第7回「口頭で伝える」
● プレゼンテーションとは
口頭でのコミュニケーションには、たくさんの聴衆を前におこなうプレゼンテーションと、それとはいろいろの点で際立った対照をなす会話とがある。今回は、プレゼン、次回は会話を取り上げる。
文書によって伝えるのは間接的であるが、プレゼンは、目の前にいる聴衆に向かって直接的に伝えることになる。
この伝達の直接性が、プレゼンにさまざまな問題を投げかけることになる。
● 聴衆を分析する
というわけで、聴衆の数がどれくらいかもあらかじめ知っておいたほうが無難であるが、さらに、どんな人が聴衆なのかの分析も大事である。
絵には、聴衆分析の一つの例を示した。
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聴取分析 4つのタイプ
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この分析の視点は2つ。
一つは、関連知識の有無である。これから話す内容についてどれくらい受け手が知識を持っているかである。学校なら子供の知識レベルや内容はだいたいわかる。しかし、それに配慮しないプレゼンもないわけではない。
もう一つは、プレゼンを聞くことについての動機づけである。
一番楽なのは、会場に自分から望んで来てくれている動機づけの高い聴衆の場合である。
内容勝負のプレゼンでよい。一番困るのは、大学で言うなら必修の授業の受講生。単位取りだけがねらいの聴衆相手のプレゼン(授業)はとても疲れるし、うまくいかなかった後のストレス(PTSDならぬPPSD)に悩まされる。
しかし、動機づけが低く、関連知識の少ない聴衆相手のプレゼンこそ、プレゼンの醍醐味。それにいかに挑戦するか。いくつかの工夫を紹介してみる。
●聴衆の注意を管理する
人の話を一方的に聞く時の注意の持続は、高々90分程度。その間にも、注意には変動がある。会場全体の注意レベルには、絶えず、意を配る必要がある。
まずは、注意を引きつける工夫である。
「校長先生の話」をする時には、模造紙にへたなイラストを描いて見せたり、ちょっとした実演してみせたり、クイズを出したりと、大学ではあまりしたことのないことをやってみたりした。それなりに効果があった(と思っている)。
次に考えるべきことは、プレゼン全体を通しての注意レベルである。これを一定レベル以上に保っておかないとたちまち聴衆は寝てしまったり、飽きてしまう。
このためには、一つは、マルティメディア提示を心がけることである。口頭だけに頼るプレゼンはなく、スライドと文書、さらには演台でのジェスチャーをフルに使うことである。最近、パワーポイントによるプレゼンが普及してきて、演者が脇の演台のうしろに隠れてしまう形が一般化してきたが、これは、おかしい。演者あってのプレゼンである。
注意レベルを保つために有効なのは、聴衆とのやりとりを入れるのである。お説拝聴モードばかりが続くと注意レベルがどんどん低下する。そこで、対話モードにして注意レベルを上げるのである。随所でこれをやるとよいのだが、聴衆のほうからすると、迷惑。せっかく良い気持ちで聴いていたのに、なんでそんなことするの、というようなところもあるので、対話モードよりやや弱い、問いかけモードを随所に入れることもあってよい。
あとは、一時休憩である。90分を超えるようなプレゼンでは必須である。休憩すればまた注意のレベルは確実に上がるからである。
●わかりやすくする
1)概要を配布する
A4一枚くらいの概要を配布することは必須である。これによって、全体像がつかめるし、どこまで話が進んできたか、今の話は全体とどのように関係するかがわかるからである。
2)スライドや資料は配付しない
これを配布してしまうと、プレゼン会場が講義調になってしまう。聴衆の顔が資料に向いてしまい、資料を逐一読むようなプレゼンになる。最近は、特にこうしたプレゼンが多くなっているが、プレゼンの醍醐味が味わえないのはもったいない。
3)相手の知識に配慮する
聴衆分析のところで出てきた視点である。
これを具体的に実現するには、相手がよく知っている知識世界をうまく使うことである。
「たとえる」「実例を使う」がそれである。
●熱意も大事
熱意と内容と方法とが三位一体になったとき、素晴らしいプレゼンになる。とりわけ、伝えたい、訴えたいという熱意を生で見せることができるのが、プレゼンである。