事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「名もなき墓標」DEADLINE

2007-10-13 | ミステリ

Photo ジョン・ダニング著 ハヤカワ文庫

 かつてハワイに旅した頃……ってかっこいい感じだが実は例によって百姓関係でだった。ホノルルのダウンタウン近くの裏道にある安ーいホテルで3泊。

 農協観光の言い草がよかった。「ハワイはもう日本の48番目の県みたいなもんですから、日本語が通じないホテルなんかありませんよ。」ほう。そんなもんか。でも現地に行ったらそっちのコーディネーターは「えーとこのホテルはですね。フロントで日本語通じませんから、どうぞみなさんの語学力で。」こら。話違いまくり。一応英文卒だから、と交渉をまとめあげてみんなから思い切り尊敬されたのはめでたいのだけれど(おかげで百姓関係者の間では私は英語ペラペラだというすごい誤解をうけている)、私の部屋はお湯が出ず、へたにダウンタウンに近いものだから一晩中文字どおりヤンキーの嬌声が聞こえて怖いったら。得難い経験。

前ふりが長くなったけれど、この旅行に私が持って行ったのがダニングの「幻の特装本」The Bookman’s Wake。前作「死の蔵書」Booked to Dieで数々のベストを取りまくったクリフォード・ジェーンウェイのシリーズ第2作。自分でも意外なくらいにホームシックにかかっていた(笑)私だったが、このミステリには救われた。とにかくメチャクチャに面白いのである。第1作で刑事を辞め、趣味が高じて古書店を開いた(すごいでしょ)ジェーンウェイの、再度の活躍が描かれる。ポーの「大鴉」限定版をめぐるお話。ゾクゾクする。

Maborosino_tokusoubon  でまたホノルル話に戻るけれど、どんな町に行っても書店通いはやめられず、ここでもワイキキ近くの小綺麗な書店へ。選んだのはジェイムズ・エルロイの「ブラック・ダリア」とダニングの「死の蔵書」。読めないけど原書。まあ、記念だから。

 レジに持っていくと、それはそれはハンサムな金髪書店員が、「イイ選択ダ。」と褒めてくれる。
この若者はミステリ通らしく、「ブラック・ダリア事件」(実際にあった事件をもとにエルロイは小説化している)のルポが載っている「ハリウッド・バビロンⅡ」を買わないかと誘ってくる。
「ゴメン。ソレハモウ日本語訳ガ出テイルシ、私ハモウ買ッテイル。」と断る。前半は本当で、後半は嘘である。図書館で借りて読んだだけ。このシリーズも必読。

 話は脇道にそれっぱなしだが、ミステリの社会的地位は、日米の間に天地の開きがある。アメリカにおいては、ミステリとは単に読み捨てられる二流の読み物に過ぎないらしい。××中学校時代のALTは、「ミステリ?ハッ(笑)」と露骨にバカにしていたし、ハメットもチャンドラーも読んだことがなかったぐらい。
 で、貸してあげたのが持ち帰った「死の蔵書」。

翌日きいてみる。
「ドウダッタ?」
「……モノスゴク面白カッタ。らすとノ活劇ハ全然ツマラナイガ、現代文学ノ評価ニ関スル部分ハ素晴ラシイ。」ったく素直じゃないヤツである。結局、「それ、あげるよ」と親切な日本人を私は演じたのだったが。

Sino_zousho 現代ミステリの金字塔「死の蔵書」「幻の特装本」にくらべれば、「名もなき墓標」は正直数段落ちる。
でも『サーカス小屋が全焼し、多数の死者が出る。しかし、一人の女の子の死体だけは、なぜか引き取り手が現れなかった。』ことに始まる謎は、「目撃者/刑事ジョン・ブック」でおなじみのアーミッシュの世界(現代文明を否定し、19世紀的生活のままに信者が日々を過ごす原理的キリスト教の一派)も絡み、それなりに飽きさせない。
 重信房子は実はこんな女だったんじゃないか、と思える脇役のテロリストも魅力的。暑い夏の夜に、こんなミステリもいいかも。
あーそれにしてもハワイよりも暑いな日本は!(ってオレが行ったのは2月だってば)

ハワイ話その①
旅行の打ち合わせの時点から百姓たちはアニマルぶり全開。
「男11人で3泊があ。おい幹事、アレは3ダース買ておげよ。」アレ、とはつまりスキンのこと。まさか本当に幹事が買ってくるとは思わなかった。

ハワイ話その②
幹事が用意したもう一つの携行品。なんと日本酒3升。“松山千春がわざわざ足寄まで取り寄せている”東北泉。おかげで羽田の国際線出発ロビーは田舎の公民館状態に。

