故郷清水で何日か過ごし出発の日、ヘイリーが言った。
「なあヘッジ、日本のトラディッショナルの履物があるだろう」
「下駄のことか?木でできているものか?」
「いや、違う。たぶん布だろう」
「足袋のことだろう。親指が分かれているやつだな。ニンジャが履いているのだろう」
「そうそう、ニンジャ・シューズだ。あれを使った事があるか?」
「ああ、昔足場を組んでいた時に使った。それから山の中で土方をやった時もだ。なかなか使い勝手がいいぞ」
「オレも自分用に欲しい」
「それなら作業服屋へ行こう。オマエが好きそうなものがたくさんあるよ」
駅へ向かう途中で店に寄る。
「ホラ、沢山あるだろ。足のサイズはいくつだ?」
「31センチ」
「デカイなあ。そんなにデカイのあるかな」
31センチの足袋は種類こそ少ないが幾つかあった。
「じゃあ、履いてみろ。この小さい金具をコハゼって言う。これをここの紐に引っ掛ける。靴下もそれようのヤツがあるからまとめて買っていくといいよ」
「ありがとう。お、こっちは手袋のコーナーか。皮の手袋が安いじゃないか。これは仕事に使えるな。作業ズボンだってこんなに安いじゃないか。日本はモノが高いのか安いのか分らんな」
「オマエがこの店を気に入ると思っていたよ。さあ買うものを買ったらいくぞ」
駅まで送ってくれた父親に別れを告げ、僕達は再び旅の人となった。
静岡から新幹線で東京へ向かう。雲が厚く富士山が見えない。
「残念だな、ヘイリー。今日は富士山は見えないや。次の機会に取っておけよ」
ヤツはちょっと複雑な顔をして、グフフと短く笑った。
途中の駅で止っている間に、直ぐ横をひかりやのぞみが200キロ以上のスピードで通り抜ける。
「なあ、ヘッジ、今通った列車と俺達が乗っているこの列車は違う線路を走るのか?」
「違うよ。一度駅を出たら同じ線路を使うんだよ。だから俺達の列車がこうやって駅に止っている間に速い列車をやりすごすんだ」
「なんとまあ・・・そりゃすごいな。スケジュールなんかどうなっているんだ?」
「知らん」
「だろうな」
確かにニュージーランドの田舎では信じられないような事だ。
停車時間が長いので売店でビールを買い込む。僕達の旅はこうでなきゃ。
「ここはアタミという場所だ。温かい海という意味だ。どでかいオンセンリゾートだぞ」
「この海は太平洋か?」
「そうだ。ここだと海を見ながらオンセンに入れる」
「それもいいなあ」
「次、来た時な」
「グフフフ」
僕達がのんきにビールを飲んでいる間に、緑は除徐に少なくなり灰色の建物が増えてきた。そしてあっという間に列車はビルの群れの中に入る。
品川で降りて山手線で大崎へ。線路の数、ホームの数を見て唸るヘイリーを見るのが面白い。
今日の泊りは友達のクミが手配してくれた。自分の知らない土地では、そこに住む人の好意がとてもありがたい。東京のど真ん中で、ちゃんとしたホテルの3人部屋で12000円、一人4000円は悪くない。ニュージーランドドルに換算しても決して高くない。それどころか逆に安いかもしれない。
クミはシャルマンのスキーセッションにも参加してくれて、メンバーとも会っているので晩飯を一緒に食べようということになった。
チェックインを済ませ身軽になりホテルを出る。再び山手線で浜松町へ。ブラウニーを迎えに羽田空港へ向かう。
駅地下のカレースタンドでビールとカレーの昼飯を取っていると、ある看板の文字が目に入った。
「オイ、ヘイリー、あの看板に書いてあるけど、オレ達貿易センタービルの中にいるんだぞ」
「へえ、そうか。日本にも貿易センターってあるのか」
「ああ、オレも今まで知らなかった」
「グフフフ」
「ここからはモノレールに乗って空港に行く。視点が高いからたぶん良く見えるよ」
モノレールの窓から街を眺める。ビルの間を縫うように進み、やがて高い建物が減り、川の向こうに巨大な倉庫のような物が見えてきた。
目をこらして見ると、とてつもなく長いトラック用のホームが延々と続く、しかも2階建てだ。『どれだけ大きいんだ、これは』と思ったころ、建物が切れて道路が出た。
ホッとしたのも束の間、今度はクライストチャーチでこれより大きな建物は無い、というくらい大きい建物がでてきた。ビル全体が流通センターになっているのだ。
さらに驚く事に、そんなのが奥にも横にも幾つも並んでいる。
一体こりゃ何だ。まるでスターウォーズのオープニングじゃないか。
「ヘッジ、アレは何だ?」
「あれなあ。どうやらあれが全部流通センターみたいだな」
「なんとまあ・・・」
「ホントだな・・・」
2人ともこんなことで東京の大きさというものを理解したのだ。
