いつかこんな日が来るであろうことは誰だってわかっていた。でも、“訃報”という言葉がこれほど似つかわしくない人もめずらしいと思う。
八千草薫。
どこか浮世離れしているお嬢様、世間の痛みから目を背ける奥様……的な役柄が多かったせいだろうか。
でももちろん、彼女の代表作は不倫ドラマ「岸辺のアルバム」だ。しかしあの山田太一の傑作にしても、八千草薫が演じたからこそ評判をよんだ側面は確かにあった。
わたしは学生時代に狛江に住んでいた。多摩川沿い。「岸辺のアルバム」の舞台となった場所。おかげで、あ、ここが八千草薫が立っていた小田急線のホームだとか、風吹ジュンがいたサーティワンはここだな、とリアルタイムで感じていたっけ。
「阿修羅のごとく」「前略おふくろ様」「うちのホンカン」……主戦場がテレビであったことは疑いないけれども、「ガス人間第一号」「田園に死す」「ディア・ドクター」など、映画でも光り輝いていた。ぎらつく光ではなく、あくまで淡い光で。
こういう女優はちょっと他に思いつかない。だから彼女はひとりで
「八千草薫」
というジャンルを成していたのではないかと思うぐらいだ。だからこそ、彼女の退場は日本の芸能界にとって痛恨事。淡い光だからこそ、ひたすら美しかった。大好きでした。ご冥福を、お祈りします。
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