ハワイ話その③
ホノルル空港には向こうの早朝着。食菌会社に勤める堅気のアニマルは、税関で一人足止めをくらい、「両手を開いて見せて」と言われたらしい。小指の先の有無を確認されたのだ(笑)。ま、そんなルックスなんだが。

ハワイ話その④
 自分が船酔いをするなんて思いもしなかった。日程には一日フリータイムの日があって、こりゃホノルルをブラブラできる……と思ったが甘かった。他の連中はゴルフ組とトローリング組に分かれ、どちらもやらない私は「じゃあオレは一人で」「何言うてんなだ!団体行動だ!」と厳命が下る。仕方なく朝もはよから海釣りに向かうが、沖合に出るにつれて波が高くなる。しかも例によって思いこみの激しい私は世界地図を思い浮かべてしまい「あ。オレは今太平洋のど真ん中に漂っているのだ」と気づいた瞬間、猛烈な吐き気が。それからは船のトイレを独占して吐きっぱなし。我が人生において最も長い4時間になってしまった。
 釣果?なんか誰かがカジキだかを一匹釣ってたみたいだけど、わしゃ知らん。もう二度と、釣りなんかやるもんかと思ったハワイの一日。うぅ。思い出しただけで気持ち悪い。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「コフィン・ダンサー」THE COFFIN DANCER

2007-10-13 | ミステリ

Coffin_dancer  この不吉な題名の日本語訳は、“棺桶の前で踊る男”。前作の「ボーン・コレクター」は“骨を収集する男”だから、科学捜査専門家リンカーン・ライムのシリーズはこの調子で韻を踏んでいくのかな。(←この予想ははずれた)

 このシリーズ、よくよく考えるとシャーロック・ホームズを強く意識していることがわかる。

「まさか。今さらホームズ?」

と思われるかもしれないが、まあ聞いて。共通しているのは、神の如き(強引、といってもいい)推理を無理矢理展開する名探偵と、冒険活劇を前面に押し出した構成。

現代の常識からすると、ホームズは推理小説というより冒険小説の範疇に入るようだが、ディーヴァーのタッチも、ドイルに近いものがあると思う。推理の方のムチャクチャさは以下の通り。ライムが助手のアメリア・サックスに人質を連れて逃げた犯人を追いかけさせている場面。指示は無線で行われている。

Angelina_jolie 「血の上に足跡は?」


「何十個もあるわ。あ、ちょっと待って。業務用のエレベーターがある。血痕はそこにつながっている!この中にいるんだわ、ドアを-」


「いや、サックス、待ちなさい。
あまりにも簡単すぎる。」


「エレベーターのドアを開けなきゃ。」


落ち着いた声でライムが尋ねた。


「聞きなさい。エレベーターに続いている血痕は、涙形をしているんじゃないか?細くなったほうがいろんな向きを指しているんじゃないか?」


「彼(人質)はエレベーターの中よ!ドアにも血の跡がある。生死の境にいるのよ、ライム!人の話を聞いてるの?」


「涙形だろう、サックス?」なだめるような声。「おたまじゃくしみたいな形をしているんだろう?」

 かくして遠く離れた場所から犯人の卑劣な奸計を名探偵ライムは見抜きましたとさ……そんなもんわかるわけないじゃんか!このあたり、依頼人の風体や態度からたちどころに依頼内容まで看破してしまう前世紀の名探偵によく似ている。無駄な明晰さ、というか。

 ただ、この名探偵ライムは、ホームズとは歴然と違っている点がある。元ニューヨーク市警科学捜査部長だった彼は、捜査中の事故によって頸椎に損傷を負い、体に残された自由は、首から上の部分と、左の薬指に残っているだけの四肢麻痺というハンディキャップを抱えているのである。究極の安楽椅子探偵(行動よりも思索で事件を解決するタイプ)なのだ。

このために、ライムの神のような推理や、ワトソン役のサックスがモデルの経験もある美貌を誇る婦警(しかし神経症気味)というような嘘っぽさが不自然ではない作りになっている。

Ashley_judd  前作の「ボーン・コレクター」は犯人の残していくメッセージを、ライムが知力の限りを尽くして解読する一直線のストーリーで、これは見事な出来だった。自殺願望と闘い続ける探偵、という設定が犯人探しにも絡んでいて(あぶねー。危うくネタばらしだ)、事件解決とともに、ともあれ生き続けようと決心するライムと、支えようとするアメリアのドラマが次作への期待を高め……

……まさかこんなに面白いとは思わなかった。]

今回は盛り沢山のストーリー。裁判に出廷する3人の証人を、コフィン・ダンサーの刺青をしていることだけが知られている暗殺者から45時間守り抜く経緯と、そして後半はなんと航空小説になり、ラストのどんでん返しでいきなり本格推理の体裁を守るのである。やりすぎだとは思うけどね。

