PART38「ルーサン警部の犯罪」はこちら。
ある女性のプライドの物語。彼女は生涯においてただひとり愛した男を姉にとられ、その姉はいまも亡くなった彼との間にできた娘と無邪気にすごしている。原題はOld Fashioned Murder(古風な殺人)。
一族に遺された博物館が彼女の唯一の生きがい。赤字続きのために弟は閉鎖を考えており、ために彼女は弟を射殺する。トリックとして、姪が連れてきただらしない警備員を犯人に仕立て上げたのだが、彼女には本当に下衆(げす)な人間の考えることが理解できず、コロンボに矛盾を突かれてしまう。黄金のバックルはその決定的な証拠となる。
全篇を通じてヒッチコックのタッチが横溢。音楽も、観客心理をどうコントロールするかもヒッチのやり方を引用している。実は「殺人」という言葉を聞いただけで失神してしまう姉の存在もヒッチコックらしいユーモア。
階上に上流社会に棲む犯人、階下には世情に通じた刑事という構図もすばらしい。男をまだ「殿方」と呼ぶ女性がいた時代。
またしてもコロンボはぼんやり運転をしていて、パトカーにプジョーをぶつけてしまう。
「ごめんよー、ぶつけちゃって」
「なーに、こっちはびくともしませんよ」
この皮肉に気づかないコロンボの、どこが世情に通じてるのかってことなんだけど(笑)。おまけに70年代のロスで花粉症で苦しんでいるし、カリスマ美容師によって頭が……。
犯罪があばかれるのは、弟がつくった博物館の目録のテープによって。名刑事の推理で、過去にあったもうひとつの犯罪がうかびあがってくるあたりのクールさもヒッチコック風なのでした。
犯人を演じたのはジョイス・バン・パタン。「サイコ」のマーティン・バルサムの奥さんだった人でしたっ!なるほど。
Vol.40「殺しの序曲」につづく。