朝日新聞2001年11月13日付 第3社会面
「免職」の波 市町村にも
秋田県南部の町。管理職だった男性は町長から渡された辞令に目を見張った。
「免職」
勤続30年。定年まであとわずかだった。
手慣れた仕事も、2,500万円ほどの退職金も、思い描いていた将来も、あっけなく消えた。
その2日前の夜、仕事後、役場以外の友人と一杯やった。ビールと焼酎を数杯。2時間ほど自分の車の中で休憩して、ハンドルを握ってしまった。
検問中の警察官に止められ、酒気帯び運転がばれた。翌朝、上司に自己申告した。
「代行運転で帰ってもよかったのですが、2~3時間待たされると聞いて……。休んだからもう酔いはさめたかなと思ったのです。」
そして翌日。道交法による罰金5万円、1ヶ月の免停とは比較にならない重罰を下された。「停職か減給くらいかと思っていたんだ。甘かった。」今も後悔の念にさいなまれるという。
……この町は町職員出身の公務員倫理に厳しい町長の発案で99年10月から規定を改め、飲酒運転はたとえ酒気帯びでも免職の対象としている。
秋田県は98年10月、県職員によるひき逃げや酒酔い運転が相次いだため、前年の11月に全国に先駆けて「飲酒運転は原則懲戒免職」とした高知県の方針の後を追った。この波は市町村にも広がり、以降、県と5市町で3人が免職、6人が停職になった。
それぞれの立場から、コメントが載っている。
自治労本部。
「飲酒運転は許されないが、事故もなく自己申告しても免職というのはどうか。自治体間で処分に差があるのも問題だ」
全国交通事故遺族の会・井手政子理事
「酒飲み運転は『未必の故意』。死亡事故を起こしたら殺人罪を適用してもよい。秋田のような動きが全国に広がってほしい。」
斎藤文男・九州大学名誉教授(憲法学)
「公務員が一般より厳しく律せられるのは当然だが、飲酒事故で逮捕された職員と、酒気帯びを自己申告した職員が同じように免職では運用上問題がある。内部規定ではなく、他の不祥事への対応も含めて条例化を目指し、公の場で公務員倫理を論議すべきだ。」
「県民の見方」~某県議
「やらなければいいだけの話だが、家族のことを思うと可哀想。免職になることが分かっていて何でやるかなあ。時代の流れ。これまでが寛容すぎたのではないか。」
……この4月から、勤勉手当への成績率が導入されてしまいました。全国では山形を含む2県だけが阻止していましたが、さすがに耐えきれず、形はどうあれ導入だけはさせてくれとの県の意向を呑まざるをえなかった経緯があります。総務省のニラミもきつくなっていたし。
この件についてはあらためて特集しますが、その形とはとりあえず懲戒処分者への適用。おそらくもっとも多いケースは交通事故、違反ということになるでしょう。結果、反則金・行政処分・勤勉手当減額という三重の処分を受けることになる……そのことは確かに大きいといえます。しかし、それ以前にまず心していただかなければならないことがあります。その点を、事務職員部報から再録。
事務職員へのこの1冊①
「初等ヤクザの犯罪学教室」浅田次郎著 幻冬舎アウトロー文庫
地方公務員としての平和な日常をお過ごしの皆様に、別にヤクザへの転職をお薦めするわけではありませんが、これは特に若い事務職員必読であろうと思われます。
内容は浅田(蒼穹の昴)次郎お得意の大ぼらの連続ですが、その序講で“絶対に割に合わない犯罪”として「酔っ払い運転」を挙げている点が推薦に値するのです。
浅田によれば「酒酔い運転(酒気帯びも含む)」とは単に道交法上の呼称であって、酔っ払ってコツンと追突して相手がむちうちにでもなろうものなら、即「業務上過失致死傷」という刑法犯になってしまい、刑法犯である以上
→「現行犯逮捕」の規定にしたがって手錠をかけられ
→所轄警察に連行され
→必ず身柄は拘束され
→刑事に腰ヒモの先端を持たれたいわゆる「猿廻し」の状態で現場検証に引き出され……
つまり事故そのものは過失であっても、酒を飲んで運転したことは明らかに故意なので、飲酒運転による人身事故に不起訴はありえない、というわけなのです。その先は想像するだに恐ろしい展開が。
山形県教職員組合事務職員部報№291 1998.7.22.
……おわかりでしょうか。くどいようですが、事故には「過失」という要素が認められこそすれ(ここで組合が組合員を守ろうとするベクトルがはたらく)、しかし「飲酒して運転」の方は明らかに「故意」としてしか扱われないのです。現場検証、という貴重な体験をしたことがある私は(泣)、短くもなくなった人生の中で、あれほどプライドが傷つけられたことは無かったと断言できます。手当が減額される云々というレベルの話ではありません。
公務員に対する世間の目は日に日に厳しくなっていることもあり、心してハンドルを握りましょう。愛車を、凶器に変えないように。これはもちろん、自戒でもあるのですが。
【2002年5月17日発行 情宣さかた】