃ、つまらないだろ。小さなジャンプ台を作ろう」
「よしきた。スコップを用意しよう」
物事を楽しむという事に関しては、メンバーは天才的な力を持っている。
あっという間にヘザーの周りでは子供が輪になり、おとなしく顔に絵を描かれ、それが終わった子はチューブに乗りブラウニー作のジャンプ台で遊ぶ。
この時に子供より楽しんでいたのはアベ先生だった。アベ先生は若い女性の先生で、子供と一緒にチューブに乗り黄色い歓声をあげていた。子供達だって大人がムッツリと腕を組んで見張っているのより、自分達と一緒になってキャーキャー遊ぶ先生が好きに決まってる。
その子供達と精神年齢があまり変らないブラウニーが調子にのる。
「よーし、今度はオレを飛び越えていけ」
そう言うなり、ジャンプ台の向こうにゴロンと寝転んでしまった。子供達は大喜びである。
キウィ(ニュージーランド人)たちは遊ぶ時も全力で遊ぶ。自分達が面白そうと思った事はどんどんやる。そんな時でも子供達が調子にのって危ない方向に向かえば、柔らかく止め安全に遊ぶ方向へ持っていく。
いたずら好きそうな子が今度は自分でも人の顔に何か書きたいらしく、ペンを持ってきたのでおとなしく描かれてあげた。何を描いたのか聞いたが僕の知らないキャラクターのようなので会話があまり続かなかった。鏡が無いので自分がどんな顔をしているか分らないが、みんなが笑っているのでまあ良しとしよう。
そり遊びの後は生徒による発表会である。幾つかの班に分かれて秋に山に登った様子や山の自然のことなどを発表する。カフェの壁一面には子供達が作った壁新聞がイベント期間中貼られていた。なかなかよろしい。
発表のあとにチームニュージーランドを代表して僕がニュージーランドの事、スキー場の事、日本とニュージーランドの山の違いなどを話した。
その時僕は真面目な顔をして話をしたのだが、その場に居合わせた全員、僕の顔の落書きを見ながら話を聞いたわけである。ずいぶんマヌケなおじさんに見えた事だろう。
子供達はたぶんアベ先生に、顔を洗いなさいと言われたのだろう。しかし37歳のオジサンに、顔を洗いなさいなどと言う人は1人もいなくて『知らぬは自分ばかりなり』と後でトイレの鏡を見て深く反省したのだった。
ともあれ子供達との交流はメンバーにも大好評で、こういう企画をしたハヤピとテツの株がまた上がった。
午後は市内観光である。今回のスポンサーでもある地元の酒蔵、加賀の井を訪れる。
僕はクィーンズタウン近辺のワイナリーなどをガイドするが、日本の造り酒屋などは初めてだ。
まず建物の立派さに驚いた。長年の雪の重みに耐えてきた建物がある。
蔵の壁が欠けて壁の構造が見える場所で、ヘイリーが壁に触って自分なりに納得している。アレックスとクリスは門構えと日本庭園に見とれる。
杜氏の小林さんの言葉を皆に伝える。創業1650年、350年前に酒を造り始めた話をするとどよめきが起きた。350年前のニュージーランドは白人が訪れるはるか以前であり、マオリ族しかいなかった。歴史の重みというのを皆が感じていた。
殺菌、醗酵など普段使わない言葉に舌を噛みそうになりながら説明をする。アレックスが助けをだす。
「ヘッジ、そんな難しい言葉使わないでいいよ」
研磨された米のサンプルがあるので吟醸酒の値段が高いのも頷ける。これも又、日本の文化である。
説明が終わると利き酒の時間だ。
美味い酒を味わうというのは国や民族を超えて共通のものである。ヘイリーもアレックスも大喜びで何本も買い込んでいた。
糸魚川駅に隣接した建物にひすい王国館というものがある。地元で取れた翡翠の展示、販売をしている。
僕らはブラブラとその中を歩く。
下校途中の女子高生の集団が通り過ぎる。皆ミニスカートから健康そうな足をのぞかせている。
アレックスが喜んでビデオを撮る。まるで変質者だ。奥さんのクリスが、しょうがない人ね、といった感じで笑う。
メンバーの興味を引いたのは翡翠よりも、本州中央部の大きな模型だった。山、谷、平野、海岸線などの地形がとても分かり易い。
模型では手前が日本海側、奥が太平洋側と南が上になっている。
「ほらヘイリー、オレのホームタウンのシミズがあるぞ。フジサンのすぐ近くだ」
