●ジェンダーの心理学
客観性、論理性、価値中立性が重視される科学であっても、時代思潮の影響を多かれ少なかれ受ける。心理学の場合は、ナチス・ドイツでの優生学のように、時代の権力からもろに影響を受けた場合もあったし、ジェンダー心理学のように、深く静かに進行する価値観の変化に影響を受けることもあった。
男と女は身体的にも心理的にも違いはある。問題は、その違いを、固定化する方向で、それとも活かす方向で、あるいは縮める方向で認めるかである。いずれの方向をめざすかによって、科学としてのジェンダー心理学の内容も方法論も異なる。それを決めるのは、時代思潮である。
現在の日本のジェンダー心理学を支える時代思潮は、男女の扱いの違いに敏感でありつつ、それを殺すのではなく活かす方向にある。つまり、違いを違いとしたうえで、それを活かすにはどんな仕組みを社会の中につくりだすのが望ましいかを考えるようになってきている。したがって、必然的に、ジェンダー心理学の研究は、アカデミズムに自閉することなく、心理学の枠を越えて学際的な場で行われるようになり、さらに、社会と積極的にかかわる実践的、政策提言的な研究を志向するようになっている。