あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

ジャパントリップ 6

2009-10-08 | 
 次の日は移動日である。ゆっくり観光をしながら能生に行けばよい。朝はのんびりと過ごす。ブラウニーの状態が目に見えて良くなっている。
「さあブラウニー、朝の薬の時間だぞ。今日も又これを飲め」
「え~?また飲むのか?オレはもう治ったよ」
「ウソをつくな。騙されたと思って飲め」
 皆がニヤニヤ見守る中、ヤツはシブシブ薬を飲んだ。
「ちょっとはヘイリーを見習え。ヤツはどこも悪くないのにコップ一杯飲んだぞ」
「グフフフ」
「だけどズルしてな」
 ブラウニーが不服そうに言った。
「ちょっと苦かったからマヌカ蜂蜜を入れてな。グフフフ」
「なーんだ、ズルしたのか」
「見ろ、こいつはこういうヤツだ」
「グフフフ」
 ブラウニーも軽口を叩けるぐらいならもう大丈夫だろう。

 安曇野のハヤピの家を朝も遅く出発。
 日本人3人、白人3人、マオリ1人、犬2匹プラス荷物たくさん。
 車を3台で連ねて先ずは白馬へ向かう。ハヤピの車には犬が2匹、テツの車にはヘイリーとヘザー、僕が運転するジムニーにはブラウニーとスーが乗り込んだ。
 空には多少晴れ間が覗いているが今日も山は見えない。
 雪に覆われた田畑、葉を落とした林檎の木、うっそうと暗い杉林、瓦葺の農家。どこにでもある日本の冬だ。
 だが3年の間、ニュージーランドの野山を歩いてきた僕にはとても新鮮に見える。僕はニュージーランドに住む人間の眼で日本を見ていることに気が付いた。
 今まで気が付かなかった日本の美しさがある。景色は何も変っていない。変っているのは自分自身なのだ。

 車は白馬に差し掛かる。先ほどまでの僅かな青空は消え、厚い雲が空を覆う。ちらほらと雪も降り始めた。国道沿いからスキー場のゲレンデが見え隠れする。
 横のブラウニーが身を乗り出して外を覗く。
「この辺りが白馬だ。長野オリンピックでも幾つかの競技をやったはずだ」
「ヘッジはその時は何処に居た?」
「近くのスキー場で普通にスキーパトロールをしていた。オリンピックはテレビで見ただけだ」
「ニュージーランドチームの通訳でもやればよかったのに」
「真っ平御免だね。そんな堅苦しい事やりたくない。それよりオレはこうやっていい加減な英語でオマエたちをガイドしている方がよっぽど良い」
「そりゃそうだろうな、アハハハ」
 昼近くにテツの携帯にシャルマンのスタッフから連絡があった。向こうはドカドカ雪が降っているそうだ。早く来いとのこと。
「皆、聞いてくれ。シャルマンは結構降っているそうだ。予定を変更してこのままスキー場へ向かう。昼飯は各自スーパーで買って車の中で食ってくれ」
 現場の人が、状態が良いと言うのだ。従わない手はないだろう。こうやって移動中でも携帯電話で状況が分かり、行動に移す事ができる。文明の利器とは便利なものだ。
 白馬を越えると周囲の雪は深くなる。灰色の雲が低く広がり、雪が激しく降ってきた。
「見ろブラウニーこれが典型的な冬型の天気だ。ニュージーランドと似ているだろ」
「ああ、全くだ。ここは海岸線まで雪が降るのか?」
「そうだ。昔は海岸線の町まで雪が積もったが、今では暖冬で雪はあまり積もらない」



 谷間を雪崩トンネルが延々と続く。トンネルと言っても山をくりぬいて掘ったものでなく、片側は隙間があり外が見える。このトンネルの長さが、ここの雪崩の凄さをあらわしている。
 皆雪山に関わる人なので、この自然の厳しさ、そこに住む人の努力が分るのだ。車内にため息混じりの感嘆の声が響く。
 狭い視界の向こう、深い谷間に激しく雪が降る。色の無い世界が美しい。
 車は糸魚川市内に入る。雪の壁は消え、降る物も雨に変る。谷が広がり空も広くなる。
「オレはねえこの土地の雰囲気がグレイマウスそっくりに感じられるんだ。谷を下って海に出る所なんかそれっぽいだろ。
「ナルホドな。じゃあさっきのトンネルはアーサーズパスだな。ここからはどう行くんだ?」
「海岸線を北上し別の谷を上がる。その奥にスキー場がある」
「フーン、面白そうだな」
「ぶったまげるよ、たぶん。それはそうと腹の具合はどうだ?」
「大分良くなった。あの薬を又飲まなきゃならん、と思うとゾッとするから早く治るのだろう」
「そりゃ結果的にあの薬が効いている事になるじゃんか?」
「うん、まったくだ。オマエを完全に信用するよ。だからもうあの薬を飲ませないでくれ」

コメント
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