11 むずかしいものにこだわり過ぎない
勉強にしても仕事にしても、一つ上のレベルまで行こうとすれば、必ず困難にぶつかって、それを乗り超えていかなければならない。しかし、これが、根気の持続にとっては大敵となってしまうことがある。
やさしい仕事なら半分の注意量で済むのに、むずかしい仕事になればすべての注意エネルギーを配分しなければならない。したがって、やさしい仕事なら二時間続けてやれるかもしれないが、むずかしい仕事なら一時間で注意のエネルギーは枯渇してしまう。
集中力を永続きさせたいことだけを考えるなら、できるだけわからないものやむずかしいものは避けることである。しかしそれでは、自分を鍛えることができない。さてどうするか。
「わからない、むずかしい」は、相対的である。数学の不得意な高校生は、中学校の数学もむずかしく感じるかもしれないが、小学校の算数はさすがにむずかしいとは思わないはずである。少しは数学の知識が身についてきたからである。
筆者も、本や論文を書いていて一番困るのは、どうしてもわからないところにぶち当たった時である。筆がとまってしまい、思考が堂々めぐりをしてしまう。
かつて、そんな状態をくり返していたある時、たくさんの著書がある大先生に、「どうしてそんなにたくさんの本が書けるのですか」と聞いてみたことがある。その先生いわく、「わからない所は、どんどん飛ばして書いていくのです」。
筆者も早速まねをしてみた。たしかに具合がいい。不思議なことに、そういうやり方をしていくと、かつてはむずかしくて、手に負えなかったこともあっさりとわかってくることがある。他のところを進めているうちに、次第に知識が増えてきて、その問題を解決する視点や手がかりが頭の中にできてきたのであろう。
ここで、この方法に関して注意すべきことが一つある。
それは、わからないからと言って、すぐに諦めて次に行ってしまうというのではダメなのである。一度は、じっくりと「こだわり」、なんとか解決しよう、書いてみようとがんばってみることが絶対に必要なのである。このステップを省略してしまうと、わからないもの、むずかしいものがそのまま最後まで持ち越されてしまうだけの話になってしまう。