「福祉の心」
●昨今、格差拡大論議がかまびすしい。その真偽のほどはさておくとしても、福祉の対象とされる、「弱い立場に置かれがちな人々」は、いつの時代にも数の増減はあっても一定割合で存在し続けてきたし、今後も存在し続けることは間違いない。それは、いつ何時、みずからがその一人になる可能性を内包していることに留意する必要がある。
● しかし、その時々の政治的、経済的、社会文化的な情勢によって、誰がどのような弱い立場に置かれがちな人々になるのか、また彼らに対する世の中の見方や処遇は、かなり異なってくる。
助けられる者と助ける者という単純な2項関係でとらえるモデルはもはや古典的なものとなり、現在では、弱い立場に置かれがちな人々も含めてすべての人々がそれぞれの自己実現と幸福をめざして人間的な生活を営むことを願う民主主義的なモデルが一般的となってきている。
● そうした時代変化を踏まえて、あらためて福祉の心を考えてみると、当然のことながら、弱い立場におかれがちな人々の心が中心にならざるをえない。それへの配慮なくして、真の福祉は成立しえない。福祉ケアー体制が、制度的に整備されてきた今こそ、弱い立場に置かれがちな人々の心の理解を社会全体で共有することが必須である。
ところで、弱い立場に置かれがちな人々は、身体的領域、知的領域、精神的領域、社会的領域(人種的マイノリティやさまざまな社会的な被差別者など)で発生する。さらに、先天的なケースと後天的なケースもあるし、後者では、一時的か恒久的かということもある。言うまでなく、弱い立場に置かれがちな人々の心といっても、それぞれ異なった特徴を示すが、以下では、彼らの心とその福祉ケアーの心を理解するための基本的なキーワードに限定して取り上げてみる。