かつて「バイオハザード」を特集したとき、ゾンビフィルムの特徴をまとめてみた。
1.ヴァンパイアムービーのノウハウを継承できる
2.特に、さっきまで仲間だった人間が一転して襲ってくる恐怖を描くことができる
3.アンデッドだから、笑っちゃうぐらいグロテスクなメイクをしても可
4.同じくアンデッドだから、いくら殺しても倫理的な反撥を逃れうる
5.ジャンルムービーなのでビッグスターを使わなくてもすむ
6.必然的に製作費が安くあがる
……ところがこの作品はいくつかの点で違っている。そら恐ろしいほどに違っている。なにしろ主演がブラッド・ピットだし、製作費は2億ドルもかかっているのだ。
しかも、とにかくアンデッドたちの動きが速く、「生ける屍の死」を嚆矢とする“不自然であるがゆえにユーモラスで、しかも怖い”というゾンビ像から遠く離れている。
特にすごいのがエルサレムにおける高い塀によじのぼるシーン。わらわらわらとゾンビが集合し、人間(じゃないけど)ピラミッド型にゾンビ山が築かれていくのには笑った。モデルは明らかに蟻。「天空の城ラピュタ」のムスカのように「人間(じゃないけど)がゴミのようだ」と上から目線で語りたくなってしまいます。
金がかかっているからゾンビをすばやく描くことができたのか、速いゾンビを描くために製作費が高額化したのかは判然としないが、ゾンビ映画を違う地点にまで引き上げたのは確か。ただし、「ゾンビランド」のようにジャンル自体をパロディ化しているわけではなくて、あくまでストレートな恐怖譚にしているので油断しないように。
もっとも、「母なる自然は連続殺人鬼でもある」とご託宣をならべる若き学者が、あっという間に死んでしまうなど、多少のオフビートさはブラピの作品らしい。エルサレムの描写に政治的意図を感じる人もいるでしょうしね。
局地戦に矮小化されがちな作品が多いなかで、確かに「世界大戦」を名乗るだけのスケールを誇り、考え抜かれたサバイバル術などもさすがの出来。一級の娯楽作。にしても、いちばん不思議なのは誰がブラピをゾンビ映画に出演させたかだな。あ、プロデュースはブラピ自身か。お好きだったんだね(笑)