夕方、今晩から合流するアレックスと奥さんのクリスを迎えに町へ下る。
アレックスはオーストラリア出身だが、やはりクラブフィールドに取り憑かれてしまい居着いてしまった。
そして試行錯誤を繰り返しながら自分の気に入ったスキー板を作り、クラブフィールドで生まれたスキー、キングスウッドができた。
ブラウニーとアレックスはとても仲が良く、彼を迎えに行きたい、と言う。それならあたしも、という訳でヘザーも一緒に車2台で町へ下りた。
スーパーでブラブラと買い物をするJCと僕をブラウニーが写真で取る。何が珍しいのだろうと思ったが、ヤツにとって僕とJCと一緒に日本の店をウロウロするのは充分写真を取るのに値することなのだ。
駅に着くと2人が待っていた。
ブラウニーは大喜びで近況を報告する。アレックスはニセコの話をする。
アレックス達はここへ来る前10日間ほど北海道のニセコで過ごしてきたのだ。
「オージー(オーストラリア人)の僕が言うのもなんだけど、ニセコはオージーだらけだったよ。日本にいるのかオーストラリアにいるのか分らなかった」
ブラウニーが応える。
「そうか、じゃあここは気に入るはずだぞ。ここへ来てオレ達以外の外人に会ったことが無い。それになあスキー場でびっくりするぞ。キングスウッドだらけだ。どこのクラブフィールドより多いぞ」
アレックスは嬉しそうだ。今回はイベントの一環でキングスウッドの試乗会も行っている。皆の評判は非常に良い。
宿に着くと、オージー村から来た2人は畳の部屋に大喜びである。ブラウニーが先輩面していろいろ教えるのが面白い。
「ホラ、ユカタを出せ。オンセンに行くぞ」
温泉に浸かりながらアレックスが言った。
「あーあ、この宿はいいなあ。僕はこういうのを望んでいたんだ。全くニセコは日本じゃあないよ」
「そんなにか?」
「うん。今日の帰りにコンビニへ寄っただろ、あの時レジの娘が僕の顔を見て、ハッとした顔をしたんだ。それだけで僕は嬉しかったよ。ニセコは僕みたいなのは掃いて捨てるほどいたよ」
ブラウニーが口をはさむ。
「オレの時は『ハッ』なんてもんじゃなかったぞ。おばさんが買い物を持って歩いてたんだ。たぶん下を見てたんだろうな。オレの顔を見上げて『ギャッ』と叫んで買い物を全部落としてしまったよ。割れ物が無くて良かった。よっぽどびっくりしたんだろうな。ハハハハ」
僕が説明を加える。
「ここは観光地でもなんでもないだろう。こんな所を訪れる外人なんていないんだよ。だからこそ本当の日本がある場所だと思う。コンビニの姉ちゃんもおばさんもこの町で初めてガイジンを見たのかもしれないぞ」
アレックスが同意した。
「そうだね、それは言えてるよ。ブラウニーも行けば分かるよ。ニセコはオージーだらけで、後半は早く新潟に来たかったぐらいだ」
オーストラリア人のアレックスがそう言うくらいだからよっぽどなのかもしれない。
「ふーん、そんなもんかねえ。ヘイリー、オマエまだ二セコに行きたいか?」
この時点でヘイリーはイベント終了後の予定が全く決まっておらず、場合によってはブラウニーと一緒にニセコに行こうか、などと言っていたのだ。
「うーん、アレックスの話を聞いちまうとなあ・・・。やはりニセコはやめにしよう」
「それならどうする?1人で日本を旅するってガラでもないだろう」
「そうだなあ、どうしようかな」
「じゃあオレのホームタウンへ来るか?東海岸でタラナキそっくりのフジサンもあるぞ」
「そうするか」
「じゃあ決まりだな。3日ぐらい過ごして一緒にNZへ帰る」
「よしきた。それで行こう」
この男と最初から最後まで一緒か。まあそれも面白そうだ。
風呂から出て部屋に戻るとき、へザーの部屋の鴨居に札がついているのに気がついた。
「オイ、ハナコ、オマエの部屋に名前がついているのを知っているか?」
「知らないわ。何なの?」
「ハナ、フラワーだ」
「素適じゃないの。あたし達にぴったりだわ」
横の部屋のブラウニーが騒々しく叫んだ。この男の性格なら聞かずにはいられない。
