現実のやくざのかなりの部分に民族差別、差別が背景にあることを喝破したのは「仁義なき戦い」を書いた笠原和夫だった。
しかし知識では知っていても、日ごろそちらの方々とおつき合いがないものだから(おつき合いしたいわけではなくて)、実感することはなかなかできない。そのうえ、かなり微妙な問題なので、映画で、まして“実録”として描くのはきびしいだろう……
と思ったら、この作品はそこんところをひたすらきっちり描いていて、公開当時(1975年)も評判になっていた。わたしはキネ旬のバックナンバーで知りました。
主人公は鶴橋を根城にした在日やくざ花木(小林旭)。彼はその闘争本能をむきだしにして『犬ころみたいにゴミ箱をあさっていた』花木を育てた組長をも裏切り、結果として山口組傘下で頭角をあらわしていく。
花木には遼子(上村昌代……美人!)という愛人がいるが、間違えた傘を花木のアパートに届けに来た(ほんとにこんな設定です)ために、敵対するやくざにレイプされたケイコ(小泉洋子……すげー美人!)と愛し合うようになる……かたぎのケイコが花木にのめりこんでいく背景に、なんらかの差別問題がからんでいるのはうっすらとうかがえる。
とにかくこの映画の登場人物はみんな何かの鬱屈をかかえていて、金光という、いかにも在日っぽい名のやくざ(梅宮辰夫)は、負傷して花木の血を輸血されると
「おんどれの血がもらえるか!豚の血の方がましじゃ」
と吐き捨てる。花木はひとこと
「安心せぇ。ワレとオレとは同じ血ぃや」
花木の相棒として金光が台頭すると、むかしからの仲間である西田(伊吹吾郎)は
「(金光を選ぶのは)おれが日本人だからですか」
と絶望し、シャブに走る。
花木自身も、使い捨てであることを半分承知しながら山口組の先頭に立って突っ走る。しかしその果てに……
任侠映画の職人だった山下耕作監督作品だから、実録ものとはいえ様式美ありあり。そろそろ太り始めた小林旭が、でも渋くて素敵。出所したときの会話は有名。
「兄弟、ちょっと太ったんやないか」
「もっそ飯(牢獄用ご飯)のおかげでな」