ケラーが今回依頼されたターゲットは、メジャーリーグの野球選手。球場へ足を運んだケラーは、その選手が通算四百本塁打、三千安打の大記録を目前にしていることを知る。仕事を逡巡するケラーがとった行動とは?上記の『ケラーの指名打者』をはじめ、ゴルフ場が隣接する高級住宅地に住む富豪、ケラーと共通の趣味をもつ男、集団訴訟に巻き込まれる金融会社役員など、仕事の手筈が狂いながらも、それぞれの「殺し」に向かい合うケラーの心の揺れを描いた連作短篇集。
(「BOOK」データベースより)
ニューヨークを描いて余人の追随を許さないブロックの、おなじみ殺し屋ケラーがなんと9.11にショックをうけて炊き出しのボランティアをやりますっ!
殺人を生業とする男が、その職業以上にテロに精神的不安を感じるあたり、ブロックがこのシリーズにおいてケラーにニューヨーカーを代表させている手口が透けて見える。ほとんど何も語らないからこそ、みんなが殺し屋ケラーに感情移入できる手法も切れ味をましている。殺人で得た報酬を彼が何に費やしているかを考えれば、誰もがケラーを愛さずにはいられない。不安の象徴ですよね。あ、誤解されそうだけどちびっこハウスに献金するとかそういうことじゃないですから。
あいかわらずみごとな筆致で、ケラーとドット(元締めのおばさんです)のかけ合いも楽しいが、どうやらブロックはシリーズの幕引きも視野にいれているようだ。さみしい。さみしいぞ。