「ヘッジ、オレ達のは何だ?何だ?」
「どれどれ、オーッ、これこそオレ達にぴったりだ」
「何だ?何だ?何だ?」
「そんなに知りたいか?グフフフ」
僕はヘイリーみたいに笑った。
「じらさないで教えろよ」
「ユキ、スノーだ」
「オー、ワンダフル。ユキはミユキのユキだろ?そりゃオレ達の為の部屋だ。全部の部屋に名前が付いているのか?」
「たぶん、そうだろう」
「アレックスの部屋は?」
「知らん。まだ見てない」
「見に行こう」
アレックス達の部屋は月の間だった。
「ツキ、ムーンだ」
「聞いたかアレックス、オマエ達の部屋は月で、オレ達のは雪だ。どうだ羨ましいだろう」
ブラウニーはアレックスが来たのがよっぽど嬉しいのだろう。絶好調だ。
ビールを飲んでさらに気を良くしたブラウニーが鉢巻を出してきた。
「イチバーン」
ヤツが得意そうに叫ぶ。間髪をいれず僕が茶々を入れる。
「イチバンはいいけど、上下逆だぞ」
照れくさそうにハチマキを直し、全員爆笑の渦である。2人が来た事により僕らの旅はますます賑やかになり、楽しくなっていく。
晩は山茶庵へ行く。宿から通りを挟んだ場所にあり、看板は出ているものの、作りは普通の民家そのものだ。座敷のテーブルの周りに座布団が並ぶ。
「おいおいヘッジ、これがレストランなのか?普通の家じゃないか」
確かにニュージーランドで言う飲食店というものから大きく外れている。
皆が戸惑う様子が面白い。特にオージー村から来たばかりの二人には信じられないだろう。
「これでもチャイニーズレストランなんだよ。シェフはシャチョーの弟だ。この店にはメニューが無い。その時あるもので適当に作ってもらう。ビールはセルフサービスだ。この冷蔵庫から勝手に出して飲む。さあアレックスとクリスも無事着いたことだしカンパイをしよう」
ブラウニーがアレックスにマアマアドモドモの儀式を教えている。ヤツラはよっぽど気に入ったらしく、ギョウザのタレを入れるのもマアマアドモドモとやっている。
へザーの言葉ではないが1日ごとに旅が良くなっていく。
続
アレックスはオーストラリア出身だが、やはりクラブフィールドに取り憑かれてしまい居着いてしまった。
そして試行錯誤を繰り返しながら自分の気に入ったスキー板を作り、クラブフィールドで生まれたスキー、キングスウッドができた。
ブラウニーとアレックスはとても仲が良く、彼を迎えに行きたい、と言う。それならあたしも、という訳でヘザーも一緒に車2台で町へ下りた。
スーパーでブラブラと買い物をするJCと僕をブラウニーが写真で取る。何が珍しいのだろうと思ったが、ヤツにとって僕とJCと一緒に日本の店をウロウロするのは充分写真を取るのに値することなのだ。
駅に着くと2人が待っていた。
ブラウニーは大喜びで近況を報告する。アレックスはニセコの話をする。
アレックス達はここへ来る前10日間ほど北海道のニセコで過ごしてきたのだ。
「オージー(オーストラリア人)の僕が言うのもなんだけど、ニセコはオージーだらけだったよ。日本にいるのかオーストラリアにいるのか分らなかった」
ブラウニーが応える。
「そうか、じゃあここは気に入るはずだぞ。ここへ来てオレ達以外の外人に会ったことが無い。それになあスキー場でびっくりするぞ。キングスウッドだらけだ。どこのクラブフィールドより多いぞ」
アレックスは嬉しそうだ。今回はイベントの一環でキングスウッドの試乗会も行っている。皆の評判は非常に良い。
宿に着くと、オージー村から来た2人は畳の部屋に大喜びである。ブラウニーが先輩面していろいろ教えるのが面白い。
「ホラ、ユカタを出せ。オンセンに行くぞ」
温泉に浸かりながらアレックスが言った。
「あーあ、この宿はいいなあ。僕はこういうのを望んでいたんだ。全くニセコは日本じゃあないよ」
「そんなにか?」
「うん。今日の帰りにコンビニへ寄っただろ、あの時レジの娘が僕の顔を見て、ハッとした顔をしたんだ。それだけで僕は嬉しかったよ。ニセコは僕みたいなのは掃いて捨てるほどいたよ」