 脇役が相変わらずいい。名探偵の常としてエキセントリックでわがままなライムを手玉にとる介護士(前世紀の、執事にあたるだろうか)。余命いくばくもなかった妻のためにニューヨーク市警に転勤した南部出身の愚直な刑事。職業人としての誇りにあふれた連中が脇を固めている。暗殺者にしたってプロ意識の固まりで……あ、これ以上は説明できないな。ちょっとしたひっかけがあるから。したがって読後、最大の悪役として心に残るのは、保身と名誉欲に走る連邦検事補ということになる。こいつが政治家をめざしているあたり、よくある手なんだけど。

 この小説を読むにあたっては、「ボーン・コレクター」を先にしていただいた方が味わい深いと思いますが(サックスの成長がはっきりとうかがえる)、時間がたっぷりとある日にして下さい。あまりの面白さにページをめくるのがやめられず、業者との約束に遅刻してしまった私の失敗は繰り返さないように。文藝春秋の本は高いんだけど、それだけの価値はあります。図書館で借りておいて偉そうなことは言えませんが。

Charlize  映画化された「ボーン・コレクター」では、ライムをデンゼル・ワシントン、サックスをアンジェリーナ・ジョリーが演じて、柄にあったところを見せていました。

もっとも、デンゼル・ワシントンがやると自殺願望の側面は消えてしまうけれど、ハリウッド娯楽映画方程式の上では余計な要素だったのかもしれない。犯人を変えていることで批判も受けていたけれど、一つの解釈として私は有りだと思いました。

 ところで、これは私だけではないらしいが、アンジェリーナ・ジョリーとアシュレイ・ジャッド、それにシャーリーズ・セロンって、なんか、混同しませんか?写真を並べると確かに違うんだけど、どうも単体でみると「あら?こいつはどっちだっけ。えーとジョン・ヴォイドの娘(ジョリー)の方だっけか?」と迷ってしまうのだ。アイドルの区別がつかなくなると年を取った証拠だというけれど、あー俺もついにオヤジ入ってきたかー!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

花火の夜 ~ 最後の夜

2007-10-13 | まち歩き

Dora  この日に限らず、夜のコンビニはヤンキー入ってる連中のホームグラウンドだが、花火大会の夜はなお彼らの気合いが違っている。色とりどりのヘアーと浴衣のコーディネート(というよりハレーションだな)が味わい深く、花火の前に眼がくらみそうだ。

 十数年前、ある事情があって私は酒田近郊のモーテルをすべて回ったことがあったが(その結果は《庄内おもしろモーテルマップ》としてまとめ、仲間内でおおいに重宝されたものだ……あ、今度このWEBで公開しましょう。「アレの続き」特集以来こわいものはございませんので)、ある晩、酒田駅前のステーションホテルの経営者を私の車に乗せて、その婆さんを系列の別のホテルに連れて行く破目に陥ったことがある。今考えてもすごいシチュエーションだが、そのときにコンコンと説教されながら(「いーがー?彼女は大切にさねまねおんだぁ」)いろいろと伺った情報によれば、酒田においてホテルが満室になる夜は三つ。大晦日と、成人式と、そして花火大会なのだそうだ。私が“現役”の頃からそうだったのだからえらいことは言えないが、深夜まで外出できる数少ない機会であることと、やはり花火が若い連中を発情させている側面は否定できまい?

 その結果どうなるか。

 3年前だったか、例によってとびしま丸の発着場で花火を見ていた夜。焼とうもろこしの屋台に、息子と一緒に行列していた時のことだった。すぐ後ろに並んだヤンキー系カップル、小声で言い争いをしている。聞き耳をすますと女の子の方の発言がドラマそのもの。

「あたし……産むさげの

Mic どひゃー、思わず息子の耳をふさぎたくなってしまった。
恋愛において現役であることの辛さと哀しさが胸に迫る。独身時代に、当時の彼女と公衆電話で話していて(ああ当時携帯があったら)「なんか……来ないのよ」と言われてボックスの中で腰をぬかしそうになったことまで思い出してしまった。

 私の場合は、ただの生理不順で話はすんだが、あのカップルは今どうしているだろう。ヨチヨチ歩きを始めた子どもといっしょに、やはり花火を見つめているのだろうか。

 このようにして、酒田市民を拡大再生産(笑)するという予想外の成果まで挙げる花火大会。冷静に考えれば、企業の宣伝効果だけをとれば蕩尽といってもいい行事だが、十数万人を一度に興奮させうる娯楽なんてそうはない。エンターテイナーとしての花火師はもっと評価されていいし、不況もなんのその、もっともっと続いてほしいものだ。でもなあ、翌日のうちのグラウンドはゴミでいっぱい。お持ち帰りもよろしくたのむぜ、ヤンキー。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする