毎日新聞に連載された、ある姉妹の四十年以上にわたる物語。
短大の被服科にすすむつもりの姉の理佐は、入学金を母親の恋人に使われてしまう。その恋人にきつい扱いを受けている妹の律を連れて、理佐は家を出る。行き着いたのはそば屋で、そこで働く条件は、ある鳥の世話をすることだった……
読み進めながら、これはいったいどんな文脈から出てきた小説なのだろうと思った。登場人物たちはすべて(いじわるな母の恋人ですら)キャラが立ち、姉妹をとりまく状況から、こうせざるをえないだろうなと常に納得しながら読むことになる。圧倒的な幸福感とともに。書いてあることはけっこうハードなのだが。
なにしろ鳥が最高なのだ。ヨウムという種類。人間のことばをよくまねする。どころかロックを歌ったりするのだ。REMとか(笑)。
あまりにも面白い存在なので、想像上の鳥類で、だからこの小説は一種のファンタジーでもあるのかと思ったら、なんと実在したんだね。知能は人間でいえば3才ぐらい。50年程度は生きるという長寿である。
ネネという名のそのヨウムは、蕎麦の実をひく水車小屋で、臼が空転しないように蕎麦の実を入れるタイミングを教えるという大切な仕事を担っている。姉妹は、その鳥の世話をしながら、静かに生活していく。いっしょに観に行く映画がジーナ・ローランズの「グロリア」なのも渋い。
谷崎潤一郎賞受賞作品。本の雑誌上半期ベストワン。対象年月に入っていなかったので候補にもならなかったが、次回の本屋大賞のガチンコ大本命だ。そしてだいぶレベルは下がりますが(笑)、わたしが選ぶ2023年のマイベストはこの小説で決まり。もちろんうちの図書室にも購入してもらいました。
それにつけても、至福の読書体験だった。必読!
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