Q1・1「心理学を知らなくとも、自分で自分の心を知ることはできますが、それでも心理学を学ぶと何かよいことがあるのですか」
---素朴心理学とアカデミック心理学
「自分のことは自分が一番よく知っているからほっといて」は、親のアドバイスに対する青年の反発の常套句です。
確かに、人には自分でしか知れえない、したがって、たとえ親でもうかがい知ることのできない、自分独自の心の世界を持っています。ですから、青年の常套句はそれなりに正当だとは思いますが、心の世界には、さらに、他人からのほうがよくわかる部分もありますので、親など他人からのアドバイスも素直に受け入れることも、時には必要です。 ***図 ジョハリの窓 別添
それはさておくとして、人は誰しもがそれなりに自分の心を知っており、さらに、その心の働かせ方もそれなりに知っています。これをメタ認知と呼びます。(詳しくはQ1・8参照)。たとえば、次のような形でメタ認知は働いています。
・自分の性格は神経質なほうだ
・眠れないときは、数字を逆唱するなどして神経を集中させるとよい
・反復すると良く覚えられる
こうしたメタ認知を支えているは、頭の中にある2つのタイプの知識です。
一つは、体験的知識です。心にまつわる長年の体験から生み出された知識がメタ認知の支えになっています。
もう一つは、アカデミック(学問としての)心理学の知識です。心理学の知識も常識となってちまたに流れていますので、体験的な知識との区別が難しいのですが、心理学を学ぶことによって、メタ認知を支える知識は豊潤かつ強力になります。
たとえば、「神経質なほうだ」との自己診断も、もし性格心理学の概念として「内向的」「うつ傾向」などの語彙を知識として持っていれば、もっと深く自分の性格を診断できるはずです。
また「反復するとよく覚えられる」のは確かですが、これに加えて、記憶心理学の知見「覚えるものに意味(自分のよく知っていること)を付与する」ともっとよく覚えられます。 さて、この2つのタイプの知識のうち、心について人々が持っている体験的な知識が素朴心理学の知識です。 自然現象などについての知識は、だいたい学校教育で教えられますが、心についてはほとんど学校では教えられることはありません。心理学をもっと児童生徒に教えるべきとの考えもあります。
それはさておくとして、教えられないにもかかわらず、人はすでに4歳頃から心についての知識を持ちはじめます。それに比例してメタ認知も働きだします。結果として、心についての素朴心理学的な知識もどんどん豊かになっていきます。
これはこれで結構なのですが、一番の問題は、素朴心理学の知識が、しばしばびっくりするほど、アカデミック心理学の常識からすると、誤っていることが多いことです。
心理学の勉強をすることで、素朴心理学の誤った知識を訂正してもらいたいのです。これが、心理学を学ぶ一つの大きな理由です。
もう一つは、素朴心理学の知識は、メタ認知の及ぶ範囲に限定されます。たとえば、どのようにして人の顔を認識するのかについての知識は持ちえようがありません。人が無意識にやっている心の働きは、メタ認知できません。メタ認知できるのは、氷山の一角にすぎません。氷山の下の部分がどうなっているかは、アカデミック心理学が営々と蓄積してきた知識に頼ることになります。
---素朴心理学とアカデミック心理学
「自分のことは自分が一番よく知っているからほっといて」は、親のアドバイスに対する青年の反発の常套句です。
確かに、人には自分でしか知れえない、したがって、たとえ親でもうかがい知ることのできない、自分独自の心の世界を持っています。ですから、青年の常套句はそれなりに正当だとは思いますが、心の世界には、さらに、他人からのほうがよくわかる部分もありますので、親など他人からのアドバイスも素直に受け入れることも、時には必要です。 ***図 ジョハリの窓 別添
それはさておくとして、人は誰しもがそれなりに自分の心を知っており、さらに、その心の働かせ方もそれなりに知っています。これをメタ認知と呼びます。(詳しくはQ1・8参照)。たとえば、次のような形でメタ認知は働いています。
・自分の性格は神経質なほうだ
・眠れないときは、数字を逆唱するなどして神経を集中させるとよい
・反復すると良く覚えられる
こうしたメタ認知を支えているは、頭の中にある2つのタイプの知識です。
一つは、体験的知識です。心にまつわる長年の体験から生み出された知識がメタ認知の支えになっています。
もう一つは、アカデミック(学問としての)心理学の知識です。心理学の知識も常識となってちまたに流れていますので、体験的な知識との区別が難しいのですが、心理学を学ぶことによって、メタ認知を支える知識は豊潤かつ強力になります。
たとえば、「神経質なほうだ」との自己診断も、もし性格心理学の概念として「内向的」「うつ傾向」などの語彙を知識として持っていれば、もっと深く自分の性格を診断できるはずです。
また「反復するとよく覚えられる」のは確かですが、これに加えて、記憶心理学の知見「覚えるものに意味(自分のよく知っていること)を付与する」ともっとよく覚えられます。 さて、この2つのタイプの知識のうち、心について人々が持っている体験的な知識が素朴心理学の知識です。 自然現象などについての知識は、だいたい学校教育で教えられますが、心についてはほとんど学校では教えられることはありません。心理学をもっと児童生徒に教えるべきとの考えもあります。
それはさておくとして、教えられないにもかかわらず、人はすでに4歳頃から心についての知識を持ちはじめます。それに比例してメタ認知も働きだします。結果として、心についての素朴心理学的な知識もどんどん豊かになっていきます。
これはこれで結構なのですが、一番の問題は、素朴心理学の知識が、しばしばびっくりするほど、アカデミック心理学の常識からすると、誤っていることが多いことです。
心理学の勉強をすることで、素朴心理学の誤った知識を訂正してもらいたいのです。これが、心理学を学ぶ一つの大きな理由です。
もう一つは、素朴心理学の知識は、メタ認知の及ぶ範囲に限定されます。たとえば、どのようにして人の顔を認識するのかについての知識は持ちえようがありません。人が無意識にやっている心の働きは、メタ認知できません。メタ認知できるのは、氷山の一角にすぎません。氷山の下の部分がどうなっているかは、アカデミック心理学が営々と蓄積してきた知識に頼ることになります。