朝倉心理学講座 認知心理学 より
第3 わかりやすいマニュアルを作る
●マニュアル問題
コンピュータ画面を通しての情報交流を支えるのを、オンライン・インタフェースと呼ぶなら、マニュアル(取扱説明書)はさしずめオフライン・インタフェースと呼ぶのがふさわしい。両者は一体となって、ユーザのインタフェース行動を支援することになる。
マニュアルの設計にあたっては、文書(document)作成一般のリテラシー(決り)に従うことに加えて、オフライン・インタフェースを支援する情報提供に特有の制約にも従わなければならない。その制約にかかわる諸問題がマニュアル問題である。それは、オフライン・インタフェースを構成する5つの要素、つまり、コンピュータ、書き手、ユーザ、文書、状況のそれぞれにおいて存在する。
図 コンピュータと書き手とユーザと文書と文脈 ppt
「コンピュータ」
コンピュータの発明からはすでに半世紀以上が経過している。その技術の進歩と普及の速さは、ドッグイヤー(人の7年を犬は1年で経過する)的進歩とも言われるほどで、かつての技術のそれの比ではない。当然、日々、新しい技術が生まれることになる。
マニュアルは、その技術情報と使い方とを、まったくの初心者からエキスパート・ユーザまで幅広く提供する使命を果たさなくてはならない。
「書き手」
技術のことを知悉している設計者がマニュアルの書き手としては最適であるように思えるが、必ずしもそうではない。問題が2つある。
一つは、タレント(能力)である。設計者は設計のエキスパートであっても、文書設計のタレントは持っていないことが多い。
もう一つは、説明力にかかわることである。知らないことは説明できない。しかし、知りすぎていても、上手な説明、わかりやすい説明ができないことがある。マニュアルのユーザ不満調査の第2位が「大切なところとそうでないところの区別がつかない」である。あまりにも詳細な説明をメリハリなく書いてしまうからである。
「ユーザ」
コンピュータには最先端の高度技術が作り込まれている。しかし、その普及は急速で範囲も広い。技術そのものに関連する知識はほとんどないユーザ層に、いかにわかりやすい情報環境を提供するかが、大きな問題となる。中学高校段階での教育(教科「情報」はすでに設置済み)をもにらみながら、ユーザの認知特性にも配慮したマニュアル作りが求められている。
「文書」
マニュアルもまぎれもなく一つの文書である。したがって、まずは、日本語文書が遵守すべき制約を守らなければならない。それに加えて、わかりやすさを文書に作り込むためにさまざまの趣向を凝らす必要がある。次項では、それが中心的な話題になる。 「状況」 普通の文書なら、机に座って辞書を片手に読む定型的な読書環境を想定すればよい。しかし、インタフェースとしてのマニュアルは、その読まれる状況は、実にさまざまである。しかも、状況によってそこで求められる情報も異なってくる。