主演尾野真千子、脚本・監督・編集が石井裕也とくれば、なんで見逃していたのか。
夫(オダギリジョー)を高齢ドライバーの運転ミスによって失った良子(尾野真千子)は、謝罪もなかったことに憤り、賠償金の受け取りを拒否する。しかし経営していたカフェはコロナのためにたたまざるをえず、夫の愛人の子への養育費も支払い続けている。
生活のために風俗で働く(けっこうすごい描写)彼女には、息子がいじめられたり、むかしの同級生にだまされたり、理不尽がことばかりが起こる。
しかし彼女は常にこう言って笑っている。
「まあ、がんばりましょう」
あらゆる不幸に苦しめられながら、それでもポジティブな良子の姿をこそ石井監督は描きたかったのだそうだ。コロナに苦しむ観客たちに向けてのメッセージ。彼女が傷ついていないはずはないのに。そのきつさを描く石井脚本がすごい。
尾野真千子はこの作品でその年の主演女優賞を総取りした。彼女のキャリアには驚かされどおし。河瀨直美に中学生のときに靴箱の掃除をしているところをスカウトされ「萌の朱雀」でデビューしたのはすでに伝説。
彼女を初めて見た「リアリズムの宿」ではいきなり全裸で疾走して登場。
原田芳雄と共演した「火の魚」(NHK広島制作)での
「わたくし、もてた気分でございます」
というセリフに泣かされ、この演技が朝ドラ「カーネーション」の主役につながる(のかな?)。以降も「外事警察」「そして父になる」「ヤクザと家族」と名演をつづけている。そんな彼女の、これは代表作になるだろう。
そうか尾野真千子ももう四十代か。いい感じで年齢を重ねているので、これからもわたしたちを楽しませてくれることだろうと思う。
うん、がんばりましょう。