「東京ボンバーズ」篇はこちら。
どうぞどうぞ、ここへおかけなさいな。相席は大歓迎。お若い方といっしょだとうれしいわ。わたしは毎日散歩の途中でこのカフェに寄るんですのよ。自動車の免許は持ってないからお買い物はぜんぶこのデパートのなかですませているの。だから街の中心から撤退なんかされたらたまらないわ。
え?言葉が庄内弁じゃないのは、名古屋で長いこと暮らしてきたからかしら。中学を出て、集団就職で名古屋の自動車部品をつくる工場につとめたの。でもね、毎日毎日おんなじ仕事をするのがたまらなくなっちゃって(笑)、ホテルに転職したのよ。名古屋駅前にある名門のホテル。そう!ご存じなのね。そこで客室係をやっていたのよ。楽しかったわー。有名人もたくさんお出でになってね。
いちばん思い出にのこっているのは森光子さんかしら。あの方は名古屋で公演があるときは必ずうちのホテルに泊まってくださるのよ。とてもきさくな方でね。ほら、芸能人って気むずかしい人が多いでしょう?でも森さんはね、フロントに必ず「ただーいまぁ」って声をかけてお入りになる。あたしたちにもすごく親切で、「劇場の楽屋に遊びにいらっしゃい」って。でも、そういうことをしちゃいけないことになってるから遠慮してたんだけど、どうしても行きたくなってクビを覚悟で遊びに行ったの。そしたら歓迎してくださってねぇ。でもね、次の日に森さんに「昨日はどうも」なんて上役の前で言われたらクビになっちゃうでしょう?そしたら森さんは心得たもので、知らんぷりをしてくださったのよ。
他にはね、ザ・ピーナッツもお世話したことがあるわ。そう、名古屋出身なのよあの二人は。でもねえ、言っちゃなんだけどお化粧を落とすと地味な顔でね(笑)。
あ、そうそう。力道山さんも来たわ。あの人はね、ルームサービスで食事を二人前用意して、あたしたちに「食べてけよ」って言うのよ。さすがにこれは危ないと思ったから遠慮したけど、同僚のひとりがその招待を受けちゃって……そのあとはねぇ(^o^)。
あら、もうお帰り?わたしは毎日この時間にこの店にいるから、またお会いしましょうね。約束よ?
……次回は「テレビの人」