続
「なあヘッジ、日本のトラディッショナルの履物があるだろう」
「下駄のことか?木でできているものか?」
「いや、違う。たぶん布だろう」
「足袋のことだろう。親指が分かれているやつだな。ニンジャが履いているのだろう」
「そうそう、ニンジャ・シューズだ。あれを使った事があるか?」
「ああ、昔足場を組んでいた時に使った。それから山の中で土方をやった時もだ。なかなか使い勝手がいいぞ」
「オレも自分用に欲しい」
「それなら作業服屋へ行こう。オマエが好きそうなものがたくさんあるよ」
駅へ向かう途中で店に寄る。
「ホラ、沢山あるだろ。足のサイズはいくつだ?」
「31センチ」
「デカイなあ。そんなにデカイのあるかな」
31センチの足袋は種類こそ少ないが幾つかあった。
「じゃあ、履いてみろ。この小さい金具をコハゼって言う。これをここの紐に引っ掛ける。靴下もそれようのヤツがあるからまとめて買っていくといいよ」
「ありがとう。お、こっちは手袋のコーナーか。皮の手袋が安いじゃないか。これは仕事に使えるな。作業ズボンだってこんなに安いじゃないか。日本はモノが高いのか安いのか分らんな」
「オマエがこの店を気に入ると思っていたよ。さあ買うものを買ったらいくぞ」
駅まで送ってくれた父親に別れを告げ、僕達は再び旅の人となった。
静岡から新幹線で東京へ向かう。雲が厚く富士山が見えない。
「残念だな、ヘイリー。今日は富士山は見えないや。次の機会に取っておけよ」
ヤツはちょっと複雑な顔をして、グフフと短く笑った。
途中の駅で止っている間に、直ぐ横をひかりやのぞみが200キロ以上のスピードで通り抜ける。
「なあ、ヘッジ、今通った列車と俺達が乗っているこの列車は違う線路を走るのか?」
「違うよ。一度駅を出たら同じ線路を使うんだよ。だから俺達の列車がこうやって駅に止っている間に速い列車をやりすごすんだ」
「なんとまあ・・・そりゃすごいな。スケジュールなんかどうなっているんだ?」
「知らん」
「だろうな」
確かにニュージーランドの田舎では信じられないような事だ。
停車時間が長いので売店でビールを買い込む。僕達の旅はこうでなきゃ。
「ここはアタミという場所だ。温かい海という意味だ。どでかいオンセンリゾートだぞ」
「この海は太平洋か?」
「そうだ。ここだと海を見ながらオンセンに入れる」
「それもいいなあ」
「次、来た時な」
「グフフフ」
僕達がのんきにビールを飲んでいる間に、緑は除徐に少なくなり灰色の建物が増えてきた。そしてあっという間に列車はビルの群れの中に入る。
品川で降りて山手線で大崎へ。線路の数、ホームの数を見て唸るヘイリーを見るのが面白い。
今日の泊りは友達のクミが手配してくれた。自分の知らない土地では、そこに住む人の好意がとてもありがたい。東京のど真ん中で、ちゃんとしたホテルの3人部屋で12000円、一人4000円は悪くない。ニュージーランドドルに換算しても決して高くない。それどころか逆に安いかもしれない。
クミはシャルマンのスキーセッションにも参加してくれて、メンバーとも会っているので晩飯を一緒に食べようということになった。
チェックインを済ませ身軽になりホテルを出る。再び山手線で浜松町へ。ブラウニーを迎えに羽田空港へ向かう。
駅地下のカレースタンドでビールとカレーの昼飯を取っていると、ある看板の文字が目に入った。
「オイ、ヘイリー、あの看板に書いてあるけど、オレ達貿易センタービルの中にいるんだぞ」
「へえ、そうか。日本にも貿易センターってあるのか」
「ああ、オレも今まで知らなかった」
「グフフフ」
「ここからはモノレールに乗って空港に行く。視点が高いからたぶん良く見えるよ」
モノレールの窓から街を眺める。ビルの間を縫うように進み、やがて高い建物が減り、川の向こうに巨大な倉庫のような物が見えてきた。
目をこらして見ると、とてつもなく長いトラック用のホームが延々と続く、しかも2階建てだ。『どれだけ大きいんだ、これは』と思ったころ、建物が切れて道路が出た。
ホッとしたのも束の間、今度はクライストチャーチでこれより大きな建物は無い、というくらい大きい建物がでてきた。ビル全体が流通センターになっているのだ。
さらに驚く事に、そんなのが奥にも横にも幾つも並んでいる。
一体こりゃ何だ。まるでスターウォーズのオープニングじゃないか。
「ヘッジ、アレは何だ?」
「あれなあ。どうやらあれが全部流通センターみたいだな」
「なんとまあ・・・」
「ホントだな・・・」
2人ともこんなことで東京の大きさというものを理解したのだ。
続