海保博之、柏崎秀子 編著
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日本語教育のための心理学
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02.06.10
◆目次
1部 日本語学習者の心を知る
1章 知識獲得の心理学エッセンス
1節 知の世界を成り立たせているもの
2節 知識の獲得と運用
2章 外国語を使うとき―思考力の一時的な低下
1節 外国語副作用はなぜ起こるのか
2節 外国語副作用の証拠
3節 知的能力の過小評価
3章 文化の異なる人々の心の世界―自己と他者の関係から
1節 心と文化
2節 文化的自己観
3節 文化と個人
4章 日本文化への適応と援助―異文化接触の心理学
1節 「適応」を考える
2節 留学生の不満と問題
3節 留学生をプラスの経験にするために周囲は何ができるか
2部 日本語情報処理の特性を知る
5章 言語心理学エッセンス
1節 人とことば
2節 子どものことばの発達
3節 文章の理解と産出
6章 第二言語の語彙を習得する
1節 第二言語の語彙習得とは
2節 第二言語の語彙習得の方法
3節 第二言語の語彙の保持と忘却
7章 漢字の指導
1節 漢字学習の類型
2節 漢字を読む
3節 漢字を書く
8章 日本語の文法学習に母語がどのように影響するか
1節 学習者が母語から影響を受ける論理的根拠
2節 日本語の文法学習に母語(中国語)がどのように影響するのか
3節 日本語文法学習の認知処理過程
9章 日本語の談話を科学する
1節 談話を学ぶ必要性
2節 発話行為の多様性
3節 談話でとらえる丁寧さ
4節 談話展開が聞き手に与える影響
5節 日本語の談話の特徴
6節 談話の教育と研究へ向けて
3部 日本語の学習指導を知る
10章 学習指導の心理学エッセンス
1節 学習のしくみ
2節 学習指導法の類系
3節 心理学からに日本語教育への示唆
11章 日本語の学習指導を考える
1節 学習の構えの形成
2節 ルーレッグ法(円繹法)とエグルール法(帰納法)
3節 教える側と学習者側の認識のずれ
12章 日本語教育にメディアを活用する
1節 日本語指導とメディアのかかわり
2節 実践的な活用の仕方
3節 今後の課題
13章 日本語能力を評価する
1節 日本語教育におけるテスト
2節 テストが備えるべき条件
3節 テストの波及効果
付録 テスト改善に役立つ技法―S‐P表による分析と基本統計
1節 S‐P表の作り方
2節 項目の分析と改善
3節 大規模データの分析
A5判並製
256頁
定価2520円(税込)
◆どうすれば上手に教えられるか◆
日本語を学ぶ外国人がどんどん増えています。国内だけでも10万人、国外では200万人以上の人々が、日本語を学んでいます。それに伴って、日本語教育関連の制度も整ってきました。日本語教育学会の会員は4000人を越え、大学の日本語教師養成の学部も150くらいあります。効果的な日本語教育のためには心理学の知識が大きな役割を果たせるはずですが、これまでそのための本がありませんでした。本書はそうした必要に応えるため、日本語教育と心理学の双方に通じた著者達を結集して編まれました。小社の売れ行き好調な「文化系留学生・日本人学生のための一般教養書と日本語練習ノート、『国境を越えて』2巻と併せての品揃えをお願いします。
編著者海保氏は筑波大学心理学系教授、柏崎氏は東京工業大学留学生センター助教授。
◆本文紹介◆
〔談話とポライトネス〕 話し相手が相手に対して心配りを示すという考え方は、日本語だけのものではない。リーチ(Leech,1983)は各言語社会における配慮のあり方を考察し、グライス(H.P.Grice)の「協調の原理」に「丁寧さの原理」を加えている。ブラウンとレヴィンソン(Brown&Levinson,1978)は、それが言語に普遍的に存在するとして、ポライトネスという概念を提唱した。ポライトネスには2種類の欲求(フェイス)を脅かさないための配慮がある。相手を認める配慮(positive politeness)と相手の領域を犯さない配慮(negative politeness)である。日本語においては、相手に負担をかけることを気遣う、後者のほうに重きがおかれていると言えよう。
日本語では敬語の言語形式が発達しているため、この問題はさらにとらえにくい。教育現場ではこれまで、丁寧さが話題になるのは、「行く」に対する「いらっしゃる」のような語彙レベルや単文のレベルの、敬語の言語形式が中心であった。敬語の文を取り出しては、丁寧度の違いを尋ねる学習者も少なくない。
しかしながら、われわれは単文だけ出なく、談話全体でも、相手に配慮し、丁寧さをとらえているのではなかろうか。どのような意図の下に、どのような表現を選択し、どのように談話を運んでいこうとするかなども考慮して、談話レベルでとらえるべきではなかろうか。
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