ブラウニーが口をはさむ。
「オレの時は『ハッ』なんてもんじゃなかったぞ。おばさんが買い物を持って歩いてたんだ。たぶん下を見てたんだろうな。オレの顔を見上げて『ギャッ』と叫んで買い物を全部落としてしまったよ。割れ物が無くて良かった。よっぽどびっくりしたんだろうな。ハハハハ」
僕が説明を加える。
「ここは観光地でもなんでもないだろう。こんな所を訪れる外人なんていないんだよ。だからこそ本当の日本がある場所だと思う。コンビニの姉ちゃんもおばさんもこの町で初めてガイジンを見たのかもしれないぞ」
アレックスが同意した。
「そうだね、それは言えてるよ。ブラウニーも行けば分かるよ。ニセコはオージーだらけで、後半は早く新潟に来たかったぐらいだ」
オーストラリア人のアレックスがそう言うくらいだからよっぽどなのかもしれない。
「ふーん、そんなもんかねえ。ヘイリー、オマエまだ二セコに行きたいか?」
この時点でヘイリーはイベント終了後の予定が全く決まっておらず、場合によってはブラウニーと一緒にニセコに行こうか、などと言っていたのだ。
「うーん、アレックスの話を聞いちまうとなあ・・・。やはりニセコはやめにしよう」
「それならどうする?1人で日本を旅するってガラでもないだろう」
「そうだなあ、どうしようかな」
「じゃあオレのホームタウンへ来るか?東海岸でタラナキそっくりのフジサンもあるぞ」
「そうするか」
「じゃあ決まりだな。3日ぐらい過ごして一緒にNZへ帰る」
「よしきた。それで行こう」
この男と最初から最後まで一緒か。まあそれも面白そうだ。
風呂から出て部屋に戻るとき、へザーの部屋の鴨居に札がついているのに気がついた。
「オイ、ハナコ、オマエの部屋に名前がついているのを知っているか?」
「知らないわ。何なの?」
「ハナ、フラワーだ」
「素適じゃないの。あたし達にぴったりだわ」
横の部屋のブラウニーが騒々しく叫んだ。この男の性格なら聞かずにはいられない。
「ヘッジ、オレ達のは何だ?何だ?」
「どれどれ、オーッ、これこそオレ達にぴったりだ」
「何だ?何だ?何だ?」
「そんなに知りたいか?グフフフ」
僕はヘイリーみたいに笑った。
「じらさないで教えろよ」
「ユキ、スノーだ」
「オー、ワンダフル。ユキはミユキのユキだろ?そりゃオレ達の為の部屋だ。全部の部屋に名前が付いているのか?」
「たぶん、そうだろう」
「アレックスの部屋は?」
「知らん。まだ見てない」
「見に行こう」
アレックス達の部屋は月の間だった。
「ツキ、ムーンだ」
「聞いたかアレックス、オマエ達の部屋は月で、オレ達のは雪だ。どうだ羨ましいだろう」
ブラウニーはアレックスが来たのがよっぽど嬉しいのだろう。絶好調だ。
ビールを飲んでさらに気を良くしたブラウニーが鉢巻を出してきた。
「イチバーン」
ヤツが得意そうに叫ぶ。間髪をいれず僕が茶々を入れる。
「イチバンはいいけど、上下逆だぞ」
照れくさそうにハチマキを直し、全員爆笑の渦である。2人が来た事により僕らの旅はますます賑やかになり、楽しくなっていく。
晩は山茶庵へ行く。宿から通りを挟んだ場所にあり、看板は出ているものの、作りは普通の民家そのものだ。座敷のテーブルの周りに座布団が並ぶ。
「おいおいヘッジ、これがレストランなのか?普通の家じゃないか」
確かにニュージーランドで言う飲食店というものから大きく外れている。
皆が戸惑う様子が面白い。特にオージー村から来たばかりの二人には信じられないだろう。
「これでもチャイニーズレストランなんだよ。シェフはシャチョーの弟だ。この店にはメニューが無い。その時あるもので適当に作ってもらう。ビールはセルフサービスだ。この冷蔵庫から勝手に出して飲む。さあアレックスとクリスも無事着いたことだしカンパイをしよう」
ブラウニーがアレックスにマアマアドモドモの儀式を教えている。ヤツラはよっぽど気に入ったらしく、ギョウザのタレを入れるのもマアマアドモドモとやっている。
へザーの言葉ではないが1日ごとに旅が良くなっていく。
続