●実験を計画する
自然科学では、たとえば、真空状態を作って、唯一の独立変数を操作して、その時に起こる現象を観察するといったような、理想条件下での単一要因実験が可能である。
しかし、ほとんどの心理実験は、検証にふさわしい理想的な実験環境を設定することは不可能である。被験者として人を使うことにかかわる倫理的制約(たとえば、アメリカ心理学編、1982)および人権上の配慮が必要だからである。
これに加えて、被験者自身(の心)が、一人ひとり異なる多彩な因果関係の網の目に組み込まれているために、実験上は排除したい要因が、個人差および個人内変動として、不可避的に実験状況の中に混入してしまう。これらは、交絡変数と呼ばれ、これが検証したい因果関係の検出を妨害しないように、実験計画を組むことになる。
実験計画法では、個人差も個人内変動も確率的な誤差と見なした上で、次の4つの基本方針のもとで、因果関係を統計的に明らかにしようとする。
1)独立変数化 実験で検証したい変数ではないが、性差や年齢差などのように、 それが独立変数と交互作用していることが想定されるときには、あえて変数として取り上げておく。
2)恒常化 交絡変数の影響を一定に保つことにより、従属変数への影響を実質上なしとするもの。一定水準の知能の被験者だけを使うような例である。
3)均衡化(無作為化) 誤差が等分に混在するように、被験者を無作為に割り付ける。
4)相殺化 一定方向への影響が想定されるとき、逆方向の影響も実施して、結果として、誤差を相殺してしまう。
以上のような配慮のもとで、実験を計画することになる。表1には、その典型例として「処理x処理x被験者」実験デザインと呼ばれているものを示した。ここで、処理とは、独立変数の操作を意味している。また、要因Aが独立要因、要因Bが同じ被験者を使った繰り返し要因になっているところから、混合法とも呼ばれている。