
●マニュアルの5つのユーザ支援機能
マニュアルは、情報を過不足なく正確に文書にしてユーザに提供することが使命である。その上で、次の5つのユーザ支援機能を作り込むことが求められる。以下、それぞれについて、マニュアル作成を想定した指針の主だったを提案してみる。 「操作支援」
操作を教えるのに一番効果的なのは、ユーザの目の前で実演してみせることである。それができないときは、VTRマニュアルを作るのがよい。しかし、制作コストの高さ、制作技術の難しさなどの現実的な制約があって、いつも可能というわけではない。不特定多数を想定した文書による操作説明をせざるをえない。
○指針1「ビジュアル表現を使う」
たとえば、「用紙送りキーを押してください」と文章で指示したとする。しかし、キーボードのどこにそのキーがあるか、どのように押すのかが、この文章だけではわからない。しかし、これを、例1のように、テクニカル・イラストを使って表現にすれば、格段に操作がわかりやすくなる。
○指針2「矢印、手の動き、連続絵を活用する」 操作を説明するビジュアル表現では、連続的な操作を、時には1枚のイラスト、あるいは数個のイラストで説明することになる。その時に有効なのが、例1に示すような、矢印、手の動き、連続絵を使った表現である。 例 連続的な操作を説明するための趣向 ppt 「参照支援」 マニュアルは最初から最後まで通して読まれることは想定していない。必要なときに必要な情報が得られるようにすればよい。これについては、文書作成のリテラシーとなっている、さまざまな参照支援の仕掛けを使うことになる。目次、索引、フッター/ヘッダー、扉、爪など。 しかし、マニュアルで参照を支援するには、さらに次のような指針に従っう必要がある。
○指針3「目次は、ユーザの意図、知識に配慮したものにする」
ユーザの不満調査をすると、「目次から情報を探せない」がトップになる。その最も大きな理由としては、目次が馴染みのない用語で表示されているため、ユーザのしたいと思っている意図と照合しにくいことが挙げられる。「書き出し位置をそろえたい」という意図と、「タブ設定」とが対応していることがわからないのである。 例2は、目次の表示をダブルにすることで、この点の解決をはかろうとしたものである。 例 日常用語と専門用語とをダブルで表示した目次 ppt ○指針4「マニュアルの構成をユーザのタスク志向にする」 マニュアルの構成は、ともすると、機械/システムの説明になりがちである。しかし、ユーザは、それを道具として使ってタスク(仕事)をしたいのである。マニュアルはユーザが仕事をするのを助けるように構成されていなければならない。これが、ユーザのタスク(仕事)志向のマニュアルということである。たとえば、「F1キーを押すと電源がつく」ではなく、「電源を入れたい時には、F1キーを押す」とするのが、タスク志向の表現である。
「理解支援」
マニュアルの本来の支援機能は、操作支援と参照支援であるが、コンピュータの急速な民主化は、マニュアルに理解支援をも要求するようになってきたことを認識する必要がある。 わかりにくさは、提供された情報を処理する資源の不足からくる。そこで、新情報だけを提供するのではなく、ユーザの既有の知識と結びつきやすい解説情報も一緒に提供したり、大事なところに注意を引き付けて処理効率を高めることを支援するような工夫が必要となる。
○指針5「メリハリのある表示にする」
新しい技術は新しい知識を生み出す。それがマニュアルの形でユーザに提供される。ユーザは、その情報のすべてを取り込もうとするが、あまりの情報の多さで処理できなくなってしまう。こうした状態にユーザを追い込まないためには、大事な情報とそうでない情報を見てわかるように、メリハリをつけて表示することで、処理の焦点化を支援してやるとよい。 メリハリ表示とは、情報内容の似たものはまとめること(区別化;chunking)、大事な情報は目立つようにすること(階層化)である。 例 メリハリのある表示 ppt
○指針6「解説情報を入れる」
新情報をわかってもらうには、解説が必要である。日常用語への言い換えや、たとえや具体例の活用、図解などの解説情報を随所に入れて、理解を支援する。 例 解説の例 ppt
○指針7「操作とその結果を示す」
コンピュータの操作の特徴の一つは、一つの操作とそれに対するコンピュータからの反応(結果)、またそれに対する操作ーーーの繰り返しである。この一連の操作ー結果の流れを示すことが、自分の操作の正しさを確認させることになり、理解のチェックもできることになる。 例 操作説明のモジュールppt
○指針8「目標、全体を先に表現する」
例の冒頭には、一連の操作の最終目標が示されている。これをめざして一連の操作をしていくことになる。このように、先に目標やするべきことの全体が見えていると、自分のしていることの意味がはっきりとわかる。
○指針8’「why情報を入れる」
事の意味がわかるようにするために、なぜそれが起こったのかを説明する。 例 トラブルシューティングにwhyを入れる
○指針9「読み方をガイドする」
慣れ親しんだ文書では、それをどのように読めば、必要な情報が得られるかはだいたいわかっている。しかし、初心者にとって、これができない。すべての記載情報がすべて同じ大切にみえてしまう。そして、すべての情報を処理しようとして失敗してしまう。 そこで、読み方をガイドするようなメタ情報を与えると、その負担から開放することができる。なお、ここでメタ情報と呼ぶのは、文書の内容とはかかわりのないガイド情報だからである。
例 メタ情報の例 「動機づけ支援」
購入したコンピュータは使ってみたい。しかし、マニュアルを読むのは面倒というユーザに、必要最小限の知識はマニュアルから得てほしいというのがメーカーやライター側の願いである。そこで、マニュアルを読んでもらう、」読み続けてもらうための趣向が必要となる。
○指針9「親しみを演出する」
「です/ます」調にしたり、漫画風のイラストを入れたり、情報満載感を与えないレイアウトにしたりする。
○指針10「基本的な機能を早く使わせる」
ごく基本的な機能だけを早く使えるように、マニュアルの最初のほうで、ビジュアル表現を多用して示す。 例 早く使わせる
○指針11「出来上がりをはじめに見せる」
「こんなことができます」という目標をマニュアルの最初のほうで見せると、動機づけが高まる。 例 目標を冒頭でみせる
○指針12「動機づけを高めるメタ情報を入れる」
文書におけるメタ情報には、前述した理解支援のためのものと、動機づけを支援するためのものとの2種類がある。 「あと少しで終わるからがんばって」とか「ここは難しいが大事なのでしっかりと読んでください」などなど、読み手を励ます言葉である。
「学習記憶支援」
ュートリアル(導入)用のマニュアルでは、大事な内容,たとえば、機械/システムの概要や基本操作は記憶してもらわなければならない。 理解支援で述べた指針はそのまま、ここでの指針として使うことができる。なぜなら、わかれば記憶できるからである。これに加えてさらに、次のような指針も有効である。
指針13「問を入れて、理解の自己チェックができるようにする」
わかっているかどうかを自己確認するのは意外に難しい。章末などで簡単な問を用意するとよい。さらに、知識を深めて(高度化して)もらう問も時には、使ってみるのもよい。