「こうやって見ると日本は山が多いな」
「ニュージーランドは南アルプスだけだろ。日本には北アルプス、中央アルプス、南アルプスがある。どれも3000メートル級の山塊だ」
「それはスゴイな」
「ニュージーランドと大きく違う点は、どの山でも山頂まで登山道がついている。夏なら頑張れば誰でも上れる。まあトランピングだな」
ニュージーランドで3000メートルというと岩と氷河の世界だ。登山道など作りようが無い。標高は高くないが山は厳しい。
基本的に用具を使う、いわゆる登攀をクライミング。それ以外の山歩きはトレッキングやトランピングと呼ばれる。トレッキングでもアイゼンやピッケルを持つ場合もあるが、あくまで一時的な補助用具としてだ。
両者の間には明確な区別がある。
「それだけ登る人も多いんだろ」
「ああ、オレは日本の夏山はほとんど知らないが、最初から最後まで人の背中を見ながら歩いた、なんて話も聞く。ピークシーズンには山小屋もキュウキュウで、俺たちが今使っている布団があるだろ、あれに3人寝る、なんて事もあるそうだ」
「ウーン、それじゃあ寝られないだろう」
「そうさ。それになあ、山道でゴミがひどいらしい。ルートバーンで一緒に歩く人が皆言うんだ。ここはゴミが無くていいですねえって」
「そうなのか。うーん」
「日本も良い所ばかりじゃないんだよ。それより次に行くぞ」
次は神社だ。雨の降る中、僕らは境内を歩いた。杉の大木がうっそうと茂り、別世界のようだ。
拝殿は見事な萱葺きで、ヘイリーはまたしても軒下などを覗き込む。アレックスは大喜びでビデオをまわす。
拝殿には賽銭箱があり、頭上の鈴から太いヒモがぶら下がっている。
「ブラウニー、お参りの仕方を教えてやる。まず、この箱に小銭をいれる」
「外国のコインでもいいのか?」
「うーん、まあ神様もたまには変ったお金を見たいだろうしな、まあいいか。次はこのヒモを引っぱって鈴をガランガランと鳴らす。2回手を打って拝む」
僕らがワイワイやっていると、一人の老婆が通り過ぎがてら、手を合わせ頭を下げ去っていった。
「見ろ、ここは今でも信仰の場所なんだぞ」
みんなは老婆の姿に多少ならず心をうたれたようだった。
次は街の大型電化製品店へ。
ニュージーランドは日本に比べ電器製品、特に電子機器が高く、数年遅れている。遅れている分に関しては全然不自由しないのだが、高いのはかなわない。
みんなはそれぞれに店を見ていたが、いつのまにかマッサージチェアーのコーナーに集まってしまった。
「ああ、気持ちいいわ。からだがとろけそうよ」ヘザーが言う。
「こんなのブロークンリバーのロッジにあったら良いなあ。グフフフ」
「こんなのがあったら順番待ちで収集がつかなくなるよ」
「ただいま予約でいっぱいです。次の空きは3ヶ月先です。なんてな、グフフフ」
市内観光は続く。次はブラウニーお待ちかね100円ショップだ。実は僕も楽しみにしていた。
店内にはありとあらゆる物が並ぶ。一通り見て回るのに時間がかかる。
男物のパンツだって100円で買える。ニュージーランドならどんなに安くても500円ぐらいはする。
欲しいものばかりで、自分を押さえるのが大変だ。
ただ、これだけのモノがこんなに安い値段で買えて、それが当たり前になれば、物のありがたみというのは薄れるだろう。その結果ゴミが増えるのではないだろうか。疑問は残る。
買い物を済ませたヘイリーが店の外に出てきた。ニュージーランドでは見た事がないような車が通る。ヤツが感嘆の声をあげた。
「ヒュー、すごい車だな。あんなのがニュージーランドに入ってくるのは何年後だろう」
僕は車を見ながら言った。
「ヘイリー、オレが日本でびっくりするのは、何百年も前から建っている神社を見ただろう。その僅か10分後には最新の機械や、これだけのモノに囲まれている事だよ。これってすごいギャップだよな」
「ああ。オレが思うにこの国の老人が成長しているんじゃないか。戦争が終わってそんなに経っていないだろう。この国の進化に老人がついていっているのが驚きだ」
老人が成長する。なるほど言われてみればそうかもしれない。
降りしきる雨の中にさきほどの神社での老婆の姿が浮かんだ。
続