映画批評誌「キネマ旬報」に17年間にわたって連載されたテレビ時評。これがどれだけの偉業かというと、なにしろそれまできちんとしたテレビドラマに対する真摯な評論が(単なる印象批評や、ネタとしてテレビを“消費する”コラムはあっても)まったく存在しなかったところへいきなり屹立したあたり。しかも高いレベルを17年間維持し続けたのである。
それまでのテレビ評とは、新聞や週刊誌の片すみで、多くが匿名で行われ、しかも質がおそろしく低かった。
いまでもおぼえている。高校の図書館で週刊朝日を閲覧していたら(オヤジくさい高校生だったなあ)、そのころ熱中していた「前略おふくろ様」(日テレ)がとりあげられていて、あの田中絹代が亡くなった(設定でも私生活でも)回に対して
『ドラマの最初から最後まで葬儀に終始している。実際に葬儀に出ている人はどう思っただろう』
なんとバカな。最初から最後まで葬儀に終始するからこそ素晴らしかったのではないか。そんなレベルでしかドラマを語れないのかと生意気な高校生は呆れかえった。ほんと、バカじゃないの。
樋口は語っている。
「昔から局に出入りしているロートルの放送評論家と呼ばれる方々が手掛ける夜郎自大なテレビ論壇というものがあり、作り手は賞をもらうために、彼らに平身低頭するという図式があった。本当にことごとくくだらない。」
しかしそんな未開の地へ樋口は単身殴りこんできた。圧倒的な鑑賞眼と筆力とともに。この17年間のドラマを(リアルタイムだからこそ)渋く、強く、そしてきびしく語っている。
1962年生まれの樋口はこう規定している。50年代末から60年代はじめに生まれた世代は、勃興期の(作り手の熱が伝わる)テレビをあびるほど見た幸福な世代だと。1960年生まれのわたしは完全に同意する。以下次号。
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